望んでいた場所にはたどり着くことができなかった。でもだからこそ彼は再び前を向いて走り始めている。「この先に行くには、今までと同じではダメだとわかった」。ラグビーワールドカップの激闘を終え、帰国した日本代表・稲垣啓太が現在の心境を語った。
松島幸太朗、福岡堅樹とともにトークイベントに登場
ラグビーワールドカップフランス大会は、南アフリカが1点差でニュージーランドを退け、史上最多4度目の優勝を遂げた。
その日、日本代表としてW杯を戦った稲垣啓太は、東京・豊洲にいた。彼は日本時間の早朝に行われた決勝戦をテレビで観戦したという。
「雨だったし南アフリカ優位だと思っていたんですが、始まってみたらすごいクロスゲーム。観ている人たちはおもしろい試合だったと思います。
でも僕の場合、どうしても自分だったらという気持ちになってしまうので、単純に楽しめない。選手の緊張感がわかってしまうんです。でもだからこそ決勝で戦っていた2チームのメンタルやフィジカル、すべてにおける強さ、すごさもわかる。
自分たちにはまだ勝つための準備が足りなかった。この先に行くには、あの場所に立つには、今までと同じではダメだと思いました」
この日、彼が参加していたのは「DEFENDER EXPERIENCE TOKYO 2023」。
DEFENDER(ディフェンダー)の魅力をさまざまな体験を通して伝えるこのイベントで、同じく代表の松島幸太朗や元代表の福岡堅樹とともにトークショーを行った。
稲垣は、2020年からジャガー・ランドローバーのブランドアンバサダーを務めている。
「DEFENDERは、武骨さというか、男くさいところが気に入っています。
昔のゴツゴツした感じもいいですけど、その雰囲気は新型にも受け継がれている。初めて乗った時、最初は乗り心地が硬くて重いのかなと思っていたら、まったくそんなことなかったので驚きました。
静かだし、乗り心地がいいし、街でも普通に乗れる。それでもドアを閉めた時のズバンって感じの音とか、やっぱりDEFENDER。そういうところが好きです」
ラグビーワールドカップの激闘から帰国。しばらく休息の日々を過ごすのかと思いきや、そうでもないらしい。
「ラグビーから完全に離れたのは4日間だけです。特別なことはなにもせず、荷物を整理したり、家で妻と食事をしたり、テレビでやっていればW杯の試合を観たり。
その後は、もうフルタイムでトレーニングをしています。12月からリーグワンの試合が始まりますし、チームはすでに動いていて、仕上げた状態で合流しなければならないので」
栄養が7、トレーニング3
オンオフの切り替えはどのように行っているのだろうか?
「よく切り替えが上手いって言われるんですけど、実際は切り替えるとかそういう感覚がないんですよ。
ラグビーは自分の仕事。だから常に全力で取り組むわけです。そこに切り替えとかモチベーションとか関係ない。
モチベーションが上がらないみたいなことを言う人がいるじゃないですか。僕は、それがよくわからない。
フィジカルは試合にあわせてピークを作っていきますが、メンタルは関係ない。常に全力でやるだけですから、ピークもなにもないです」
戦い続ける強靭な肉体を維持するため、トレーニングはもちろん栄養にも気を使っているという稲垣は、サプリメントの開発にも参加している。
「たとえば今はシーズンが始まる前。この時期にやるべきトレーニングがあって、摂るべき栄養素がある。時期によって、極端にいうと、日によっても必要な栄養素が変わるんですよ。
どういう体を作りたいのか、どういうパフォーマンスをしたいのか、なにを伸ばしたいのか、それによってトレーニングのメニューも変わるし、栄養素も変わる。それをちゃんと理解して、ちゃんと正しく摂取する。
僕の場合、トレーニングよりもむしろ栄養の方を大事にしているんです。栄養が7、トレーニング3ぐらいのイメージ。
乾いた筋肉に負荷をかけ続けると、怪我をしがち。筋肉にちゃんと必要な栄養素を補給してあげなきゃいけないんです」
ハードに戦い続けるからこそ、繊細に自分自身のパーツに向き合う。そんなところが進化し続けるDEFENDERと重なるような気がした。