全国屈指の野球の強豪校、愛媛県の済美高校で甲子園を目指して部活に打ち込み、現在はお笑いコンビ・ティモンディとしてテレビやラジオなど、幅広い分野で活躍する前田裕太さん。スポーツ万能なのはもちろん、常に冷静沈着で何でもそつなくこなすイメージのある前田さんだが、実は「自分は王道の芸人にはなれない」という思いを抱いているという。前田さんが考える「苦手なこととの向き合い方」とは?
ティモンディ前田が感じた挫折と、苦手なことへの向き合い方
ティモンディはデビューからわずか4年後の2019年に『アメトーーク!』(テレビ朝日)や『ゴッドタン』(テレビ東京)などで爪痕を残し、ブレイクを果たした。“お笑い第七世代”ブームの一角を担うコンビとして躍進し、ブームが落ち着いた現在も安定した人気を誇っている。
売れるまで苦節十数年という人も珍しくないお笑い界で早々に結果を出したわけだが、コンビのツッコミ・ネタ作成担当、つまり“ブレーン”である前田裕太さんは「お仕事をいただけるようになってからのほうが、挫折だらけですよ」と語る。
「メディアに出だした頃は『テレビの世界のキラキラした王道を突き進むぞ!』という強い気持ちがありました。ただ、しだいに『自分がやりたいことはテレビの王道向きではない』と思うようになったんです。
僕は本を読んだり文章を書いたりするのが好きですが、それはあくまでサブ的なエンタメというか、日本のテレビのメインカルチャーではないんですよね。それを痛感したことは、ひとつの挫折だった気がします」
お笑い芸人っぽさを求められる、いかにも“ザ・バラエティ”といった番組に出る際には、意気消沈することも多い。「『俺、いくら頑張ってもリアクションうまくならねえな』って思います」と前田さんは笑う。
「先日、オードリーの若林さんとごはんに行かせてもらって、それを相談しました。そうしたら『俺も最近、クイズで間違えた時に“負け顔”がうまくできなかったの。その後家に帰って15年前のノートを読み返したら、まったく同じことが書いてあった。全然成長していない(笑)。だから、自分が苦手で好きじゃないものは、いつまで経ってもうまくならないと思うよ』って言われて。
そりゃそうかって納得しましたね。僕が激辛料理を食べて『辛い辛い!』って叫んでも盛り上がらないのは、大袈裟にリアクション取ることを僕自身が好きじゃないからか、って」
しかし、だからといってそういった仕事を諦めようとは思わない。
「リアクションして全然ウケない時、向いてないとは思うけど、それでも頑張るのは“やりたいから”なんですよね。そこら辺は、変にお笑い芸人っぽいというか(笑)」
無駄なことを経験するほど、遠くにボールを投げることができるようになる
タイパ(タイムパフォーマンス)という言葉の浸透が示す通り、効率のいい時間の使い方が重要視される時代だ。向いていないことにはさっさと見切りをつけて、向いていることを探すべきだという考えもある。
「僕は、苦手なことをやらずにきた人よりも、向いていないことにも取り組み続けてきた人のほうが信頼できるし、いろいろと相談もしやすいですね。そういう人の言葉には、説得力がある。野球のマウンドじゃないですけど、いわゆる“無駄なこと”が積み重なっていくほど、より高くからボールを投げることができるし、遠くまで届くようになると思うんです」
もちろん、本当につらければ逃げればいいし、自分の気持ちを押さえつけながら無理して続ける必要はない。しかし、嫌なことにどうしても取り組まなければいけない状況は誰しもある。そんな時の心持ちについて、前田さんはこう話す。
「『頑張ったところでうまくはいかない』と割り切ったうえで取り組んでみるのも、ひとつの手だと思います。苦手なことには結果を期待せずに、『むしろこの経験がいつか、別のことに活きるかも』と思いながらやってみるほうが、精神的にもあまり思い詰めずにすむ。逃げるよりは諦めながらもやってみる、みたいな。
そうやって続けるうちに、本当にやりたいことや、自分自身の栄養素になるようなものが見つかるかもしれない。今の僕は、苦手なことをやる時はそんな気持ちでやっています。『うまくいかないんだろうな』と思いつつ、そこから得たものを、自分が心から好きで楽しいと思える仕事に還元できればいいなと思いますね」
※2回目に続く