2023年夏、クルマ好きが驚いたニュースのひとつが、ランドクルーザー“70”が再び日本で販売されるようになるというものだった。なぜ“70(ナナマル)”は帰ってくるのか? ■連載「クルマの最旬学」とは
サプライズで発表された、40年モノの「ナナマルの復活」
2023年8月2日、トヨタ・ランドクルーザー“250”のプロトタイプがお披露目された。これはいままでランドクルーザー・プラドと呼ばれていたモデルの後継車種で、早くも「争奪戦必至」という声があがっているほど好評だ。
けれども、マニアの間ではこのニューモデルよりも、トヨタがサプライズで発表したニュースのほうが話題となっていた。ニュースとは、日本での販売が途絶えていたランドクルーザー“70”を、再び国内市場に導入するというもの。1984年にデビューしたランクル“70”が、40年近くを経たいま、新車として店頭に並ぶようになるのだ。
覚えておきたい3種のランクル
ここで、「プラドとかナナマルとか、ようわからん!」という方のために、ランドクルーザーのモデル体系を簡単に説明しておきたい。ランクルは、3つのラインで構成されている。
フラッグシップは、ステーションワゴンの役割を担う快適で豪華なランドクルーザ“300”。こちらは2021年にフルモデルチェンジを受け、グレードによっては「納車まで5年待ち(!)」と言われるほどの大ヒット作となっている。
悪路走破性能を維持しつつ、日常での実用性を考慮したモデルが、今回発表されたランドクルーザー“250”。日本ではこれまでプラドと呼ばれてきた車種で、トヨタのなかではライトデューティモデルと位置づけられている。
そして高度な走破性能と耐久性を誇るヘビーデューティモデルという位置づけが、ランドクルーザー“70”だ。1984年にランドクルーザー“40”の後継として登場した“70”は、2004年に日本での販売を終了する。けれどもグローバル向けの生産は続けられ、“70”は世界中で働くクルマとしていまなお現役バリバリだ。
2014年、デビュー30周年を記念して、ランクル“70”は約1年間の期間限定で受注を受け、日本で再販されている。そして2023年、もう一度、“70”が帰って来る。
デビュー当初の生まれたての“70”と、アラフォーになった“70”の写真を並べてみると、基本的なフォルムや特徴的な丸目のヘッドランプはそのままに、フロントまわりの意匠が変わっていることがわかる。
具体的には最新の“70”のほうが、ラジエターグリルがガバッと開いている。これはおそらく、かなりの熱を発生する排気量2.8ℓのディーゼルターボエンジンを効率的に冷却するためだろう。フロントマスクが変化したことには、1984年当時は考慮されていなかった、歩行者保護という性能が求められることも関係しているはずだ。
トヨタの礎を築いたのがランクル
それにしても、日本市場でそれほど需要があるとは思えないランクル“70”を再導入する理由はなにか? 発表会の場では、「原点回帰」という言葉で説明されていた。SUVブームのいまだからこそ、世界中の現場で働くクルマとして活躍してきたランクルの原点に戻ろう、という意思表明だと理解した。うちはSUVブームの何十年も前から本気でつくってますよ、スキーやキャンプなんかは余技ですよ、ということだろう。
そもそもランクルは、トヨタにとって特別なモデルだ。
1950年代、トヨタはランクルとクラウンの輸出を開始する。けれどもクラウンは、パワーが足りないなどと酷評され、鳴かず飛ばず。いっぽうランクルはパワフルで壊れないと、世界中で高く評価されるようになる。はたしてランクルは、「どこへでも行き、生きて帰ってこられるクルマ」と呼ばれるようになり、トヨタの収益とブランド力の両方を引き上げた。つまり、1兆円の利益をあげるグローバル企業の原点は、ランクルなのだ。
みなさんも、胸に手をあてて考えてみてください。
これから灼熱の砂漠を12時間かけて横断します。もしクルマが立ち往生したり空調が壊れたら、命に関わります。目の前にランクルとレンジローバーとゲレンデとカイエンが用意されていますが、あなたならどれを選びますか?
ここまでお読みいただき、写真をご覧になって、「ランクル“70”、かっけぇー!」と思われた方に、1本だけ釘を刺しておきたい。しかもドスンと、かなり強く、深く。
実績のあるエンジンを積み、6速のオートマチックトランスミッションを備え、運転支援装置もアップデートされているけれど、基本設計は80’sということは忘れてはいけない。
2014年にランクル“70”が最初の復活を遂げた時、ゴワゴワするフィーリングと、上下に揺すぶられる乗り心地に、やっぱり“70”が真価を発揮するのはオフロードだと痛感した。泥濘路や岩場では頼りになるかもしれないけれど、舗装路の快適性は、最新モデルの足元にもおよばない。
ただしあれから10年近くが経っているわけで、もしかしたら快適性も……、と淡い期待を抱く。いずれにしろ、再会が楽しみだ。2023年冬には日本の道を走り出すという。
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サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。