カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載。第6回のキーワードは「CPAP(シーパップ)」。これを装着し睡眠時の呼吸をスムーズにすることで眠りが改善され、仕事のパフォーマンスにもよい影響があることを実感する人が増えている。「治療器の装着」のイメージが180度変わる、ビジネスパーソン必見の最新情報について、睡眠と糖尿病のスペシャリストである田中俊一医師に話を聞いた。
CPAPで無呼吸症候群の対策をし、ライフスタイルをアップグレード
堀江貴文(以下堀江) 「堀江さんはたぶん睡眠時無呼吸症候群。睡眠の質が上がるから、専用の治療器具であるCPAPを使ったほうがいいよ」と知人に勧められ、最近、田中俊一先生のクリニックで扱っているCPAPを使い始めました。
田中俊一(以下田中) CPAPは保険適用されている医療機器で、鼻を覆うマスクを装着して圧をかけた空気をエアチューブから送りこむので、睡眠時に気道が塞がれないんです。堀江さんが使っているCPAPはマスクのフィット性が高くて、加湿した空気を気道に送りこむタイプのものです。マスクは苦痛じゃなかったですか?
堀江 違和感はありますが、苦痛ではなかったです。
田中 よかった。実は僕も使っています。僕自身の“無呼吸”はたいしたことないから、時々使うくらいだけど、「苦しくて使えない」という患者さんがいるくらい、合う・合わないの違いは大きいです。
堀江 先生が使うのは治療ではなく、健康のためですか?
田中 はい。程度の差はありますが、日本人の8割以上は睡眠時無呼吸症候群ではないかと思っています。CPAPは受診して診断基準に合えば保険治療ができますし、自費の自由診療なら診断基準を満たさなくても使えます。とはいえ、寝ている間のことだから自分じゃ気がつかない。同室で寝ている人に「いびきがうるさい」って言われるのが初期段階だけど、それはまだいいんです。呼吸ができているってことだから。呼吸が止まると、音がしないので。ひどくなると1回呼吸した後、60秒間くらい無呼吸になる。静かなので、同室の人も気づかない。
堀江 僕の場合は、お酒を飲んで帰った翌朝に疲れが残る感覚があるので、“無呼吸”かもしれないと感じましたね。
田中 飲酒すると筋肉が弛緩するので、無呼吸になりやすいですね。ひどくなると低酸素血症になって、苦しくてうなされて目が覚めたり、悪夢を見たり。その段階でネットや本で調べて「無呼吸症候群かも?」と気づいて受診する方も多いです。
堀江 けっこう進んでからなんですね。
田中 CPAPの治療を始めると、加圧された空気が鼻から入るので、誰でもその日から呼吸が通るようになります。マスクに慣れれば呼吸が楽になって快適だし、逆につけないと、次の日に疲れが残ることもわかる。僕も使わないと、なんとなく調子が悪いですね。僕の仕事は患者さんの話を理解して、説明や提案のために喋ることが多いから、頭が回っていないと話の内容が入ってこない。だから頭を使う人にとってCPAPは必須だと思っています。自費診療のビジネスパーソンやハイクラスの方々は、海外出張にも持っていきますよ。事前確認は必要ですが、機内に持ちこめるので。機内で快適に眠れ、現地に着いたらすぐに仕事ができます。
堀江 機内であれをつけて眠るんですか?
田中 そう。ノイズキャンセラーのイヤホンをして、CPAPをつけて寝ちゃう。
堀江 サイボーグですね。ビジネスクラスなら、スペースがセパレートされているから使いやすいかも。僕が使っているCPAPは鼻につける部分がシリコンでフィット感がいいけど、エアチューブの部分はもう少し改善されるといいですね。
田中 堀江さんのCPAPは新しいもので、ずいぶん使いやすくなっていますけどね。加湿器もついているし。耳鼻科医は、「喉が乾燥しないからインフルエンザの予防にもなる」って言いますよ。
堀江 CPAPをつけると口呼吸ではなく、鼻呼吸になるのもメリットですね。そもそもなぜ無呼吸症候群になるんですか?
田中 原因は3つあって、骨格、加齢、そして肥満。顔や首回りについた脂肪が、仰向けに寝る時に気道を圧迫するんです。首と顎が細くて、脂肪が多く、加齢でハリが低下するほど気道は塞がれやすい。首回りの皮膚、皮下の弾力が低下して気道を狭くするので、僕は、75歳を超えたら全員が睡眠時無呼吸症候群だと考えています。男女比は3:2くらいですが、原因は女性も同じです。睡眠時無呼吸症候群は知らないうちに誰もが抱えてしまう病気で、いくつもの病気の原因にもなります。気道の狭窄(きょうさく)で酸素が十分に入ってこないと、低酸素血症になって脳の再生ができにくくなります。脳と心臓は低酸素血症に弱い臓器で、酸素が欲しいから脈を速める。すると血液が送りだされる時に乱流ができて動脈硬化が起きたり、年齢とともに進行し、脈を速めただけでは酸素が来なくなり、ついに高血圧にもなります。つまり酸素を得るために頻脈、高血圧が起こり、そして次はもうこれ以上何をしても酸素が足りないという状態になり、副腎皮質からストレスホルモンであるコルチゾールが分泌される。それがインスリン抵抗性となって血糖値を上げ、糖尿病が発症します。つまり、無呼吸を改善すれば、動脈硬化や糖尿病の予防につながるんです。
堀江 軽い無呼吸でも、CPAPを使うことで得るものは多いですね。受診は何科ですか?
田中 睡眠時無呼吸症候群を診ている内科がいいでしょう。それから、無呼吸の人は深い睡眠が取れないまま、昼間起きているためにオレキシンという脳内の覚醒物質が大量に分泌されるんです。このオレキシンの副作用は食欲が出ること。だから無呼吸の症状があると食べる量が増えます。で、脂肪が増えて無呼吸が悪化、さらにオレキシンが分泌されるという悪循環になる。だからCPAPを使うと、よく眠れることに加え、食欲が落ち着いて痩せる人もいます。
堀江 QOLが上がりますね。
田中 無呼吸症候群の対策を行うことは、ライフスタイルのアップグレードにつながるといえると思います。
Shunichi Tanaka
東京都生まれ。毎月、5000人以上の糖尿病、3000人以上の睡眠時無呼吸の患者が通院する医療法人みなとみらいの理事長のほか、横浜市立大学大学院医学研究科客員教授も務める。日本糖尿病学会糖尿病専門医、研修指導医。法人で運営する9クリニックのうちのひとつ「銀座クリニック」では、一般的な保険診療のほか、病気になる前の「予防医療」を会員制で行っている。
Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、アプリのプロデュース、会員制オンラインサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」運営な ど、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事として予防医療の啓蒙も行う。
※CPAPを利用する際は、医師の診断の元で行ってください。
※この連載で紹介する医療は、研究中の医学に基づいて自由(自費)診療で行われており、現在も検証や臨床試験が続いています。