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HEALTH

2023.05.26

いびきに効くCPAP療法とは? その効果・副作用について

睡眠時無呼吸症候群の中等症以上と診断された場合、治療法として推奨されるのがCPAP治療。保険適用となるが、その効果、そして副作用などの懸念について自身も長年CPAP治療を続けている、医療法人みなとみらい理事長・田中俊一医師に話を聞いた。

CPAP

※画像はイメージ

CPAP治療とは?

CPAP(Continuous Positive Airway Pressure :シーパップ)とは、日本語の医療用語だと経鼻的持続陽圧呼吸療法。機械で圧力をかけた空気を鼻から気道(空気の通り道)に送り込み、気道を広げることで睡眠中の無呼吸を防止する治療法だ。このCPAP療法は、1998(平成10)年に健康保険適用となっている。

日本呼吸器学会によると、CPAPは15~20cm程度の大きさのCPAP機器本体と、あらかじめ設定した圧力で空気を送るチューブ、鼻に当てるマスクの3点からなり、睡眠中はチューブに繋がったマスクを装着する。

空気の圧力は、常に一定を保つ場合と、呼吸が止まった時に自動的に圧力が増す場合の2パターンがあり、患者の病状に応じて医師により設定される。

重症の睡眠時無呼吸症候群の患者において、CPAP治療を行った場合と行わなかった場合とを比較した研究によると、CPAP治療を行った患者の方が明らかに長生きできたなど、多くの研究によって、睡眠時無呼吸症候群に対するCPAPの効果が証明されている。現在では中等~重症の睡眠時無呼吸症候群の標準的治療法として広く用いられている。

CPAPとSAS(睡眠時無呼吸症候群)

睡眠時無呼吸症候群と治療法について、医療法人みなとみらい理事長・田中俊一医師に話をうかがった。

「SAS(サス)とは睡眠時無呼吸症候群のこと。 英語のSleep Apnea Syndromeの頭文字をとって SAS(サス)と呼ばれています。睡眠中に呼吸が止まる病気で、医学的には『無呼吸(10秒以上の呼吸停止)がひと晩7時間の睡眠中に30回以上、あるいは1時間に5回以上ある人は睡眠時無呼吸症候群(SAS)』と診断されます。SASのうち1時間に20回以上息が止まる中等症以上の患者さんに勧めるのがCPAPです」

医療法人みなとみらい理事長 田中俊一

田中俊一/Shunichi Tanaka
医学博士。国際医療福祉大学、横浜市立大学教授を経て2008年から医療法人みなとみらい理事長。日本糖尿病学会専門医研修指導医。4年前からは、銀座クリニックで病気でない人を対象に「パーソナル ウェルネスドクター」として、年単位のスケールで健康度の評価とその増進のための医療を提供している。自身も予防的にCPAPを6年前から継続使用し「よい睡眠」を筆頭に、健康によいことはすべて実践することで100歳現役を目指している。

CPAPは睡眠時無呼吸症候群を治療するための治療器具で、 即効性がありながらほとんど副作用のない治療法として、昨今注目を集めている。それだけ睡眠時の無呼吸を心配する人が多いのだろうが、なぜ治療が必要なのか?

「睡眠時無呼吸症候群は、酸素を取り込んで二酸化炭素を排出するという呼吸の障害で、酸素が入りにくい病気です。気道の狭窄(きょうさく。狭くなること)で酸素が十分に取り込めないため、低酸素血症のハイリスクになります。

すると血管内の酸素を増やして全身に巡らすために、脈が速くなり、血圧が上昇します。その後、加齢とともに重症化し副腎からはストレスホルモンであるコルチゾールが分泌され、血糖値が上がります。つまり、酸素が足りないことで頻脈、高血圧、糖尿病が引き起こされるリスクが高まるのです。心筋梗塞、脳卒中のリスクも年齢とともに上がっていきます。睡眠時無呼吸症候群を治療することは、これらの病を防ぐことにもつながります」

睡眠時無呼吸症候群の発症には男女差があり、田中医師は「女性が40%で男性が60%」だと話す。加齢によって首回りの皮膚、皮下の弾力が低下すると気道を狭くするので、高齢になるほど発症の割合は増える。自分が知らないうちに、多くの人が抱えてしまう病気が睡眠時無呼吸症候群。他人事ではないし、放っておいていい病ではない。

CPAP療法のメリット

CPAPを装着すると呼吸が止まることがなくなるため「呼吸がとおる」「いびきをかかない」。鼻から呼吸するようになるため「口呼吸の改善」「のどが乾燥しないのでインフルエンザの予防になる」。深く眠れるようになるため「疲れがとれやすい」「ライフスタイルがアップグレードする」などといった感想が治療経験者から得られている。

酸素の取り込み不足が改善されるため、低酸素血症のリスクも減り、「高かった血圧が下がる」「頻脈が起きなくなる」「高血圧の薬が減った」というメリットも期待できるし、その治療にかかっていた費用も軽減される。

CPAP療法がもたらす多くのメリットのなかには、「増加していた食欲が落ち着く」「肥満の改善」も含まれる。その理由について、田中医師はこう語る。

「睡眠時無呼吸症候群の人は深い睡眠が取れないから昼間は眠くなりそうなものだけど、睡眠リズムに関わるオレキシンという覚醒物質の分泌が日中に高まるため眠気を抑え、日中も眠らずに活動ができるのです。しかしオレキシンには別の作用もあって、食欲が増す。その結果、たくさん食べて脂肪が増え、さらに気道が狭くなって無呼吸になる。するとオレキシンの作用が強まり……という悪循環になるのです」

睡眠時無呼吸症候群では、オレキシンが過剰に分泌されるという指摘もある。CPAPを使うとよく眠れてすっきり目覚めるから、オレキシンの大量分泌がなくなり、食欲が落ち着いて肥満度が改善、という効果が得られるわけだ。

CPAP療法のデメリット

CPAP療法のデメリットは「ない」と田中医師。しかし、CPAPを装着するまでの検査や、個人に合わせた調整が足りず正しい使い方ができていないと、問題が出てくることがあると話す。

「CPAPを“つけさえすれば呼吸は止まらない”程度の認識で、検査や調整をせずにCPAPをレンタルした場合は効果の把握は難しいのでは? 装着して慣れる前にモチベーションが下がり、中止する例もあるようです」

ほかに、CPAPの効果を感じる一方で、「睡眠時に装着し続けないといけない」「出張や旅行時の持ち歩きが面倒」という不便さに関する声は治療経験者から聞かれた。

CPAPの効果と副作用

CPAPの効果

「まずは医療機関でしっかり睡眠時の無呼吸の検査をして、保険でCPAPを使うのがよい段階か、もしくは症状が初期段階であっても自費で早めに使うかを、医師とカウンセリングして決めます。CPAPを装着してその人に合わせた調整をすれば無呼吸がなくなり、使用した翌朝は使用の効果が感じられるでしょう。

CPAP療法開始後も睡眠の状態を測定して、その結果を知り、微調整を行うことも効果を得るために重要です」

CPAPの装着自体は、毎日寝る時に自分でつけるだけで、至って簡単だ。

CPAPの副作用

CPAP療法を始める前にしっかり検査をし、個々に合った調整をした場合、副作用と呼べる問題はほとんどない、と田中医師。

「僕もずっとCPAPをつけて寝ていますが、時期によってはのどが少し痛くなることがあります。鼻を覆うマスク内では常時4cm水中の圧の風が吹いていて、のどに抜けるときに乾燥するためです。ベッドの近くに煮沸型の加湿器をつけておけば解決しますよ」

他に、CPAP療法開始後の訴えとその原因と思われることも情報として得られたので、以下を参考にしてほしい。
 

■鼻詰まりで苦しい➡もともと鼻の病気があったことが判明。
■鼻や口の周りが赤くなった➡マスクの形・サイズが合わなかった。マスクのつけ方を間違っていた。
■目が乾く➡マスクが合わないため空気漏れ。
■胃の膨満感・頭痛・耳鳴り➡マスク内に流れる風の圧力が高すぎる。
■寝返りがしにくい➡チューブのサイズ、位置が合わない。CPAP機器の位置がよくない。

これらは副作用というよりも、治療前の検査での見逃しや、CPAPの種類選定や使い方に問題があったのが原因といえそうだ。しっかり検査をすることと、使い方のレクチャーや個々に合わせた設定で防ぐことはできるし、治療開始後の設定変更などで改善も可能。そこまでを「治療」として含めている医療機関に相談することも重要だろう。

CPAPの選び方

「保険適用となるCPAP療法で用いるマスクの種類には、以下の3タイプがあり、それぞれ特徴が異なるので医師と相談して選ぶのがよいでしょう」

■ネーザルタイプ
マスクが鼻のみを覆うネーザルタイプは、もっとも一般的とされていて、ヘッドギアのようにかぶるので、装着後の安定感が高い。 
■フルフェイスタイプ
このタイプも、ネーザルタイプと同様に頭部に装着するが、鼻と口の両方を覆うのが特徴。口呼吸も可能なので、鼻呼吸が難しい人には使いやすい。
■ピロータイプ
鼻孔に直接装着するピロータイプは、鼻をマスクで覆うのではなく、シリコン製のチューブ形状のものを鼻孔に挿入する。顔への圧迫感が少ないが、人によっては鼻腔に炎症を起こすこともある。

ほかに、接続ホースが頭頂部にあるものなど、自費診療の場合はさらに選択肢は広くなる。

まとめ

CPAP療法は1998年に保険適用され、以後25年ほど経過している。症例が増え、治療法として改善も進んでいて「睡眠時無呼吸症候群の効果が立証され、副作用はほとんどない」とされている。ただ、きちんと検査をしていなかったり、個々の症状に合わせた調整や継続的な検査と微調整がなされていない場合は、効果が確認できないとか、マスクの空気漏れによる不快感などの問題が生じる可能性がある。
 

Q&A

CPAPの生存率はどのくらい?

「CPAPの使用群は、使わない群と比較して長く生きられているという報告があります。睡眠時無呼吸症候群はさまざまな病に繋がるので“生存率”を計算するのは難しいですが、特に罹患リスクが高いのは心筋梗塞。日本で心筋梗塞のハイリスクは人口の5割程度で、その人たちがCPAPを使ったら、心筋梗塞の発症は防げるでしょう。脳梗塞の予防もおそらく可能です。日本人の死因としての心筋梗塞と脳梗塞を合わせるとがんを超えるので、死亡率は4割くらいは減らせるのではないかと思います」(田中医師。以下すべて同)

CPAPで健康寿命や平均寿命は延びそうである。
 

CPAPはいつまで使えばいい?

肥満が原因で睡眠時無呼吸症候群を発症した場合、減量によってCPAPが不要になる状態もあるそうだが、田中医師はこう続ける。

「死ぬまで使ってほしいし、僕もそうしようと思っています。なぜなら、年齢が上がるほど睡眠時無呼吸症候群の重症化リスクは高まるからです」

例えばメガネは目をよくするものではなく、かけた時にはよく見えるようになる。CPAPも同じような存在だという。

「CPAPを使わなくなったら、その日からリスクが戻ってきます。ずっと欠かさず装着していたのに、たまたまつけなかった日に心筋梗塞を起こしたという例が実際にあります」

せっかくCPAP療法を始めるのなら、そんな事態は避けたいところ。睡眠のルーティンと考えるのがよさそうだ。
 

CPAPを使っているのに日中、眠気を感じるのは何故か?

「CPAPを使っても日中に眠気を感じる原因は、そもそも、睡眠時間が短いからではないでしょうか。また、それまでの睡眠負債が原因の可能性もあります。大きな原因は、鼻など、自分に合った(CPAPの)調整ができていないことに起因すると思います。病院を受診し、細かい設定をして、自分にとって最適な状態で使うことが重要です。マスクがうまく密閉されていないことにもあると思います」
 

CPAP効果はいつ頃から出始める?

「正しく装着すれば、慣れないうちは多少寝つきに時間がかかるかもしれないけれど、睡眠中の酸素不足がなくなるから深くぐっすり眠れます。翌日の朝からすっきり目覚めて、効果を感じられると思います」
 

CPAPに関する記事はこちら

TEXT=海野由利子

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