サッカーJ2リーグ・FC町田ゼルビアの黒田剛監督(くろだごう・52歳)が語る、組織再生術、独自のリーダー論、Z世代とのコミュニケーション術など、多くのビジネスパーソンにとっても示唆となるであろう、チームマネジメント論をまとめて紹介する。※2023年5月掲載記事を再編
2. FC町田ゼルビア躍進の立役者・黒田剛監督、プロでも高校でも貫くリーダー論
3. 松木玖生を育てた黒田監督流、Z世代の才能の伸ばし方「悲劇感を揺さぶれ」とは
1. J2町田の快進撃の理由! たった数ヵ月で再生させた黒田剛監督の『原理原則の徹底』とは
誰がこの快進撃を予想しただろうか。
J2リーグ第16節を終えて、単独首位のFC町田ゼルビア。東京都の南西部、人口約40万人の町田市を拠点としたプロサッカーチームである。
今シーズンからチームを率いるのは、黒田剛監督だ。
黒田監督は、青森山田高校のサッカー部監督を務めた28年間に、3度の高校サッカー選手権優勝を含め、計7度にわたり日本一のタイトルを獲得。また、人格者としても知られ、監督を慕って全国から多くの選手が入部する。そのなかから、柴崎岳(日本代表、スペイン・CDレガネス)や松木玖生(U-21日本代表、FC東京)など世界で通用する選手を生んできた。まさに「名将」の称号にふさわしい監督といえる。
その高校サッカーの名将が2022年、Jリーグの監督に挑戦することが決まり、大きなニュースとなった。当初は「高校とプロではレベルが違う」「Jリーグを甘くみている」など批判的なコメントやSNSの書き込みもあったが、開幕戦から6連勝などを挟み、勝ち点「36」で首位(第16節 2023年5月18日現在)。特筆すべきは第16節を終えて7失点というリーグ最小失点。昨シーズンは50失点でリーグ15位という低迷で終わっているゼルビアの守備力は、今季大きな変貌を遂げた。黒田監督はどうやって短期間で組織を蘇生させたのだろうか。
2. FC町田ゼルビア躍進の立役者・黒田剛監督、プロでも高校でも貫くリーダー論
——高校とプロチームの「監督」の違いはどう感じていますか?
黒田 30年前と、20年前と、10年前と、5年前と、今とではそれぞれ違います。選手が違うし、自分の存在意義も違いますし、また注目度も違うし、期待度も違う。プレッシャーや孤独感は今がピークです。当事者でないとわからない重圧や不安に常に追われている感覚が生活として続いていくわけで、どこの監督も同じだと思いますが、目に見えない恐怖と日々戦っている状況だと思います。
ひとつ間違えれば誹謗中傷されることもあり、特にプロチームの監督になってからは多いですね。メディアがたくさんいる世界に飛び込んだことで、試合の勝ち負けだけでなく、ファン・サポーターや相手チームのファン・サポーターとの関係性も考えると、改めてこの仕事の難しさを感じます。
——監督という職業の面白さは?
黒田 監督であること自体には意味はありません。ただチームというひとつの組織の中でリーダーとしてチームの一体感を高め、ひとつの作品を作っていく面白さや魅力、やり甲斐は大いにあると感じています。
チームメンバーとのコミュニケーションを大切にし、相手チームとの関係性も含めて、共に仕事をするための信頼関係を築くこと。また、自分自身を成長させ、信頼されるリーダーになることが、監督としての存在意義だと感じています。選手と心を通わせ、共に戦い、勝利のために良い時間を共有し、人の心に寄り添えるリーダーであることを常に目指しています。
3. 松木玖生を育てた黒田監督流、Z世代の才能の伸ばし方「悲劇感を揺さぶれ」とは
——現在FC東京で活躍する教え子・松木玖生選手(U-21日本代表・20歳)、高校サッカー出身としてはクラブ史上初となる開幕戦先発デビューを果たしました。黒田監督は松木選手のようないわゆるZ世代と呼ばれる若い選手とのコミュニケーションが上手いです。才能の伸ばし方も。その世代との関係性で悩んでいるビジネスパーソンも多いですが、秘訣は何でしょうか。
黒田 Z世代の人たちは周囲からもっと評価されたいと思う気持ちが強い傾向にあると感じています。そういうなかに能力の高い人材もたくさんいるのが今の時代です。そしてトップダウンで強制的に仕事をさせられることも残業も嫌だし、プライベートと仕事を混同させることも嫌いです。休暇も取りたい。自分の権利を守りながらも、ある程度の自由度を持ってワークライフバランスを保ちたい。そんな世代をコントロールするのは非常に難しい局面もありますが、実は自らの感覚を変えるだけでそんなに難しいものではない。
私が意識しているのは「感情」をコントロールすること。いくつかある感情のなかでも特に「悲劇感」は、人の心や行動を強く動かす要素のひとつです。
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