放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
苦手な目上の人はいますか?
避けたいけど、同じ職場なので距離を置けない。苦手意識があると、絡めば絡むほどイヤな気持ちが増幅する。そんな方も多いことでしょう。
今週は、M-1グランプリ王者になった令和ロマンを“芸人1日目”から知り、問題児の生徒だったのに、いつの間にか彼らに心奪われ、大ファンになっていた僕が、2人とのエピソードを挿話しつつ“苦手な目上の人の手なずけかた”や“心の持ちかた”を伝えていきたいと思います。
目上の人は「ホメ」と「ムチ(無知)」で手なずけよう
「苦手な先輩とうまく付き合う方法は?」
芸人学校でも、よくこんな質問をされます。
そんなとき、僕は生徒たちに「大人はアメとムチで手なずけようとしてくるから、君らは“ホメ(褒め)とムチ(無知)”で大人を手なずけよう」と言っています。
一体どういうことなのか? 着想のきっかけになった令和ロマンとの思い出とともに紐解いていきましょう。
偉い人ほど、ホメられると沁みる。オトせる
まず芸人学校の講師は、生徒らの漫才やコントに「ダメ出し(良くない点を指摘すること)」をする立場なので“苦手な目上の人”になります。きっと令和ロマンも僕のことがイヤだったはずです。
ところが6年前、まだデビュー数ヵ月の2人から、突然こんなLINEが届いたのです。
「この度、初めて単独ライブをやらせていただくことになりました。桝本さんにライブタイトルを命名していただくことは可能でしょうか? 命名していただけると、一生の思い出になるのでご検討宜しくお願い致します」
僕が「一生の思い出になる」というワードに胸を撃ち抜かれ、すぐに承諾したことは言うまでもありません。
私たちは、幼いころはたくさんホメてもらえますが、大人になるにつれてホメられる回数は減ります。さらに在宅ワークが進んで対面する機会も減り、江戸時代の“コメ不足”ならぬ“ホメ不足”の世の中です。
特に、立派なポジションに就いている人ほど、たくさんゴマを擦ってきた世代なのに、下からはあまりホメてもらえないし、お願いごともされない。さらにコンプライアンスの壁があり、実は孤独を感じているリーダーも多いのです。
なので偉い人ほど、ホメられたり、お願いごとをされると想像以上に沁みますし、「オレが一肌脱ごう!」と、あなたのサポーターになってくれる確率が高くなります。
令和ロマンの凄さはムチ(無知)を装えるピュアさ
知っている方もいるでしょうが、令和ロマンは吉本NSC在学中、「問題児」と呼ばれていました。
無断で他事務所のライブに出演したり、恋愛禁止なのに吉本内で彼女をつくったり、別の講師が書き下ろした芝居を勝手に全部リライトして上演をし、大激怒されたこともあったほどです。
しかし僕は、彼らと初めて会ったときから「問題児」という印象はまったく受けませんでした。
漫才のおもしろさは当時からピカイチでしたが、何より印象的だったのは“ピュアに質問をしてくる姿勢”でした。
「あそこはどうすればいいか?」「後半の膨らませかたは正しいか?」など、素朴なものから高度な疑問まで、おのずと講師がやる気になる、彼らに協力したくなる質問をどんどん差し出すのです。
2人は慶応大卒で、学生時代にコンビを組み、多くのライブに出ていたので、僕の「アドバイス」は大よそ知っていたはずです。
ですが彼らは、「若手」「新人」というポジションを考慮して「無知(ムチ)」を装うことができた。その振る舞いによって、僕をはじめ多くのサポーターを獲得したのです。
もちろん彼らは、「いや、桝本さんだったからですよ」と、例によって最近もホメてくれました。しかし、彼らが持ち前のピュアさがゆえに無知(ムチ)を演じることができ、かわいい生徒であったことは誰よりも僕が分かっています。
今後とも、かわいい令和ロマンをよろしくお願いします。それではまた来週。