放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年連続で人気投票数1位を獲得している桝本壮志さん。今回のコラムのテーマは「怒り」の感情の対処法。なぜ明石家さんまは決して怒らないのか? 桝本さんが信条としている「怒るときは許すとき」という言葉の真意とは? お笑い芸人を育てる講師が培ったアンガーマネジメントの方法を綴ります。
明石家さんまの「怒らない秘訣」とは
先日、担当している『さんまのまんま』(関テレ)で、さんまさんが「今まで一度も怒ったことがない」と語っていました。
お笑いモンスターを“世間のものさし”にするのは常識的ではありませんが、さんま流の「怒りとの付き合いかた」、いわゆるアンガーマネジメントは知っておいて損はないと思います。
なぜ、さんまさんは怒らないのでしょうか? それは思考法にあります。さんまさんは誰かにイラっとしたとき、次のように考えるそうです。
①まず、「俺をイラっとさせる人間=アホなヤツ」と考えます。
②次に、「そもそも自分は誰かを怒れるほどエラい人間か?」と自問します。
③すると、「そんなにエラい人間ちゃうわ」と気づき、思いとどまります。
イラっとさせる人=無駄なエネルギーを使わなくてもよい相手だと考える「ゆとり」。自分は他者に怒れるほどエラくないと思える「自制力」。このメソッドは職場や芸人学校でも大いに役立ちました。
怒り方、叱り方のコツ&センス
しかし、「一度も怒らない」は至難の業。リーダーポジションの方や、僕のような指導者、お子さんのしつけなどでは、怒ることが必要なシチュエーションがしばし訪れます。
ですが、怒り方、叱り方にもコツやセンスがいるんです。
以前の僕は、怒りっぽい性格だったので、頭ごなしに大声で叱っていました。けれど、場の空気は悪くなるし、生徒は委縮するばかり。決して人気講師ではありませんでした。
それもそのはず。僕は“大きな声を出せば人は従う”と勘違いしていたんです。大きな音を鳴らす目覚まし時計があっても、本人に起きる気がないと無意味なように、いくら大声で叱っても、相手に「受け取る気持ち」がないと響くはずがないのですから。
それに気づいた日から、アンガーマネジメントの本を読み込み、さんまさんのメソッドも実践。自分流の「怒りとの付き合い方」を構築していきました。
桝本流叱るときの5つのポイント
ちなみに僕が、他者を叱るときに注意しているポイントは以下の5つです。
①時間をおかない
→間をあけると怒りが増幅するので、すぐに伝えます。
②1対1で
→大勢の前で叱ると「吊るし上げ」になるだけ。叱られる側も集団の前だと心も態度も硬化します。
③遡(さかのぼ)らない
→注意するのは「今やったことだけ」にします。「君って、前も同じことやってたよね?」とか、「前から思ってたんだけどさぁ」などと時間を遡って叱らないようにします。
④私情を入れない
→例えば、もし部下や子供が約束を守らなかったとき。「約束を破ったから叱る」はいいけど、「約束を破られた自分が恥ずかしいから叱る」は私情。あなたの世間体を着火剤にしてはいけません。
⑤怒るときは許すとき
→そもそも怒る行為は「二度と怒らなくてもいい状況をつくるため」のアクションのはず。しかし、怒った後でも機嫌が悪い人、陰口を言い続ける人、怒った相手にレッテルを貼る人。自分の怒りを「お前もそう思わない?」とわざわざシェアしてくる人。周りにそんな大人がいませんか?
その人は「次の怒りへの準備運動」をしている人に過ぎません。きっとまたキレちゃうし、火種を探す人になるのです。
なので僕は、生徒に対して「怒るとき=許すとき」と決めています。許すということは、忘れるということ。短く注意をしたら「はい、ココまで」。その瞬間、相手のミスや落ち度はキッパリ忘れ、叱る前のイメージ“素敵なヤツ”にリセットするのです。
その甲斐あってか、この10年、生徒とは円滑な関係。なかには「あんな失礼なことをしたのに覚えてないんですか?」「面白エピソードはたくさん覚えているのに、僕がやった無礼は1ミリも覚えてないですね!」と、卒業生に驚かれることもあるほどです。
それでいいんです。自分が使えるエネルギーは有限。「怒り」という大容量のエネルギーを使うときは、家族や、傷ついてほしくない数人を守るためにとっておく。あとはスルー。それくらいが丁度いいんです。