PERSON

2025.05.03

「単純に物語を作ってるだけ」チュートリアル・徳井の独特なネタの作り方とは【NSC同期・桝本壮志対談①】

放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年以上にわたって人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんが、人気芸人・クリエイターと対談する本連載。今回のゲストはNSC大阪校13期の同期で、桝本さんと同居していた時期もあるチュートリアル・徳井義実さん。ネタ作りの秘訣や漫才づくりの裏側、仕事や人への向き合い方、近年のM-1に対する見解などを全7回にわたって聞いた。第1回。

桝本壮志さんと徳井義実さん

「3人で一緒に暮らせますように」と短冊に願い事

――まず、NSC大阪校13期生の同期である徳井さん、桝本さんの関係性について聞かせてください。

徳井 NSCに入った時はふたりとも18歳でしたけど、お互いそこの記憶があまりないんですよね。

桝本 メチャメチャ人数多かったし、クラスも違ったしな。

徳井 そもそも僕がNSC自体になじんでなくて、全然友達もいなかったんです。みんなは地方から出てきて、大阪でひとり暮らしをしているから交流があるんですけど、僕は京都の実家から通っていたから、授業が終わるとすぐ帰っちゃって。

桝本 実際に交流がはじまったのは、チュートリアルが2006年にM-1王者になった後ですね。チュートが『歌スタ!!』という番組のレギュラーなって、僕がその番組の作家だったので、楽屋に挨拶に行ったら、「あ、覚えてる!」って(笑)。

徳井 その日のこと、覚えてるよ。東京に出てきたばかりで周りのスタッフさんも知らん人ばっかりやったから、「ああ、知ってる人いてよかった」って思ったし、声かけてくれて助かったわ。それももう18年ぐらい前か。

桝本 僕は東京で小沢(スピードワゴン・小沢一敬)とコント番組やっていたんですが、その頃から小沢と徳井くんも仲よくなって3人で遊ぶようになったんですよ。

徳井 ある時、「時間空いてるから3人で東京タワー行こか?」ってなって東京タワーに行ったんです。登ってみて、「すげえな東京!」って感動して。そこで「いつか誰かが結婚するまで、一軒家でも借りてみんなで住もうよ」みたいな話が出た。

桝本 たしかその日が七夕で、展望台で子供たちが短冊に願い事を書いていたんですけど、小沢が「3人で一緒に暮らせますように」って書いたんです。

徳井 めちゃくちゃ気持ち悪いよな(笑)。でも、その後実際に3人で住んだ。

桝本 2021年まで7、8年くらい一緒に住んでいましたね。

徳井義実さん
徳井義実/Yoshimi Tokui
1975年京都府生まれ。NSC大阪校を経て、幼馴染の福田充徳とのお笑いコンビ、チュートリアルを結成し1998年にデビュー。2006年にはM-1グランプリで優勝した。近年は自身で撮影と編集を行うYouTubeチャンネル「徳井Video」も人気で、キャンプ用品などの商品開発・販売も行う。

ブレーンを持たず独自の道を進むのは、自分だけの物差しがあるから

――その後のM-1優勝の活躍なども含め、桝本さんは徳井さんのどんな部分がすごいと感じますか?

桝本 徳井くんがすごいのは、ネタを0から100までひとりで完成させること。一緒に住んでから分かったんですけど、徳井くんは自分の部屋でひとりでネタを書くんです。多くの芸人さんは作家とアイデアを出し合いながら漫才を作ったりするんですけど、徳井くんは完全にひとり。彼は自分なりの判断基準と物差しを持っているから、人に相談したりしなくてもできてしまうんです。

そのネタも、完全に徳井くんにしか書けないものだからすごい。僕ら作家は、ブラマヨの「ハゲとブツブツの喧嘩漫才」やミルクボーイの「コーンフレーク」のようなフォーマット漫才は“当て書き”ができるけど、チュートはフォーマットや型がないので書けないし、漫才の系譜すら分からないんですよ。

徳井 うん、それよう言われるわ。

桝本 改めて聞きたいんだけど、若い頃は誰を参考にしてネタ作りしてたん?

徳井 正直、誰を参考にしたとかないかもなあ。

桝本 ダウンタウンさんは見てた?

徳井 もちろん。『ごっつええ感じ』は見てたし、ダウンタウンさんのエキスは多分に含んでいると思うけど、そもそも「ネタの作り方」という考えを持ったことがないかなあ。「ボケとツッコミがあって、こういうシチュエーションに入ったらこんなやりとりがあって……」みたいな作り方を僕はしないんです。何というか、僕は単純に物語を作ってるだけなんですよね。だからチュートリアルのネタは「妄想漫才」みたいに言われる。

海苔を入れる容器
対談場所となったのは、赤坂にある「お好み焼き のろ 赤坂本店」。徳井さん、桝本さんと同期の元芸人、野呂さんが店長を務めている。お店にある青のり入れの容器は、すべてダウンタウンの松本人志さんからの贈り物。

桝本 そんな肩書きついてたね。昔単独ライブでやってた漫才で、パンの話を始めて最後にパンの妖精が出てくるみたいなネタがあったけど、あれもまずはストーリーを作っているの?

徳井 そやな。例えば料理でいうたら「ペペロンチーノを作ろう!」と思って作っていないというか、何となくスーパーに行って、適当に食材を買って調理していったらペペロンチーノみたいなものができてた、みたいな感じ。

桝本 具体的な料理を決めずに、とりあえず商品棚を見てその時のトレンドとか自分の目に入るモノを買い物かごに入れてから何を作るか考えるってこと?

徳井 そうね。でも、世の中で流行っているモノを取り入れた漫才ってたぶん作ったことがない。むしろ、流行ってないモノのほうがいいなと思う。

桝本壮志さん
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。2連覇した令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1決勝に輩出している。

季節に寄り添った漫才を作りたい

徳井 ネタを作る時に唯一意識するのは、「季節に寄り添った漫才したいな」ってことくらいかなあ。「夏だし流しそうめんが出てくるネタ作ろうかな?」「冬だから鍋のネタ作ってみよう」とか。

桝本 徳井くん、変なところで京都人なんですよ(笑)。お上品なところがある。四季で漫才作ろう思てたんや?

徳井 春はやっぱり春の気持ちになるやん? その春の気持ちでネタ作ろうとか。だから「医者の漫才作ろう!」とかじゃないのよね。今の気分でワードがぽこんと出てきて、それを広げていくみたいな。

桝本 僕ら30年ぐらい付き合っていますけど、こういう漫才の作り方は初めて聞きました。普通の芸人さんは主題やテーマを最初に決める人が多いんで、こんな俳人みたいな作り方をする人は他にいないですよ(笑)。

2回目に続く

桝本壮志さんと徳井義実さん

TEXT=古澤誠一郎

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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