2024年3月、現役引退を決断した長谷部誠。2011年に発刊され、ベストセラーになった自著『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』の一部を抜粋・再編集してお届けする。第6回。#1/#2/#3/#4/#5/
夜の時間をマネージメントする
僕は電気をつけたまま寝たことがない。本を読みながら、テレビを観ながら、ゴロンと横になって、いつの間にか寝ていたということがない。これを言うといつも驚かれるが本当だ。
一日が終わって、家に帰ると誘惑がたくさんある。特にひとり暮らしであれば他人の目がないから、いくらでも自由にできる。夜更かしして小説を読んだり、日本で録画してもらったお笑い番組を観たり、ゲームをしたり。だらだらしようと思えばいくらでもできる。別の章でも書いたが、カズさん(三浦知良)は会食していても、自分が決めた時間には切り上げるし、それは事務所の先輩、俊さん(中村俊輔)などもそうだと聞く。
よく取材などで、
「大一番で力を発揮するためにどうすればいい?」
と聞かれるが、僕はそのときに「平穏に夜を過ごし、睡眠をしっかり取る」と答える。
寝るという行為は意外と難しい。目をつむっても思いどおりに寝つけないことだって多々ある。だからこそ、普段から「いい睡眠」を取るために夜の時間を自分自身でマネージメントできているかが鍵になる。
特にワールドカップのような4年に1度の大舞台になると、緊張や興奮もいつも以上のものになる。正直、僕も大会期間中にきちんと寝られるか不安はあった。大丈夫だとは思っていても、いざ試合前日になると寝られないという可能性もゼロではないからだ。
だから僕は「寝るまでの1時間」の使い方に徹底的にこだわった。「いい睡眠」に自分を持っていく行動パターンができていれば、大一番の前日も自然と眠れるはずだと考えたからだ。ワールドカップのとき、僕が「寝るまでの1時間」をどう過ごしていたか、順番に書いてみたいと思う。
①リラクゼーション音楽を流す。
寝る1時間前になったら、パソコンのiTunesに入れておいたリラクゼーション用の音楽を流す。僕が気に入っているのが『深き眠りへ…』というCDで、波の音や川の流れの音とともに癒やし系の音楽が流れるというもの。部屋のなかにゆったりとした雰囲気を作ることができる。
②お香を焚く。
クンバ社の「ハッピー」という種類のお香に火をつけ、香りを部屋のなかにくゆらせる。普段ドイツの自宅にいるときにも愛用しているもので、和のテイストを保ちつつ、バニラのような甘さがミックスされたお香だ。この香りをかぐと気持ちが少しずつ鎮まっていくような感覚になる。
③高濃度酸素を吸う。
ワールドカップ期間中、岡田監督は選手に対して、「寝る前にできれば高酸素吸入器を約30分つけるように」と指示していた。朝、昼、晩の一日3回の吸引が義務づけられていて、高濃度の酸素を吸うことで回復力をアップさせるのが狙いだった。
④特製ドリンクを飲む。
夜食がわりに飲んでいたのがビタミンC、ビタミンE、ルテインなどを水に混ぜて作る「長谷部家特製ドリンク」だ。甘さがないので決しておいしくはないけれど、2、3歳からほぼ毎日飲み続けているので、ホッとする味だ。
⑤アロマオイルを首筋につける。
就寝直前にはニールズヤードレメディーズ社の「ナイトタイム」というアロマオイルを首筋につける。サンフラワー油にカモミールローマン、ネロリなどの精油やローズ油がブレンドされていて、ほのかに甘く、それでいて森のなかにいるような爽やかな香りがする。
⑥ 耳栓をする。
仕上げは耳栓。普段所属するヴォルフスブルクでは試合前日のホテルはひとり部屋ではなく、チームメイトとの相部屋だ。なかにはいびきがうるさい選手もいるし、夜更かしをする選手もいる。そこで僕は、前泊のときは耳栓をして寝るようになった。それがいつの間にかひとり部屋や自宅でも耳栓をして寝る習慣になった。
南アフリカでは、だいたい夜9時くらいから寝る準備を始め、10時にはベッドに入るようにしていた。大会中は寝つけないことが一度もなかった。自分でも不思議なくらいに快眠でき、毎日10〜11時間は寝ていた。
睡眠は普段からのリズムが大切で、大一番の前日に急に「いい睡眠をしよう」と思ってもうまくいかない。勝負所で結果を出すためには、日々のリズムを普段からどれだけ整えられるかにかかっている。