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2023.05.25

CPAP療法でいびきや無呼吸を治療できるのか?

いびき、そして「1時間に5回以上呼吸が止まる」状態である睡眠時無呼吸症候群。その治療法として推奨されているのがCPAP療法だ。CPAPでいびきや無呼吸症候群は解消できるのか? 医療法人みなとみらい理事長・田中俊一医師に話を聞いた。

CPAPと無呼吸症候群について

Unsplash/Somnox Sleep

いびきの原因は?

同じ空間で過ごす人に指摘されて知るのが自分のいびき。その度合いを自覚できないうえに、悪化すれば日常生活や健康に支障が出ることもある、些細と言えない問題だ。近年話題に上ることの多いCPAP療法を、いびき問題から探っていく。

日本呼吸器学会によると、いびきの原因は咽頭(のど)が狭くなること。息を吸うときに狭くなった部分を空気が通過するため、のどが振動して音が出る、としている。長年にわたり睡眠時無呼吸症候群の治療を行う医療法人みなとみらい理事長・田中俊一医師は、さらにこう語る。

「気道が狭くなっていびきが出るのは、クラリネットなどの管楽器と同じような理由です。管楽器は吹き込んだ空気の圧力でリードという薄片が振動して音が出ます。いびきは鼻や口から吸い込んだ空気が、狭くなった気道を通るときに大きな圧力がかかることでのどが振動する音なんです。

気道が狭くなる原因は3つあります。1つは骨格。特に日本人は頭骨や顎(あご)が小さい人が多い。2つ目は加齢。首回りの皮膚や皮下組織の弾力が低下すると、たるみが現れて気道を狭くします。そして3つ目は肥満。顔や首周りについた脂肪が、仰向けに寝る姿勢の時に垂れ下がって気道を圧迫してしまうんです。

また、眠ってしまうとのどを支えている筋肉が緩むため、さらに気道が狭くなります。飲酒も筋肉を弛緩させるので、いびきが出やすくなりますね。

意外なところでは、筋肉の量の増加も気道を狭くします。筋肉を増やすことが重要なラグビー、相撲、ボディビルディングなどは首も太くするので、空気が通りにくくなります。そして、空気が通りにくくなると口からも呼吸をするようになるのです」

同様に、花粉症や副鼻腔炎などで鼻詰まりがある場合も口呼吸をせざるを得なくなる。

そして、口呼吸をすると口が開くことで舌が落ちこみ、気道が狭くなるため、さらにいびきが出やすくなるのだ。また、いびきの音が大きいほど酷い状態とは一概に言えないが、音が小さいいびきより、大きい方が状態が悪いことが多いのが一般的なのだという。

「私は、いびきが出ているうちはまだ良いと思います。患者さんは家族に『いびきがうるさい』と言われて受診するけど、少なくともそれは睡眠中に息が通っている状態。本格的に息が止まってしまうと、いびきもしなくなる。ひどくなると1分間に1回しか息をしなくなります。1回息をしたら60秒間息が止まる、そんな状態は重症なのに、あまりうるさくないから、一緒に寝ている人は気づかないんです」

いびきをしなくなったと言われたら「治った、良かった」と思うだろうが、むしろ睡眠時無呼吸症候群になっているかもしれないのだ。部屋で1人で寝ている人は、自分が無呼吸状態かどうか気づかないけれど、しばしば息が止まるようになると取り込む酸素が少ないため、低酸素血症になるという。苦しくて目が覚めたら、その可能性がある。

「睡眠時無呼吸症候群の診断基準は“1時間に5回以上呼吸が止まる”状態。検査によって中等症以上と診断されれば保険適用で、CPAPを装着する治療が推奨されます。すでにいびきや睡眠の改善策をしていれば別ですが、高齢になるほど悪化傾向になりますし、睡眠時無呼吸症候群と診断される割合も高くなります。自然によくなることはまずないので、いびきがひどいと言われた段階で受診し、検査するのがベスト。いびきは睡眠時無呼吸症候群の発症のサインなんです」

医療法人みなとみらい理事長 田中俊一

田中俊一/Shunichi Tanaka
医学博士。国際医療福祉大学、横浜市立大学教授を経て2008年から医療法人みなとみらい理事長。日本糖尿病学会専門医研修指導医。4年前からは、銀座クリニックで病気でない人を対象に「パーソナル ウェルネスドクター」として、年単位のスケールで健康度の評価とその増進のための医療を提供している。自身も予防的にCPAPを6年前から継続使用し、「よい睡眠」を筆頭に、健康によいことはすべて実践することで100歳現役を目指している。

CPAPで無呼吸を治療すればいびきが緩和される

CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:シーパップ)とは、日本語の医療用語だと経鼻的持続陽圧呼吸療法。機械で圧力をかけた空気を鼻から気道に送り込み、空気の通り道である気道を広げて無呼吸を改善する医療機器を使った治療法だ。このCPAP療法は、1998(平成10)年以降に健康保険適用になっているので、検査や治療の費用負担は3割で済む。

「私も健康のため毎日CPAPを使用していますが、装着するとすぐにスーッと鼻の息が通るようになり、気道も広がります。CPAPは気流のセンサーがついた鼻を覆うマスクで、呼吸が止まるとセンサーが感知して、加圧された空気が爽やかな風のように送り込まれます。専用機器で一晩測定すれば、ちゃんと呼吸ができていて、よい睡眠が取れていることがわかります」

CPAPはあくまでも睡眠時無呼吸症候群の治療法で、いびきを緩和するためのものではないが、気道を広げるため結果的にいびきはかかなくなるという。

「CPAP療法をするには、医療機関で検査を受けます。保険診療なら、適用となる段階かどうかの確認ができます。装着してその人に合わせて調整しCPAP治療をすれば、いびきも無呼吸もなくなり、翌朝には熟睡したことを感じられるでしょう」

自費治療を行う医療機関なら、病状が中等症にまで至らなくても、必要と判断されればCPAP療法を自費で受けることが可能だ。

CPAP治療で口呼吸も改善

CPAPを装着すると鼻が特殊なマスクで密閉され空気が送られてくるため、自然と口呼吸はできなくなり鼻呼吸に戻る。

「もしも、マスクを装着していても口呼吸ができるなら、装着の仕方が間違っている可能性があります。また、鼻詰まりがひどくて鼻呼吸がしにくくCPAPが息苦しく感じるなら、CPAP療法を行った医療機関を受診し、相談するのがよいでしよう」

口呼吸は口腔内を乾燥させるので細菌が繁殖しやすくなり、歯周病など別のリスクも高まる。まず、きちんと原因を調べてCPAP治療を受けるのがよさそうだ。

CPAPをつけると苦しくてなかなか眠れない?

「マスクを装着するので、慣れるまでは、入眠まで時間がかかるかもしれません。CPAPは鼻をぴたっと覆うマスクで、閉塞された空間で気流が管理されます。つけていて苦しいなら、マスクが密着していないために空気が漏れているなど、装着の仕方に問題があるのかもしれません」

CPAPはメガネのように、視力に合ったものを買って、かけさえすれば見えるようになるというものではないという。CPAP療法を始める前に、医療機関で検査や、個々の状態に合わせた設定や調整を受けることは必須。さらに、当初は頻繁に使用したデータを見てもらい、きちんと調整をしてもらうことが重要だ。

「保険適用されるのは無呼吸症候群の中等症以上なので、基本的には月に1度は受診していただきたい。そのときにCPAPの調整と、悪化してないかどうかの検査をします。『なかなか眠れない』という自覚についても、計測データを確認すればどんな睡眠状態なのかがわかります。落ち着いたら通院間隔をのばすことも可能です。

眠りに入るまで多少時間がかかっても深く眠れているとか、睡眠が浅くてCPAPを途中で外しているとか、状況がわかれば改善策も変わります。

CPAPの機器も大手だけで5種類のメーカーがあり、それぞれに多くの種類のマスクがあります。言われるがままに、CPAPを受け取るだけでなく、自分に合ったCPAPとマスクを選び、いろいろな計測データに合わせて微調整をしてくれる医療機関を選ぶことが大切です」

CPAP療法で重要なのは、我慢しながら慣れる方法を模索するのではなく、信頼できる医療機関と連携し、自分にあった機器を選定し細かく調整を行い、適切に使用すること。ましてや、苦しいからとCPAPを止めてしまうと、無呼吸症候群はよくならないし、いびきの状況が元に戻り、再び睡眠の質が下がってしまうことになりかねないのだ。

まとめ

いびきには原因があり、睡眠時無呼吸症候群の序章でもある。「うるさい」と指摘された場合は個室で1人で寝るという選択ではなく、呼吸器内科や睡眠時無呼吸症候群の治療を行っている医療機関の受診を。中等症以上と診断されれば保険適用でCPAP療法ができ、いびきはなくなる。中等症未満でも自費治療でCPAP療法を受けるのは可能。いびきが解消され、無呼吸症候群の悪化を防げる。
 

Q&A

CPAPをやめたらどうなる?

「やめたら翌日から元に戻ります。ダイエットを止めたら、そこからリバウンドするような感じです。使い始めは面倒に感じる方もいますが、慣れればよく眠れてすっきり起きられるようになります。

CPAPの利用を止めると、熟睡感のないすっきりしない朝に戻ってしまい、睡眠時無呼吸症候群に伴う心疾患系の病気のリスクも元に戻ります。特に75歳以上の方は無呼吸症候群が悪化しやすいので、使い続けていただきたいですね」(田中医師。以下すべて同)
 

CPAPを使っているのに昼間に眠くなるのは何故か?

「CPAPを使っても眠気を感じる原因は、そもそも、睡眠時間が短いからではないでしょうか。また、それまでの睡眠負債が原因の可能性もあります。大きな原因は、自分に合った(CPAPの)調整ができていないことに起因すると思います。細かい設定をして、自分にとって最適な状態で使うことが重要です。マスクがうまく密閉されていないことにもあると思います」
 

CPAPは苦しいのか?

「そもそもCPAPは、睡眠時に呼吸が止まることの多い方の酸素不足を改善するためにつくられた医療機器なので、つけて苦しく感じるものでは意味がありませんし、本来、呼吸の力が弱い方でも苦しくないようにつくられています。苦しいと感じるなら、まだCPAPに慣れていないからでしょう。または、マスクのタイプが合ってないとか、装着の仕方に問題があるのかもしれません。医療機関で再調整の必要があります。CPAPを使用した睡眠時のデータを見て調整をしてもらうことが大切です」
 

CPAPとNPPVの違いは?

「NPPVは、非侵襲的陽圧換気(鼻マスク型の陽圧人工呼吸器)という小型で軽量な鼻マスク式の人工呼吸器のこと。肺気腫や慢性呼吸不全の患者さんの治療を行うもので、NPPV療法と言います。CPAPは睡眠時無呼吸症候群の治療に使う医療機器で、対象となる疾患が違います」
 

CPAPに関する記事はこちら

TEXT=海野由利子

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