PERSON

2024.09.16

ぼる塾・あんりと田辺「お互いを邪魔だと思っていた」

放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年以上にわたって人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんが、人気芸人・クリエイターと対談する本連載。ゲーテwebでは仕事術や生き方をテーマにしたコラムも人気を呼んでいるが、新たに対談連載がスタートする。今回のゲストは、NSC東京校18期(田辺智加、酒寄希望)、NSC東京校20期(きりやはるか、あんり)で桝本さんの教え子だった、ぼる塾。新しい女性芸人のカタチを体現するぼる塾ならではの生き方・仕事論を、全4回にわたって聞いた。第2回。#1回目

ぼるじゅくと桝本さん-4

みんなで順番に迷惑をかけるくらいがちょうどいい

桝本 ぼる塾は酒寄さんが産休・育休でしっかり休みを取ったけど、2023年は各メンバーが体調不良でお休みする時期もありましたよね。ぼる塾って、辛くなったらきちんとSOSを発信して休みを取っているように見える。世の中には「休めずに無理して頑張っちゃう人」がたくさんいるので、ぼる塾の”休むことへの意識”を伺いたいなと思います。

あんり たぶん、4人のなかで一番体調を崩しやすいのは私。コンビ(しんぼる)時代から体調不良は多かったんですけど、その頃は正直休みにくくって。それが4人になると、頼れる仲間の人数が増えて休みやすくなったし、酒寄さんが復帰したのも本当に大きかったですね。3人でネタをやっていた時は、ネタづくりをする自分が何となく全体を主導している感覚がありましたけど、4人になるとその意識も変わったので、「私は休むので、あとは任せます」と言いやすくなりました。

田辺 3人で舞台に立っていた頃は、例えば急な体調不良であんりが舞台に出れないってなると、はるちゃんと私はメチャクチャ不安でした。でも、そのぶん「しっかりしなきゃ!」って思うんでしょうね。ふたりとも急にスイッチ入って、スタッフからは「出番は15分の予定だけど、5分でいいですよ」って言われたのに、謎のプライドを発揮した時もあった。

はるか しっかり15分やったよね。

田辺 あと1回、私とあんりが体調を崩して、酒寄さんとはるちゃんのふたりでネタをやったこともありました。

桝本 それ、一番心配な組み合わせやなかった?(笑)

はるか でも酒寄さんが当日の朝に、私たちふたりでできるネタをつくってきてくれて。私はもう「酒寄さん、ついていきます!」という感じで、ネタ覚えるだけでした(笑)。

桝本 今のぼる塾は、自分が3人に迷惑をかけることをそこまで不安に感じてなさそう。「この3人がいるんだから大丈夫」という信頼感があるからなのかな。

あんり そうだと思います。お互いに迷惑をかけているし、かけられている意識もあるので(笑)。「あいつも私に迷惑かけてきているし、少しくらい休んでもいいか」みたいな。

ぼるじゅくと桝本さん-1
ぼる塾/Borujuku
酒寄希望(さかよりのぞみ/写真中央)と田辺智加(たなべちか/写真右中)のコンビ「猫塾」と、きりやはるか(写真左中)とあんり(写真左)のコンビ「しんぼる」が、2019年12月に合流して結成。酒寄が産休・育休を経て2022年11月に復帰し、2023年の『THE W』では4人体制で初の決勝進出を果たした。

「いつかみんなのために頑張るから」と思って休む

桝本 一般の企業でも体調不良で休みを取るって、実はけっこう難しいというか言いだしにくいことだと思うんだよね。田辺さんはディズニーのキャスト時期はどうされていました?

※田辺は約7年間、ディズニーリゾートのキャストとして働いていた

田辺 キャスト時代は「チーム全員で支え合う」という意識が共有されてたし、各自の事情を分かってくれる人がたくさんいましたね。なので、その頃も普通に休むことはありましたし、私は環境に恵まれていると思います。

あんり 田辺さんは休むこと以前に、日常で人に頼るのがうまい気がします。だから、田辺さんから頼られるのって誰も嫌じゃないんですよ。むしろ「私が代わりにやるから休みな!」ってこちらから言いたくなる存在というか。

私は「人に上手く頼れない」というコンプレックスがあったので、田辺さんのそのすごさが分かるんです。コンビ時代から、相方にも周りにも上手く頼れなかったし、「自分はやります!」と言うことで強さを見せつけるような生き方をしていました。人に頼るのも大事だと気づけたのは、ぼる塾として活動するようになってからですね。

田辺 酒寄さんも昔は休むのがムチャクチャ下手くそだったよね。絶対に無理な状況なのに「頑張る!」って言うタイプ。自分が休む時って、申しわけなさも確かにあるんですけど、私は「いつかみんなのために私も頑張るからね」という気持ちで休んでいるのかもしれないです。

桝本 「いつか取り返すから」と。いい考え方やなぁ。

「そもそもすべての問題を解決できるはずがない」と考える

桝本 チームって言葉が田辺さんからもあったけど、4人の間でちょっと揉めたりとかゴタゴタがあった時はどう解決しているんですか?

あんり そういう時は逆に話し合わないよね。あえて問題を解決しようとしないし、解決することはないと思っています。4人で活動を続けるなかで、すべての問題を残らず解決していこうと思うとストレスがたまっちゃうので。

田辺 私もぼる塾を結成したばかりの頃は、もうすべてがすべて、足並みを揃えなきゃいけないと思っていました。でも今は「こんな変な4人がそもそも合うはずがない」と思っています(笑)。

あんり 誰かがイライラしていても、「今はそういう時期なんだろうな」と思って変に介入しなくなったよね。いい意味で”他人事”でいるのがいいのかなと私は思ってます。

ぼる塾のあんりさん
手前:あんり/奥:田辺智加

はるか 何か問題があっても、「嵐が過ぎるのを待つ」みたいな感じ。

あんり みんなで話し合うことで、「正しいか正しくないか」みたいになっちゃう可能性もあるじゃないですか。

桝本 確かに。揉め事が起こったら「お前はセーフ、お前はアウト」みたいに仲裁する“審判”になりたがる人っているけど、ぼる塾はそれをやらないんだ。

あんり でも、実は昔の私は「自分が正しい」「自分は頑張っている」ということをみんなに分かってほしい人間でした。前にみんなで集まった時に、「私が頑張ってきたこと発表するから聞いて!」って突然言いはじめて、3人をシーンとさせたことがあって(笑)。

桝本 それ、はるちゃんもびっくりしたでしょう?

はるか はい。いつも使っているネタ帳に、手書きで自分の頑張ったことをびっしり書いてきて。

あんり でも、それを発表してシーンとした空気を感じた時に、「私は今、何をやっているんだろう?」と思いました。昔の私は、とにかく“正しく”ありたかった。もっと言うと、「私はこんなに頑張ってるから、あんたたちに何も言う権利ないよ」みたいな感じでみんなをやり込めたかったんですよ。でも、それは間違っていました。

桝本 はるちゃんってみんなのこと好きすぎて、他の人同士が喋っているとジェラシー湧いちゃったりとかする(笑)?

はるか あります! 大好きだからこそ、嫉妬もするんですよ。 テレビでは私とあんり、田辺さんの3人で出ることが多いので、楽屋も3人で過ごすんですけど、ふたりはいつも「あのディレクターがさぁ」みたいな感じでずーっと文句を言ってる。でも私はあまり人に興味がないタイプだから、あまり文句も思い浮かばなくって、黙って聞いてます。

あんり アンタはそうやって、いつもひとりだけ安全な場所にいるんだよな!

はるか ふたりが仲良く喋ってるところに私も入りたいんですけど、入れないことがほとんど。それが悩みで、酒寄さんにLINEで頻繁に「またふたりがイチャイチャしてる」って相談するんです。

酒寄 そういう時は「はるちゃんには私がいるでしょ?」って返したりします(笑)。

ぼる塾の酒寄さんときりやさん-2
手前:酒寄希望/奥:きりやはるか

あんり 前にその話を聞いた時、「何であいつが悩んでいるんだ!」「そもそも“イチャイチャ”って何だ!」って田辺さんとブツブツ文句言っていたんですけど、最近はそれも言わなくなりました。

誤解しないで聞いてほしいんですけど、はるちゃんとずっと一緒にいて思ったのは、「はるちゃんのなかでは大きな悩みなのかもしれないけど、私たちから見たら可愛い姪っ子が悩んでるみたいなもの。そこまで深刻に考えなくていい」ってこと。そう思えた瞬間に、はるちゃんに対してムキになることがほとんどなくなりました。

はるか このふたり、家も近いんですよ。だから仕事終わりでもよく一緒に帰ってて。別にいいんですけど、何だか一緒にい過ぎて、メンバー内でカップルができているみたいな感じ(笑)。

あんり カップルっていうか、ふたりでひとりみたいな感じだよね。私と田辺さんは怒りとか自分が頑張ったことを、1回言葉にして整理したい人間なんです。はるちゃんなんかは、言葉にせずに黙々と頑張るタイプなんですけど、私たちは「頑張ったね」と言い合っていないとやっていけなくて。

田辺 この5年、ふたりでずっと励まし合ってきたからね。

あんり ふたりで泣いたりすることもしょっちゅう。しかも鳥貴族で。なぜか、私たちが泣くのは毎回鳥貴族なんです(笑)。

過干渉を避けつつ、時には親身に

田辺 でも、結成当初はそうじゃなかった。太ってるところも含めて「あんりと自分は似ている」と感じる部分は多かったんですけど、平場に出た時に「あんりが邪魔」と感じる瞬間も正直あって。

あんり 私もそう。「あれ、なんか田辺さんばかり注目されてる! 私、1回もいじられていない」と思うことが多々ありました。

田辺 それで、あんりとはお互いの役割とか立ち振る舞いについて、ずっと話し合ってきたんです。

あんり そうしたらしだいに、「田辺さん、最近悩んでそうだな」と顔を見ただけで分かるようになって。話し合いを重ねて、徐々にお互い分かり合えるようになってきた感じです。

桝本 過干渉にならないように気をつけつつ、場合によってはものすごく親身になることもある。それは人間関係におけるぼる塾のテクニックなのかもしれないですね。そういえば僕も昔、チュートリアルの徳井くんと一緒住んでいた時期があったんだけど、僕にとても嫌なことがあった時、徳井くんがまるで自分のことのように真剣に怒ってくれたことがあった。それを見て友情を感じたというか、胸を打つものがあったなぁ。

あんり 特に田辺さんは私以上に怒ってくれますね。だから自分が逆に冷めてくるというか、「そこまでは怒っていないし、田辺さんもそこまで怒らなくていいよ」ってなるんです(笑)。そうなると、何か自分の怒りが小さなものに思えてくるんですよね。

※3回目に続く

桝本さん-1
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出。

TEXT=古澤誠一郎

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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