放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
「NSCの生徒とは、どうやってコミュニケーションを図ってるの? やっぱ飲みニケーション?」
このコラムを愛読してくれているテレビ制作会社のK社長にそんな質問をされました。
「飲みニケーション」が死語かどうかは横に置くとして、NSCは在学生との会食が禁止なので、みなさんの会社のような「飲み」によるコミュニケーションは図れません。
しかし、自覚はありませんが、僕は「若手とのコミュ力が高い」と言われています。
では、飲まず食わずで、どんな意思疎通を行っているのか?
桝本流のキーワードは「地味ニケーション」です。
それでは今週も、あなたとK社長をほぐしていきましょう。
7万「いいね」がついた、生徒主導のNSC授業
以前、何気なくアップした授業風景に、X(旧Twitter)で7万「いいね」がつきました。
リモートと対面を併用した約150名クラスで「ネタ見せ」を始めようとしたとき、突然、仮面姿の男(生徒)が画面に現れ、授業をジャックして……。
「今から、面白いヤツだけが生き残れる、芸人デスゲームを始めま~す!」と、勝手に授業変更された写真でした。
この投稿に、「吉本の生徒ってこんな自由なの?」「若手が授業を乗っとれる環境がいい」など、驚きと好意的な意見が寄せられたのですが、この「自由さ」と「環境」には、日頃の“地味ニケーション”があったのです。
では、そのツボを押さえる前に、大切なステップも押さえておきましょう。
リーダーは「有能」と「地味」を使い分ける時代
あなたは職場で、ちゃんと有能ぶっていますか?
「有能」ではなく「有能ぶる」。これが地味ニケーションの最初のステップです。
僕は教室に入るとき、ゲームでいうところの「もっともHPとMPが高いキャラ」をセレクトして“有能なキャラになった自分を操作する感覚”で教室に入ります。
リアルな自分のHP(体力)とMP(メンタル力)の低さはおかまいなし。姿勢、歩き方、対話、すべて「有能キャラになった自分」を遠隔操作していくんです。
なぜなら、リーダーポジションは芝居でいう「配役」に過ぎず、新人や部下が“「なりたい自分」になるための補助線を与えていくだけの人”であればいいので、有能に見えるほうが彼らにとっても都合がいいからです。
「有能ぶる」がルーティン化できると、おのずと部下たちの視線があなたに集まります。いま僕には約1500人の生徒がいるので集中砲火です。
しかし、有能な自分ばかりを演出していると、ただ「鼻につく上司」になってしまい求心力は下がります。
そこで大切なのは、大きな空間(授業、部署、プレゼン会議室など)では、自分のスケールを大きく見せ、小さな空間(エレベーター内、廊下、社食など)では、スケールを下げて等身大の自分でいる。つまり、地味ニケーションが有用になってくるのです。
地味ニケーションの初手は、大勢の前で楽しげな密談
地味ニケーションの手法は、「大勢でなく地味に2人で」「仕事の話でなく趣味や家族などのスモールトーク」など様々ですが、最初のハードルは“どうすれば部下が話しかけてきてくれるか?”でしょう。
僕のテクニックの1つは、「大勢の前で楽しげな密談から始める」です。
例えば、授業終わりに、クラスの中で目立つ系の生徒を呼び止めて「地味な会話」を楽しみます。
すると、普段は有能ぶっているので、他の生徒は「何を話しているんだろ?」「オレも話してみたいな」という興味が生まれます。
そのうち、別の生徒が話かけてくるようになり、一人、また一人と、地味な対話の輪が広がるといった塩梅です。
こういった地味ニケーションを続けていくと、たわいもない会話から、ポンと生徒のほうから「今度、授業で〇〇をやっちゃダメですか?」「1回やらせてくださいよ」といった“たくらみ”や“ビジネスアイデア”が出てくる。
その1つが、冒頭の「7万いいねされた授業ジャック」なんですね。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。