高校の同級生だった上田晋也とコンビを結成して31年。シュールな笑いと独特なボケで人気を博し、コンビだけでなくピンでも多数のレギュラー番組を抱える芸人・有田哲平。お笑い業界最高の実力者のひとりと称されているが、近年、制作者としても高く評価されている。とくに、『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系列。毎週金曜23:00~23:40放映。以降『脱力』)では、MCに加え、総合演出という肩書きを持ち、企画や演出で腕を振るう。企業に例えるなら経営トップとも言えるプロデューサーとしての有田哲平の魅力に迫る5回連載「天才・有田哲平という男」の1回目。
さりげなく総合演出の座を手に入れた『全力!脱力タイムズ』
有田哲平扮するアリタ哲平がメインキャスターを務め、岸博幸氏や齋藤孝氏、出口保行氏といった学者、有識者が“全力解説員”に名を連ね、芸人などがゲストで参加する『全力!脱力タイムズ』。毎回、「世の中のニュースを、各界の有識者たちが大まじめに解説。ところが、次第に話が脱線していき、思わず脱力してしまうような予期せぬ展開が起こるという、報道番組スタイルをとったバラエティ番組だ。2015年にスタートして7年余り、視聴者だけでなく、業界にもファンが多いこの番組で、有田哲平は現在、総合演出をも務めている。
「最初は、演者としてオファーを受けただけで、企画や演出に参加するという話ではなかったんです。それが、収録終わりに『次はこんなことやろうか』なんて、(制作総指揮を務める)ラリータや(企画の)狩野くんと1時間くらい話すようになり、だんだんと、1時間が2時間に、収録終わりが別日になって、『次回はこんなゲストが来ますが、有田さんはどうしたいですか?』と、気がついたらガチの企画会議になっていたんですよ。今では、多い時だと週2、3回、彼らと顔を合わせますね」
そういう有田だが、「僕自身も、ちょっとずつ番組に浸食していったところはありますね。まず、ちょっとしたアイデアを出すところから始まって、キャスティングを提案するようになり、全体に関わるようになるという。1、2年かけてパラサイトしていった感じです」と、笑う。聞けば、20代の頃から、飲み会の席などを利用し、テレビ番組スタッフに、自分が考えた企画やアイデアについて伝えてきたという。以前から、演者としてだけでなく、笑いをプロデュースすることにも関心を抱いていたというわけだ。
しかも、その企画・演出力は、人気演出家や放送作家といった制作のプロや、芸人仲間、共演する有識者からも、絶賛されている。とくに高く評価されているのが、「人を見る目」だ。
「ゲストに来た芸人さんの面白さを伝えるには、どうしたらいいか、スタッフとは、ものすごく話し合いますね。僕は芸人なので、(ゲストの芸人が)これくらいなら応えられる、これ以上はつぶれてしまうという境界線は、わかっているつもり。だから、ギリギリよけられるくらいの”キック”を出すようにしているんですよ。それくらいの状況が、芸人は一番ワクワクしますから。
ただ、ご本人には、毎回ダミーの台本を渡すので、収録前は不安でしかたがないと思いますよ。『今回は、どんな無茶ぶりされるんだ⁉』って。でも、オンエアされたら、めちゃめちゃ面白くなっていて、『また呼んでください』と、なることが多いですね」
“あおり”がピークみたいな見せ方は壊したい
さまざまな話題を振りまいてきた『脱力』だが、”神回“として、今も語り継がれている回がある。2019年12月度ギャラクシー賞月間賞を受賞した「アンタッチャブル復活」(2019年11月29日放送)の回だ。
それまでも数回、柴田英嗣を芸人ゲストとして招き、バービーやハリウッドザコシショウ、コウメ太夫などを、相方・山崎弘也に見立てて漫才をするという展開を放送してきたが、この日は、最初に相手役として出演していた俳優・小手伸也が、途中退場した後、本物が登場。約10年ぶりに、アンタッチャブルとして漫才を披露した。山崎が出演することを事前に知っていたのは、有田とラリータ氏、狩野氏ら数人のみ。柴田はもちろん、解説員にも伏せられていたという、壮大なサプライズを仕掛けた。
「今のバラエティって、『あの誰々が登場⁉』といった“あおり”がピークだったりするじゃないですか。視聴者としては、そこだけ観れば十分みたいな。(番組の見所である)ハイライトやあおりシーンをしょっちゅう流すことで、視聴者にチャンネルを変えさせないようにするという意図はわかります。でも、番組を根っから愛してくれる人は、そんなことをしなくても観てくれるし、それだけの信頼関係が築けていると思っています。だからこそ、『脱力』は、告知だけ観ればだいたいわかるような番組ではなくて、ちゃんと最後まで観ないとわからない番組にしたい。最後まで観てくれれば、もっと面白いことするよ、驚かせるよって。プロレスと同じですね。エンタメで必要なことは、すべてプロレスから学んだので(笑)」
大のプロレス好きとして知られる有田だが、エンタメ必勝策もプロレスから学んだとは! 次回は、番組づくりの信条について語ってもらう。
Teppei Arita
1971年熊本県生まれ。’91年、高校の同級生・上田晋也とお笑いコンビ「海砂利水魚」を結成。2001年、コンビ名を「くりぃむしちゅー」に改名。現在、『しゃべくり007』『くりぃむクイズ ミラクル9』『今夜はナゾトレ』『世界一受けたい授業』などレギュラーを多数持ち、ピンでも『全力!脱力タイムズ』等に出演。俳優のほか、YouTubeチャンネル『有田哲平のプロレス噺【オマエ有田だろ!!】』も好評。