放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「入社早々、ものすごく能力の高い同期がいて、自信をなくしてしまいました。ここでやっていけるのか? 肩を並べるまで何年かかるのか? とても不安です。周りと能力の差を感じてしまったときの対処法を教えてください」という相談をいただきました。
これは、どの業界でも同じですよね。吉本NSCでも、舞台経験ゼロの初心者と、大学のお笑いサークル出身で賞レース経験もある即戦力が、同じ「新入生」としてやって来るので、相談者さんのような不安を抱えている新人をたくさん見てきましたし、コーチングしてきました。
そこで今回は、僕の知見をもとに「能力の高い同期を見て自信をなくしたときの思考法」をシェアしていきたいと思います。
あなたの評価は「優秀な同期」でなく「不安」が下げます
能力の高い同期を見たとき、頭をよぎるのは「自分は評価されないんじゃないか……」という心配ですが、はっきり言って、優秀な同期によってあなたの価値は下がりません。
会社は、入社前に「どこで何をしてきた人か?」を把握していますし、経歴や人柄をふまえて「採用」という評価を下しているので、優秀な同期もあなたも「大いにアリ」な人材だからです。
しかし、毎年のように“自分で自分の価値を下げていく新人”が出てきます。
それは、同期を見て「不安」になり、委縮したり意欲を低下させ、大いにアリだった可能性を自ら封じ込めてしまう新人です。
吉本NSCでも、最近は大学のお笑いサークルなどの経験者が増えたので、ネタ見せのときに経歴資料を見ながらダメ出し(講評)のレベルを調整し、その人に合った育成をしています。
しかし、「自分はダメなんじゃないか?」という思考の生徒は、新ネタや発言(プレゼン)をしなくなるので、マネジメント側の育成意欲も下がっていき、評価を落としてしまうんですね。
ただ実は、世の中の指導者は「未経験者でも経験者以上に成長が可能」という確固たるデータを持っています。
例えばお笑い講師の僕の場合は、令和ロマンがM-1を連覇したこともあり、世間は「大学お笑い出身者が優秀」というイメージになってきていますが、1万人の教え子の中で、賞レース決勝にいった大学お笑い出身は令和ロマンだけ。
過去に決勝にいった16組中、15組が未経験から決勝にいったというデータを持っています。
さらに、NSC入学から1年間の成長度合いでいえば、経験者よりも、変なクセがついていない未経験者のほうが、伸び幅が大きいことも知っている。
だから、「不安」というトラップにハマってしまう新人たちが非常にもったいないんですね。
では、どのようなマインドで仕事に臨めば、不安に振り回されずブレイクスルーに近づくのでしょうか?
伸びる人は「才能」より「才気」なんです
よく新人は、「才能がほしい」「自分には才能がない」など、なにかと「才能」を気にします。
しかし、僕に言わせると“新人は、才能よりも「才気」がある人のほうが伸びていく”んです。
才気とは、よく気がつき、物事を適切に処理したり対応したりできる能力のこと。
先天的でなく精神的な能力でもあるので、その気になれば誰だって磨いていくことができます。
これまで僕は、たくさんの才能ある若手と出会ってきましたが、その多くが芸人を廃業していきました。
とくに多いのが、面白いネタが書けるのに、うまくコミュニケーションがとれずに人間関係の不和で辞めていくケースです。
インドの山奥で暮らす人にサーフィンの才能があっても、海に行かないと才能が開花しないように、私たちの才能は“しかるべき場所”に行かないと発揮できません。
自分が活躍できる場所に行くには、職場の人たちと良好な関係を築き、問題やタスクにうまく対処して信頼を積み重ねていくこと。
そう、まず「才気」があって「才能」が開花していく。それが仕事であり社会人であるということなんですね。
さあ、あなたの才気で、まずは能力の高い同期と競争ではなく協力してみませんか?
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。