放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年連続で人気投票数1位を獲得している桝本壮志さん。ゲーテwebでは仕事術や生き方をテーマにしたコラムも人気を呼んでいるが、新たに対談連載がスタートする。今回のゲストは、NSC東京校18期(田辺智加、酒寄希望)、NSC東京校20期(きりやはるか、あんり)で桝本さんの教え子だった、ぼる塾。新しい女性芸人のカタチを体現するぼる塾ならではの生き方・仕事論を、全4回にわたって聞いた。【ぼる塾×桝本壮志 対談①】
結成宣言後に1kgメニューを食べた思い出の店
桝本 今日は「スパゲッティーのパンチョ 渋谷店」でお話を伺います。ここはぼる塾にとって、どんなお店なんですか?
あんり 4人で来たのは、ぼる塾結成前で「しんぼる」と「猫塾」でツーマンライブをやった帰りだっけ?
※元々は「しんぼる」(きりやはるか、あんり)と「猫塾」(田辺智加、酒寄希望)という別々のコンビだったが、2019年に合流し「ぼる塾」を結成。
酒寄 そのライブで「ぼる塾になります!」ってファンに報告したんだよね。ライブ後にあんりちゃんが、「私、パンチョのスパゲッティーならメッチャ食えるんで行きましょう!」って言ってここに来た。
あんり 当時、トッピング全部乗せの1kgメニューがあったんですけど、私がそれを食べ切りました。4人組になるとはいえ、猫塾のふたりは先輩。 “大食いアピール”で頼もしい後輩だと思ってほしかったんです(笑)。
はるか あの日のあんりの食べっぷり、本当にすごかったよ。
あんり 実はトッピング全部載せはその日が初めてだったんですけど、「ここで食べ切れる姿を見せられないと、芸人としての自分の立場がなくなる。だから絶対完食しよう」って自分で勝手に思ってて。あと田辺さんとは時々ごはんに行っていたんですが、酒寄さんとはまだ関係性をつくれていなかったので、私のことを知ってほしかったのもありました。
桝本 仲良くなるために選んだお店がパンチョやったんですね。今でもパンチョにはよく行くんですか?
あんり 時々行きますし、私はUber Eatsで頼んだりもしています。
田辺 私と酒寄さんは猫塾時代にも、ヨシモト∞ホールでのライブ終わりとか、ネタ合わせ終わりにここに来てました。
桝本 下積み時代の思い出の味でもあるんだね。
酒寄 よく来てたので、私と田辺さんはトッピング無料券も毎回使ってました(笑)。
田辺 だからトッピングでお金を払ったことないんです。お金がない時代に、本当に助けられたお店です。
田辺と酒寄は12年間、毎日欠かさずLINEを継続
桝本 最近のぼる塾の活躍を見ていると、このパンチョから始まった4人が本当にカルテットとして成熟してきているよね。あんりとはるちゃんの田辺さん、酒寄さんに対するフランクな口調とかすごくいいなと感じるんだけど、さらに関係性は良くなった?
あんり なったと思いますね。特に酒寄さんと一緒にネタをつくり始めたのが大きいかな。
はるか YouTubeは以前から4人でしたけど、ここ2年ほどは劇場出番を含めて4人での活動が増えてきて、それがすごい楽しいんです。3人(はるか、あんり、田辺)で活動していた時期は、酒寄さんには「今日の仕事ではこんなことがあったよ」と毎日LINEで伝えている形でしたけど、直接話せるようになって距離も縮まってきました。
田辺 私と酒寄さんについては猫塾時代から12年、毎日欠かさず連絡を取り合っていて。そのやりとりは4人組になっても変わりないですね。
桝本 それはふたりで決めていたルールとかではなく、自然と?
酒寄 本当に自然とですね。今もふと思いついたことをLINEしている感じ。下らないやりとりも多いです(笑)。
桝本 それが12年経っても続いているってすごいなぁ。
はるか 猫塾さんは先輩なので、何回かライブをご一緒させていただく機会はあっても、ふたりがプライベートでどんなことを話しているか、聞いたことはなかったんです。それがぼる塾になってから、「あ、ふたりってこんな話でずっと盛り上がっているんだ」って驚きました。
あんり いつもふたりでいて他の芸人さんとあまり喋らないから、正直得体の知れない感じはあったよね。特に当時の酒寄さんは尖っていたから、「あの人は一体何を話すんだろう」と思ったら、実は超下らない話をしてた(笑)。
4人の距離が縮まることがネタに与える好影響
桝本 酒寄さんは毎日楽しい?
酒寄 いやぁ~、本当に楽しいです!
桝本 産休・育休が明けて仕事復帰してから1年半くらい経つけど、今の活動はどんな感じなの?
酒寄 復帰するまでは、「今から3人に追いつけるのかな……」と不安に思っていました。でも、これは3人やマネージャーさんに感謝なんですけど、劇場の仕事と自宅でできる仕事(原稿、執筆、ネタづくり、YouTubeの編集など)をとてもいいバランスで組んでくれていて。なので、仕事はしっかりとこなしつつ息子との時間もきちんと取れています。
桝本 ぼる塾のYouTubeチャンネルにアップされている「ネタづくり」がテーマの動画で、酒寄さんが「はるちゃんのセリフを上手く書けるようになって、本当にはるちゃんと仲良くなったんだなと感じた」みたいな話をしてましたよね。はるちゃんが甘えてきてくれるから、その人物像が分かってきた感じなのかな?
酒寄 はい。あとは劇場から一緒に帰るようになったりしたのも大きいですね。私、道に迷うことが多いので、はるちゃんによく道案内してもらってて。
桝本 酒寄さん、こんなにしっかりして見えるのに(笑)。
酒寄 地図が読めないんです(笑)。はるちゃんに、「ごめん。今日の場所は行けるか不安だから、一緒に行ってもらっていい?」って頼むと、優しいから毎回来てくれて。そうやって時間を過ごすなかで、はるちゃんの面白い部分や素敵なところもどんどん分かってきました。
桝本 なるほどなぁ。僕も芸人時代はネタを書く立場だったから聞きたいんだけど、ネタを書いている時って「自分がコントのなかで表現したい人物像」と「実際の相方の姿」の乖離に悩むことはない?
酒寄 一時期はありました。でも、「自分が描くキャラクター」に無理やりはめ込もうとしても、ぼる塾の場合は上手くいかないことに気づいたんです。実際のみんなの人間性とは全然違う“嘘のキャラ”を演じると、台本上ではめちゃめちゃ面白いと思っていても、この4人では面白くなくなっちゃう。一方で、台本ではまったく面白くない言葉も、例えばあんりちゃんが言っただけで、お客さんがめちゃくちゃ笑ってくれたりするんです。
桝本 机上の笑いと実際の笑いは違う、と。
酒寄 コンビ時代よりも4人になってからのほうが、そのことは強く感じますね。私は他に文章を書くお仕事もあるので、自分の理想の表現はそっちで追い求めて、ぼる塾でやる場合は4人の理想を追うのが正解なのかなと思っています。
桝本 ていうか酒寄さん、こんな細いのに食べるの一番早い!
酒寄 今日はパンチョでの取材だから、食事もできると思ってお腹をすかせてきたんです(笑)。
桝本 3人とはこの間も一緒にゴハンに行ったけど、そのときは酒寄さんがいなかったからなぁ。今度また一緒に行きましょう!