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2024.05.19

「愚痴はいらない」長谷部誠が現役22年間、心を整えられた理由

2024年3月、現役引退を決断した長谷部誠。2011年に発刊され、ベストセラーになった自著『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』の一部を抜粋・再編集してお届けする。第2回。#1#3#4#5#6 ※順次公開予定

ピッチ外から見守る長谷部誠/長谷部誠『心を整える』/抜き出し②

マイナス発言は自分を後退させる

サッカーというのは、いろいろな要素や人間が複雑に絡み合っているため、ミスを人のせいにしやすいスポーツなのだと思う。

チームメイトに走らなかったやつがいたから負けたとか、あいつがドリブルで抜かれたから失点したとか、いくらでも責任を押しつけることができてしまう。

特に監督のせいにするのは簡単だ。

「監督は自分のことを分かっていない」

などと言うのは、試合に出られない選手の定番の愚痴だ。僕は愚痴を言わないようにしている。愚痴というのは一時的な感情のはけ口になって、ストレス解消になるのかもしれないけれど、あまりにも安易な解決策だ。何も生み出さないし、まわりで聞いている人の気分も良くない。

愚痴で憂さ晴らしをするのは自分の問題点と向き合うことから逃げるのと同じ。ゆえに、逆に愚痴を言わないように心がければ、自ずと問題点と向き合えるようにもなるのだ。

ヴォルフスブルクの3シーズン目、指揮官がフェリックス・マガト監督からアルミン・フェー監督に交代した。当然ながら、僕は一からポジション争いをすることになる。ライバルとなるのは新加入のアルジェリア代表のジアニと、デンマーク代表のカーレンベリ。そこで僕はケガで開幕から約1ヵ月間出場することができず、出遅れてしまう。

当時、ひとつ間違いなく言えたのはフェー監督は僕のプレーをあまり信用していなかった、ということだ。でなければ、僕と同じポジションに2人も選手を補強しなかったと思う。実際、ドイツの新聞や雑誌の予想スタメンでは、彼らの名前が書かれることが多かった。

けれど、それを誰かに言ったとしても現状は改善されない。逆に自分に何か問題があるのかもしれないのに、そこから目を背けることにつながる。だから僕は監督があまり僕を評価していないという現実を受け止め、まずそこを自分のスタートラインにした。では監督は何をMFに求めていて、どんなプレーをすれば信頼してもらえるようになるのか、試合を観ながら考え続けた。

新監督のもと、初めてチャンスが訪れたのは第5節のレバークーゼン戦。そこまでの戦績は2勝2敗と、チームの調子は一進一退だった。僕はそのテコ入れのために右MFで先発することになったのだ。

いよいよ、僕にとっての開幕だ。

と、意気込んでいたのもつかの間。想定外のことが起こる。前半34分、GKベナーリオが退場になってしまったのだ。当然代わりのGKを入れる。ハーフラインに目を向けると交代カードが掲げられていて、背番号「13」が光っていた。真っ先に僕が交代させられた。

やはり監督から信頼されていない……。

続く第6節のシャルケ戦はベンチスタートだった。

ところが不思議なもので、今度は僕が前半31分という早い時間帯に出場できることになった。先発した選手の調子が悪かったからだ。コーチから声をかけられた。

「ハセベ、入るぞ」

やる気に満ちあふれていた僕だったが、このときに実はすごく悔しいことがあった。

ユニフォームに着替えて、ライン際に立ったときのことだ。 

コーチとフェー監督が何やら言い合っていた。

聞こえてきたのは、監督の「なぜ、あいつなんだ?」という不満そうな声だった。この交代の人選に関してはコーチの判断に任されていたようなのだが、フェー監督はコーチが僕を選んだことに納得しなかったのだ。

「ふざけんな!」

と怒りが込み上げてきた。と同時に自分の現状を受け止めなければいけない、と気持ちを引き締めた。

「今日結果を出さなかったら、もうチャンスはない」

僕が見たところ、チームの問題点は厳しいマガト監督が去ったことで、選手が随所で手を抜くようになった、ということだった。たとえば、ボールを奪われたときに自陣への戻りが一瞬遅くなったり、逆にボールを奪ったときに前へ行く人数が少なかったり。つまりは走力不足。現代サッカーにおいては致命的な欠陥だった。だから、僕はみんなが走らなくなった分を自分が走って補ってやろうと思った。

そして1-1の同点で迎えた81分。

右サイドに走り込んだ僕は、味方が落としたボールをワンタッチで大きく前に蹴けり出して、スペースに抜け出した。ボールに追いついた瞬間、右足でグラウンダーのクロスを入れた。中央に走り込んだジェコがノートラップで右足を振り抜き、強烈なゴールが決まった。

チームはこの1点を守りきり、ヴォルフスブルクは2-1で勝利した。自分にとっては監督からの評価を得た、大きな意味を持つ一戦になった。

試合後、フェー監督は「期待していたとおり、よくやってくれたな」と声をかけてくれた。「このオッサン、調子がいいなぁ」と思いつつも、悪い気はしなかった。

以後、僕には右MFの先発の座が与えられたのは言うまでもない。

愚痴だけでなく、負の言葉はすべて、現状をとらえる力を鈍らせてしまい、自分で自分の心を乱してしまう。心を正しく整えるためにも愚痴は必要ない。

TEXT=ゲーテ編集部

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