放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年以上にわたって人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんが、人気芸人・クリエイターと対談する本連載。今回のゲストはNSC大阪校13期の同期で、桝本さんと同居していた時期もあるチュートリアル・徳井義実さん。ネタ作りの秘訣や漫才づくりの裏側、仕事や人への向き合い方、近年のM-1に対する見解などを全7回にわたって聞いた。第2回。

目標は疲れて帰ってきたOLさんに笑ってもらえる芸人
桝本 僕が昔に徳井くんから聞いた言葉で今でも覚えているのが、「ますまん(桝本)って人に興味あるよな。俺、人に興味ないのよ」って言葉。
徳井 そやな。あまり興味ないかも。
桝本 テレビ局や劇場のスタッフから聞く徳井くんの評価って、メチャメチャ高いんです。というのもこの人、本当に怒らないんですよ。恨み、つらみ、妬み嫉みをまったく持たない人間で、「なんでこんな人格者なんやろう?」と不思議やったんです。でも、そもそも人に興味がないと分かって腑に落ちたというか。
徳井 興味がないというよりは、執着しないって感じかな。自分がしたことに対して見返りを求めるとかもいっさいないし。
桝本 徳井くんは人に執着しないだけじゃなく、自分の評価も気にしないのがすごいんです。人当たりがいいし、抜群に仕事ができる。それで外見もいいじゃないですか。外見抜群で、内面はもっといい。最強の男なんですよ。
徳井 めっちゃ褒めてくれるやん(笑)。
桝本 成功すると調子に乗ってしまう人も多そうだけど、そこはどう自分を保ってきたの?
徳井 調子に乗るとか浮足立つってことは、まずないなあ。

1975年京都府生まれ。NSC大阪校を経て、幼馴染の福田充徳とのお笑いコンビ、チュートリアルを結成し1998年にデビュー。2006年にはM-1グランプリで優勝した。近年は自身で撮影と編集を行うYouTubeチャンネル「徳井Video」も人気で、キャンプ用品などの商品開発・販売も行う。
桝本 M-1チャンピオンになっても?
徳井 俺、優勝した後もメチャクチャ冷静だったのよ。もちろんその時は嬉しかったけど、優勝したからといって仕事の現場で威張るとか、アホみたいなことはしたくなかったし。M-1取れたのも、その時たまたま点数が一番高かっただけの話。
俺は、それこそ松本(人志)さんみたいに「誰が見ても世の中で一番面白いよね」って存在でもないからさ。漫才でいうたら、ブラマヨとかもっと面白いやついっぱいいるし。尊敬する松本さんや紳助さんがどう見てくれるか気にはなるけど、それも結局は他人の評価やし。M-1優勝した時はホッとしたのがデカかったというか、「もうこれでM-1に関わらなくて済むな」と思った(笑)。
桝本 芸人にとって、M-1って呪縛みたいなもんやからね。
身の程をわきまえて自分にできることをやる
――テレビに出演するタレントとしても、プロデューサーやディレクターの評価等を気にせずやってきたのでしょうか?
徳井 僕はタレントとしては大した力を持っていないと思っているので、テレビに出る時は、「番組のきれいな歯車になろう」と思っています。プロデューサーとかディレクターが「徳井は使いやすいな」「上手く機能してくれたな」と思ってくれるように働こうと。
桝本 「爪痕を残してやろう」と鼻息の荒い芸人さんが多いなかで、徳井くんはそうではなかったってこと?
徳井 芸人としては「何でもええから爪痕残したろ」みたいなガツガツした態度が正しいと思うのよ。俺はそうはなれなかったから、歯車としてきちんと動いた分だけのお給料をいただければいいかなって思ってた。
桝本 徳井くんが何でこういう生き方ができるかというと、”自分がなりたい芸人像”があるからだと思う。一緒に住んでいた時に、「俺ってさ、世の中のOLが仕事で疲れて帰ってきて、ぷしゅっとビールを開けてテレビを見た時にくすっと笑ってもらえる芸人になりたいんだよね」って言ってたよね。
徳井 うん、覚えてる。
桝本 この人はゴールデン番組のMCも漫才もバリバリやってきたし、主演した映画もある。そういう一見派手な仕事をやりながらも、自分が目指す芸人像がきちんとあるから、歯車としても稼働できるんだろうね。

徳井 あと、「身の程をわきまえる」みたいな考え方は、幼少期から常に意識していたかもしれんな。俺、反抗期なかったんですよ。もちろん思春期には親や先生に反抗したいメンタルもあったかもしれないけど、「親のお金で養ってもらっていて、反抗期って何やねん。何ぼ悪態ついたって、結局母ちゃんの飯食うんちゃう? それで反抗って、ちゃんちゃらおかしいやん」って思ってたから。
そういう自分の立場をわきまえる考え方は芸人になっても同じで、それこそダウンタウンさんみたいに全国民を爆笑させるような芸人になれたらいいけど、自分にそこまでの力はない。だから、ますまん(桝本さん)に「疲れて帰ってきたOLさんに笑ってもらいたい」みたいな話をしたと思うんです。
たぶん世間の人って、徳井=イケメンキャラで、「俺、モテます」みたいに調子乗ってるヤツだと当時は感じてたと思うんですけど、実際は全然そうじゃないんですよね。
桝本 商売イケメンを演じたこともあったと?
徳井 芸人やし、イケメンとか言われるのほんまは嫌やん? やけど、「イケメンキャラで番組に呼ばれるのは嫌です」というのも、それはそれで調子乗ってんなと思うし、「そういうオファーいただいているんやから、そこに乗っかってやれや!」って喝を入れる自分がいて。
桝本 こうやって話すと分かるけど、徳井くんは自分にかかるプレッシャーや重圧を全部ひとりで解決しちゃう人なんです。正直、「俺には相談してくれよ!」と思うこともあるよ。友達も信用しないの?
徳井 いや、信用していないとかじゃなくて、そもそも俺は他人のアドバイスをまったく聞かない人間なのよ。ますまんとは長い付き合いだけど、「アドバイスくれ」と言ったことはないはず。
桝本 たしかに。でも世の中には、「愚痴を聞いてもらって慰めてほしい」って人も多いと思うよ。
徳井 他の人の愚痴は全然聞きますし、「愚痴を言うな」とは別に思わないです。僕自身があまり愚痴を言いたくないってだけなんで。
桝本 ほんまにカッコええ男やな(笑)
※3回目に続く

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。2連覇した令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1決勝に輩出している。