PERSON

2025.05.08

松本紳助時代のM-1と今の違い、令和ロマン連覇の理由…チュート徳井×芸人学校NO.1講師【対談⑥】

放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年以上にわたって人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんが、人気芸人・クリエイターと対談する本連載。今回のゲストはNSC大阪校13期の同期で、桝本さんと同居していた時期もあるチュートリアル・徳井義実さん。ネタ作りの秘訣や漫才づくりの裏側、仕事や人への向き合い方、近年のM-1に対する見解などを全7回にわたって聞いた。第6回。

桝本壮志さんと徳井義実さん

M-1というコンテンツが成熟してきている

桝本 松本さんや紳助さんが立ち上げた頃のM-1と今のM-1って質が違うと言われることが多いけど、徳井くんはどう感じてる?

徳井 色々あるとは思うんだけど、M-1を見ずに育ってきた我々と青春時代にM-1を見てきた今の子らの違いが一番大きいような気がする。

桝本 何がどう違う?

徳井 俺ら世代の芸人にとってM-1は通過点でしかないんですけど、今の子ってM-1に勝ちたくて芸人やっている人も多かったりする。それこそ令和ロマンがそうだと思うんだけど、彼らはM-1で勝つためにM-1というシステムを徹底的に分析してハック(攻略)しているんです。だからこそ2連覇できた。

そういう動きってたぶん色んなコンテンツに共通するもので、コンテンツが生まれてから成熟していく正常な過程だなと思ってます。M-1が始まったばかりの頃は勝利の方程式が分からないままみんな競争していたけど、どんなコンテンツにも方程式があるし、それをうまく察知するヤツが出てきます。つまり、「これをこうしたら勝てるな」と理論的に解釈するヤツが現れるんですよ。

いい悪いではなくて、それは例えばある人に言わせると「昔みたいな熱さがなくなった」という言葉になるかもしれないし、他の人から言わせると「成熟した」とプラスに表現されるかもしれない。M-1というコンテンツが成長してきたからこそ、今のような状況になっていると思います。

桝本 さすが王者だね。鋭い分析。

桝本壮志さんと徳井義実さん
徳井義実/Yoshimi Tokui(右)
1975年京都府生まれ。NSC大阪校を経て、幼馴染の福田充徳とのお笑いコンビ、チュートリアルを結成し1998年にデビュー。2006年にはM-1グランプリで優勝した。近年は自身で撮影と編集を行うYouTubeチャンネル「徳井Video」も人気で、キャンプ用品などの商品開発・販売も行う。

――2連覇を達成した令和ロマンをどう捉えていますか?

徳井 M-1を完全にハックしていると思います。多分あいつらもそのつもりでやっているやろうし。

桝本 意図的な部分があるよね。

徳井 令和ロマンも含めてしゃべりの能力や滑舌、ベースとなる演技力とか、総合的な基礎芸人力みたいなものは今の世代の方が格段に高い。昔の漫才のほうが荒々しかったと思う。まあそれが面白かったりもしたので、どっちが上とかじゃないとは思いますけどね。

――徳井さんがM-1を制したときは「ハックしよう」という計算はなかったわけですか?

徳井 まったくないです。ただただ自分が面白いと思うことをやってただけ。でも、ハックすることに喜びを覚える人もいるし、くるま(令和ロマン・髙比良くるま)はメチャメチャお笑い好きやと思う。あいつはあいつなりの方法でM-1取ってますし、喜びの覚え方って人それぞれじゃないですか。

桝本 ちょっと補足すると、令和ロマンが何で連覇ができたかというと、今まで誰も攻めていなかったゾーンを攻めていったんですね。例えば初めに登場する時に、くるまはケムリをエスコートしながら出ていくようにした。衣装も肩パッドを入れて、1年目にはしてなかった眼鏡をかけたりとか、細かく色んな微調整をしている。あと、最初の「つかみ」。昔はとにかく早く本ネタに入るのが主流だったのに、くるまは最初にたっぷり時間をかけてケムリの顔をいじってますよね。

そうやって新しいことをやって、審査員や観客を巻き込んでいくのが彼らのハック。令和ロマンがヤーレンズに勝ったのは、明らかにその巻き込み方のうまさに軍配が上がったからだと思います。また、漫才が「生モノ」だと考えると、脚本の上手さや面白さは近いレベルでも、「生」の部分の活かし方がヤーレンズよりも令和ロマンのほうが優れていた、というのが僕の分析ですね。

桝本壮志さん
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。2連覇した令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1決勝に輩出している。

令和ロマンは緻密な戦略と人間力があったから連覇できた

徳井 ますまん(桝本)が言う「生」って、人間力と言い変えることもできるのかな? たぶん令和ロマンが戦略だけの芸人だったら連覇できていなかったかもしれなくて、理屈ではない、くるまが発するカリスマ性みたいなものは確かにあるんですよ。お客さんが「何かくるまの話を聞いてしまう」というのは努力ではどうにもならない、くるまが持っている人間力があるからこそで、そこに緻密な計算が加わっているから2連覇できていたんじゃないかなと。

それに、くるまみたいに“つかみ”で滔々(とうとう)と語るやり方って誰もができるわけじゃなくて、聞けない人は聞けないんですよ。「こいつに語られてもなあ」となるともう終わりなんです。でもあいつの言葉って、何か“聞いちゃう”ところがある。

桝本 「佐藤とか田中って苗字多いよな」という誰もが共感するネタをひとつ目にもっていって、ふたつ目はタイムスリップというトリッキーなことをやるのも、全部くるまの罠というか。

徳井 本当に計算されています。1ミリの無駄もない。

桝本 それ感じる? チャンプから見ていても。

徳井 うん。俺らの頃って、「ちょっとした無駄こそが魂」みたいなところがあった。だから無駄なく計算してやることを少し毛嫌いするところもあったりして。でも、令和ロマンは緻密に計算して全部当てているので、それは勝つよなと思います。

桝本 徳井くんって最近メッチャ劇場出てるやん。若い芸人と接することも多いと思うけど、「この芸人はすごい」って人は誰かいる?

徳井 くるまは本当にすごいと思うし、自分より面白いと思う後輩もいっぱいいるよ。でも、それこそダウンタウンさんが出てきた時のような圧倒的な衝撃みたいなものを感じる芸人は、正直いないかな。でも、M-1でいうとかまいたちがやった「UFJ・USJ」のネタはメチャクチャ面白いと思うし好き(笑)。

桝本 俺がすごいと思う若手の話もすると、ナベプロ(ワタナベエンターテインメント)の養成所を出てから吉本に入ってきた子らの才能がエグいです。例えば、フジテレビの『ハチミツ!!』という番組にも出た「千年ぶり」というコンビ。河本(次長課長・河本準一)がネタを舞台袖で見て震えて、「お前ら、天下取れる!」って本人たちに言ったくらいのポテンシャル。

ここ数年は、令和ロマンとかナイチンゲールダンスとか、大学のお笑いサークル出身のコンビの勢いがすごくて注目されてきたけど、今後要チェックなのは元他事務所の移籍組。あとは「コント師が作る漫才」とか「女1、男2人のトリオ漫才師」がトレンドだし、M-1を獲る可能性もあると個人的には感じてます。

7回目に続く

桝本壮志さんと徳井義実さん

TEXT=古澤誠一郎

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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