カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載。第44回は「睡眠」。睡眠の問題は、“眠れない”という悩みから重篤な症状まで幅広い。新たな治療法や検査法なども含めて筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長で睡眠研究の第一人者・柳沢正史先生に聞いた。

睡眠不足と不眠症。現代人の見過ごされがちなリスク
堀江貴文(以下堀江) 日本人は世界一睡眠が少ないとか不眠症が多いとか、睡眠関連の話題が注目され続けていますね。
柳沢正史(以下柳沢) そうですね。まず、不眠と睡眠不足が混同されがちですが、まったく違うものです。「睡眠不足」には定義があって、「その人にとって、十分な睡眠時間を確保しない生活習慣を続けている状態」で、診断では睡眠不足症候群になります。
何時間以下、という定義はありません。睡眠不足の自覚がない人も多いのですが、睡眠不足症候群の判断材料は3つ。昼間の耐えられない眠気、平日と休日の睡眠時間に2時間以上の差があること。そして、昼間に寝落ちするまでの時間です。寝るまでの時間を「睡眠潜時」というのですが、昼間に8分以内なら睡眠不足。「どこでもすぐに眠れる」なんて言っている人は、ほぼ全員、睡眠不足ですね。
それに対して「不眠」は、眠りたいのに思うように眠れない、という訴えです。また、「自分はいい睡眠がとれている」と思っている人の4割に睡眠障害、例えば睡眠時無呼吸が見つかります。
命に関わる睡眠時無呼吸症候群の最新治療法
堀江 睡眠時無呼吸が最近すごく注目されている理由は?
柳沢 私含め、多くの専門家が警鐘を鳴らしているからでは。
堀江 軽い病気じゃないってことですね。
柳沢 睡眠時無呼吸は、寝ている間、いびきをかく途中で息が止まります。ひどいと1分半も止まって、血中酸素濃度が70%ぐらいまで下がります。ひどい人は1時間に50〜60回、1分に1回は息が止まっている状態になります。すると脳が覚醒反応を起こし、身体に深呼吸をさせて酸素を取りこもうとするんです。つまりひと晩中、息が止まっているか、深呼吸しているかどちらかの状態です。だから、ぐっすり眠れていないんです。
堀江 それが続くと?
柳沢 当然ですが、昼間に自覚的に眠くなります。もっとひどいと、いつの間にか寝落ちして、事故を起こすことも。もうひとつ大きな問題があって、重症の睡眠時無呼吸は血中酸素濃度が頻繁に70%まで下がってしまうので、身体に非常に負担がかかります。 コロナ患者で70%だとICU行きです。
堀江 おぉ。それでも自覚のない人が多いんですね。
柳沢 だからほったらかしになる。そして脳卒中、心筋梗塞、大動脈解離などの致命的な血管障害が、10年間で2割ぐらいの人に起きてしまいます。非致命的なものも入れると5割近く。後遺症も残るので、重症の睡眠時無呼吸は危険です。
堀江 治療法は?
柳沢 最も標準的な治療は、寝るときにCPAPという治療器を装着すること。鼻を覆う小さなマスクから弱い風のように空気を送ることで気道が狭まらないように、息が止まらないようにする対症療法で、根本的な治療ではありませんが。
堀江 対症療法以外に治療法はないんですか?
柳沢 ないです。CPAP以外だと、下顎を少し前に出した形で固定するマウスピースを装着する治療法があって、舌根が気道のほうに落ちるのを防ぎます。
堀江 今、「睡眠歯科」が流行っているらしいですね。
柳沢 はい。増えていますね。睡眠歯科で重要なのは睡眠時無呼吸の治療で、そのマウスピースも診断後に睡眠歯科で作れます。他には、数年前からハイテクな治療法が保険適用されました。喉咽頭周辺の筋肉を支配している舌下神経に電極をつけて、常に呼吸をモニターするんです。
堀江 神経に電極をつける!?
柳沢 はい。無呼吸を感知した途端に覚醒しない程度の弱い刺激を舌下神経に送って、咽頭の奥に落ちた舌根を戻して気道を開かせます。電極やデバイスを皮下に埋めこむので手術が必要ですが、デバイスで自動的に呼吸を感知して刺激するので、装着などの手間がかからないという利点があります。
堀江 その治療は重症者が対象ですか?
柳沢 はい。医師の診断で。中等症以上で、CPAPが辛くて使えないという人に使います。
堀江 空港の手荷物検査で引っかかりません?
柳沢 もしかしたら引っかかるかもしれませんね。
堀江 MRIも受けられなくなるんじゃないですか?
柳沢 MRIとは互換性があると思います。睡眠時無呼吸になる人はメタボ気味で将来MRIが必要になる人が多いので、チタンなどで作ってあるかと。
堀江 電源は?
柳沢 バッテリーなので何年かに1回換えます。ペースメーカーと似たような感じです。堀江さんは睡眠時のデータは取っていますか?
堀江 測ってますね。最近はアップルウォッチでも測れるようになっていて、心房細動や不整脈はありませんが、飲酒後の睡眠はあまりよくなさそうです。
柳沢 酒を飲んだ夜は、睡眠時無呼吸の症状も悪くなります。飲酒日と飲まない日の比較検査をした方がいて、飲酒しない日は無呼吸は1時間に8回だったのに、飲酒日は24回に増加していました。しかも、レム睡眠中に起きている。レム睡眠では身体の力が抜けるので、その時に仰向けでいると、舌根が落ちて気道を塞いでしまいます。(※レム睡眠:睡眠中にまぶたの下で眼球が速く動き、身体は脱力していて脳が夢を見る状態)
堀江 じゃあ、横向きに寝るのがいいんですか?
柳沢 はい。横向きだといびきも改善するし、睡眠時無呼吸も起きにくくなります。
堀江 そっか、レム睡眠の時に無呼吸になりやすいのか。僕、レムは少ないんですよ(スマホの睡眠データを見せる)。
柳沢 ある論文によると高齢者の場合、平均してひと晩の睡眠の20%がレム睡眠で、そのパーセンテージが1減るごとに認知症のリスクが9%増えるそうです。でも、堀江さんくらいなら大丈夫かな。うちの会社「S’UIMIN」の「睡眠脳波計測」(※記事上部の写真)を受けると、もっと詳しく、医療レベルの精度でわかりますよ。
堀江 ぜひ受けたいですね。

柳沢正史/Masashi Yanagisawa
1960年東京都生まれ。筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長。31歳で渡米し、24年にわたり研究室を主宰した。2010年に内閣府 最先端研究開発支援プログラムに採択され、筑波大学に研究室を開設。2017年、スタートアップ「SʼUIMIN」を起業。紫綬褒章、朝日賞、ブレークスルー賞、クラリベイト引用栄誉賞など受賞多数。メディア出演多数。
堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。著書も多数。本連載をまとめた書籍『金を使うならカラダに使え。』が好評発売中。
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