放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)の人気NO.1講師・桝本壮志さんのコラム。今回は、完成度や周囲の評価を気にして、一つ一つの仕事を終えられない人、そもそも取りかかれない人必読!
どんなに低レベルでも「とりあえず完成させる」大切さ
いま「手が止まっている仕事」はありませんか?
ビジネスパーソンなら資料作成や企画書、クリエーターなら作品、学生なら提出課題。そう、皆さんありますよね。
「やらなきゃならないこと=目標」は眼前にクッキリあるのに、なかなか手につかない、途中で手が止まる、というのは“人間あるある”。その先にやって来るのは「自分には才能がないのかも」「この仕事に向いていないのかも」という負の感情だったりするので、ことさら厄介です。
かつて僕も、台本になかなか取り掛かれず、コラムや小説も途中で投げ出す困った人間でした。そんな日々が好転したのは、『世界まる見え! テレビ特捜部』(日テレ)や、『そこんトコロ』(テレ東)などでご一緒してきた、所ジョージさんの「完成度は低くていいから完成させてみな」という言葉でした。
- どんなに不出来でもレベルが低くても「完成させる」というゴールを切る。
- ゴールテープを切る経験を重ねていくと「完成させるコツ」を覚えてくる。
- そうすると「完成させる感性」も身についてくる。
このメソッドは、「立派なモノを作ろう」ということにばかり気を取られ、未完成品が山積みになっていた僕の頭をガツンと打ちのめし、その後のモノ創りの大きな支柱になりました。
所ジョージさんが「私にできないモノはない」と言える理由
吉本NSCの生徒からも、「漫才が最後まで書けない」「コントの設定は浮かんだが、うまく展開できない」という相談がたくさんあります。そんな時も、所さんの顔を思い浮かべながら「完成度より完成させる大切さ」を伝え、「高みを目指すのなら、挑戦の分母を増やそう」と語りかけます。
富士山は、その高さが目を引きますが、周囲153kmもの底があってこそ日本一の高さを出せています。所さんも日本の頂点に立つタレントのひとりですが、世田谷ベース(所さんの作業場)に溢れているプラモデルや発明品、大ヒットはないけど1000を超える楽曲をはじめ、挑戦して完成させた作品の数は富士山級。その分母の下支えがあってこその現在地だからです。
しかし、挑戦には“うまくいかない”が付きものです。うまくいかないと意欲やメンタルも疲弊します。では、そんな状況下で所さんはどうしているのでしょう?
所さんは、「私にできないモノはない。全てうまくいく」とおっしゃっています。それはナゼでしょうか? 答えはシンプル、「何度でもやり直すから」。途中であきらめない姿勢が“うまくいく確率”を格段に上げるとも言っています。
これは、「挑戦=そもそもうまくいかないもの」を前提として考え、ミスや失敗は目標達成の「過程」だと思える心構え。効率よく成果にたどり着く「成功者」よりも、遠回りしてもいいし、失敗しながらヒントを見出していこうという「成長者」としての態度があるのです。
令和初のM-1王者となったミルクボーイのふたりにも同じことが言えるでしょう。史上最高点を叩き出した、あの「コーンフレーク」や「もなか」に代表される“リターン漫才”は、王者になる12年前、大学生の時にすでに「原型」が存在。そこから何度も予選敗退を繰り返し、腐りかけた時期もありましたが、相方を信じ、原型を見つめ直し、分解し、加工し、磨き上げて黄金のトロフィーを奪取しました。これも、あきらめなかった姿勢が、うまくいく確率を上げた一例でしょう。
人生のどん底の時期に響いた所さんの金言とは?
最後に、今回のような「目標」の話をすると、「そもそも僕には目標がありません」と言う方が一定数います。
僕も20代のころ、働いていた劇場が閉館となり失業。目標もなく、お金もない。周囲の人々がみんな敵に見えていた時期がありました。
そんな時、かつて大学を除籍になり、人生の暗転を味わった所さんのこんな言葉が目に入ってきました。
「何もやることねえなぁ、つまんないなぁって、家でゴロゴロしてた時期があって、何でこんなにつまんないんだ?って自問自答したら、自分が一番つまんないヤツだって気づいたの」
僕自身の転機となった一文が、誰かの一助になれば。そんな願いを込めて、今週はこれにて“完成”とします。