お笑いコンビ・ティモンディのツッコミ担当として活躍する前田裕太さんは、大の猫好き芸人としても知られており、保護猫の活動にも積極的に参加している。私生活でも2匹の愛猫と暮らしている前田さんだが、猫を一緒に生活するようになってその人生観にも変化が出てきたという。
“イマジナリー猫”との奇妙な暮らし!?
大の猫好きとしても知られるティモンディの前田裕太さんは現在、「ノエル」と「リオン」という2匹の猫と暮らしている。きっかけは2021年のことだった。
「いずれは飼いたいと思っていたのですが、ロケで出会ったブリーダーさんから『高齢を理由に引退を考えているブリーダーがいて、今年生まれた子たちの引き取り手を探している』とお話をいただきました。ぜひ迎え入れたくて、当時住んでいた家がペット不可だったので、早速引っ越しをしました」
しかし、実際に猫を飼い始める前に、前田さんは奇妙な生活を始める。
「まずは予行練習として1ヵ月間、架空の猫を育てました(笑)。とりあえずケージやごはんを用意して、お水も置いて、トイレの猫砂を洗ったり猫にブラシをかけるフリをしたり。はたから見たら、ヤバいですよね(笑)」
「ふゆ」と名づけたその“イマジナリー猫”との暮らしは、自身の生活リズムで猫の世話が十分にできそうかを確認するためのシミュレーションだった。結果、大丈夫という手応えを感じて、猫を迎え入れることに。それがラグドールのノエルで、半月後、別のブリーダーからの紹介でスコティッシュフォールドのリオンも引き取る。本物の猫2匹との生活は、前田さんの考え方にある変化をもたらした。
ずっと“家の存在意義”を見出すことができなかった
「実は、それまでずっと“家の存在意義”を見出すことができなかったんです。極端な話、東京ならカプセルホテルやネットカフェで寝泊まりしたほうが家を借りるよりも安上がりだし、ホテル暮らしなら片付けもしなくていい。荷物の受取りや身分証の作成など、社会のシステム上住所は必要だから一応家は借りていましたけど、芸人を始めた頃に住んでいた部屋は2畳くらいの狭さで、電気・ガス・水道が全部止まっていた時期もしばらくあるくらい、もはや人間的な生活をしていませんでした。それが、猫がいることで“家がある、家に帰る理由”ができたんです。自宅にドロップピンが刺さった感じ」
猫にも人にも自分の都合を押し付けない
2023年春からは『嗚呼!!みんなの動物園』(日本テレビ)で保護猫の預かりボランティアにも挑戦。これまでに「むぅ」「ぷりゅ」という2匹の保護猫とともに暮らした。
密着動画では猫への接し方、愛情深さから「ニャレ兄」のあだ名で視聴者に親しまれている。特に好評なのが、預かった猫たちに対して近すぎず遠すぎずの適度な距離感を保つ、前田さんの姿だ。
「猫という生き物が目を合わせるのが得意じゃないという理由もありますけど、僕自身も人からじっと見られるのが苦手。会話をしていても、ついつい視線を逸らしちゃう。そんな人間が猫にだけグッといくのもどうかな、と。また、猫には猫の人生があるので僕はそれをリスペクトしたいと思っています。人間関係も同様ですが、ペットだからといって自分の気持ちや都合を押し付けることはしたくない。僕の人生に組みこむというよりは、伴走者として一緒にマラソンを走っている感じですかね」
むぅもぷりゅも、飼い主の飼育崩壊(異常繁殖の末、ペットの飼育ができなくなる状況)から保護された経緯を持つ。人と接することに不慣れで警戒心むき出しの猫に心を開いてもらうには、何が必要だったのか。
「『保護猫だからこうだろう』みたいなバイアスはかけずに、向こうが望む距離感を早く察することが大事だと思っていました。猫にもすごい個体差があって、少し離れているのが心地良い子もいれば、めっちゃ甘えたがりの子もいる。そういう様子が徐々に見えてくると、今までの環境のせいで見失っていた本来の自分を取り戻す手助けができたように思えて、嬉しいですね」
犬や猫と暮らすということは、他者と共に生きることにほかならない。その経験は当然、前田さんの人生に大きな影響を与えている。
「ノエルもリオンもまだ若いのでまだ10年以上は生きると思うんですが、亡くなった後のことをもう考えてます。遺骨をダイヤモンドにできるサービスを知って調べたり、写真をたくさん撮ったり。早くも終活をしているような感じかもしれません。
猫が死んでしまうのは本当に怖いし想像したくないけれど、やっぱり僕といる間は幸せであってほしい。そして、猫にそれを願うだけじゃなくて、僕自身も死ぬ時に『幸せだった』と思えるような人生を送らなきゃとも思うんです。一人暮らしの頃にはそんなこと考えたこともなかった。そういう意味では、猫との生活は本当に僕を成長させてくれたと思います」