放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年連続で人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんと、その教え子だったぼる塾(NSC東京校18期[田辺智加、酒寄希望]、NSC東京校20期[きりやはるか、あんり])の対談記事をまとめてお届け! ※2024年9月掲載記事を再編。
1.【ぼる塾・あんり】”トッピング全乗せ1kgスパゲティ”に込められた、4人組結成秘話 「頼もしい後輩だと思ってほしかった」
桝本 今日は「スパゲッティーのパンチョ 渋谷店」でお話を伺います。ここはぼる塾にとって、どんなお店なんですか?
あんり 4人で来たのは、ぼる塾結成前で「しんぼる」と「猫塾」でツーマンライブをやった帰りだっけ?
※元々は「しんぼる」(きりやはるか、あんり)と「猫塾」(田辺智加、酒寄希望)という別々のコンビだったが、2019年に合流し「ぼる塾」を結成。
酒寄 そのライブで「ぼる塾になります!」ってファンに報告したんだよね。ライブ後にあんりちゃんが、「私、パンチョのスパゲッティーならメッチャ食えるんで行きましょう!」って言ってここに来た。
あんり 当時、トッピング全部乗せの1kgメニューがあったんですけど、私がそれを食べ切りました。4人組になるとはいえ、猫塾のふたりは先輩。 “大食いアピール”で頼もしい後輩だと思ってほしかったんです(笑)。
2.ぼる塾・あんりと田辺「お互いを邪魔だと思っていた」
桝本 ぼる塾は酒寄さんが産休・育休でしっかり休みを取ったけど、2023年は各メンバーが体調不良でお休みする時期もありましたよね。ぼる塾って、辛くなったらきちんとSOSを発信して休みを取っているように見える。世の中には「休めずに無理して頑張っちゃう人」がたくさんいるので、ぼる塾の”休むことへの意識”を伺いたいなと思います。
あんり たぶん、4人のなかで一番体調を崩しやすいのは私。コンビ(しんぼる)時代から体調不良は多かったんですけど、その頃は正直休みにくくって。それが4人になると、頼れる仲間の人数が増えて休みやすくなったし、酒寄さんが復帰したのも本当に大きかったですね。3人でネタをやっていた時は、ネタづくりをする自分が何となく全体を主導している感覚がありましたけど、4人になるとその意識も変わったので、「私は休むので、あとは任せます」と言いやすくなりました。
田辺 3人で舞台に立っていた頃は、例えば急な体調不良であんりが舞台に出れないってなると、はるちゃんと私はメチャクチャ不安でした。でも、そのぶん「しっかりしなきゃ!」って思うんでしょうね。ふたりとも急にスイッチ入って、スタッフからは「出番は15分の予定だけど、5分でいいですよ」って言われたのに、謎のプライドを発揮した時もあった。
はるか しっかり15分やったよね。
田辺 あと1回、私とあんりが体調を崩して、酒寄さんとはるちゃんのふたりでネタをやったこともありました。
桝本 それ、一番心配な組み合わせやなかった?(笑)
はるか でも酒寄さんが当日の朝に、私たちふたりでできるネタをつくってきてくれて。私はもう「酒寄さん、ついていきます!」という感じで、ネタ覚えるだけでした(笑)。
桝本 今のぼる塾は、自分が3人に迷惑をかけることをそこまで不安に感じてなさそう。「この3人がいるんだから大丈夫」という信頼感があるからなのかな。
あんり そうだと思います。お互いに迷惑をかけているし、かけられている意識もあるので(笑)。「あいつも私に迷惑かけてきているし、少しくらい休んでもいいか」みたいな。
3.「イヤなことする人はスベらせる」ぼる塾のパワハラ対処法
桝本 女性が増えてきたとはいえテレビ局もお笑いの世界もまだまだ男社会だけど、僕はこの業界で一度もぼる塾の悪い評判を聞いたことがないんですよ。
あんり えーっ! 本当ですか? 嬉しい!
桝本 「忙しすぎてスケジュールが取れない」くらいかな(笑)。4人には「男性社会のなかでうまくやっていくコツ」みたいなものはありますか?
あんり 男社会で女性が生きづらいってよく聞くんですけど、私は女性芸人であることに得しか感じたことがないです。例えば、テレビのひな壇でも男性芸人がほとんどなので、女性として発言を求められるターンが必ず来る。だからうまく発言ができない状況でも、「いつかこっちに質問が来るから、そこで頑張ろう」と思えます。他の女性芸人さんもみんな、「やりにくさ」よりも「やりやすさ」をうまく探している印象ですね。
桝本 はるちゃんから聞いたけど、あんりはNSCに入った時に「毎日楽しい!」って言ってたらしいね。
あんり そうです、そうです。芸人になるまでこんなに自分が目立つことなかったので、本当に日々楽しくて。芸人になった瞬間にちやほやされて、何か売れるためのレッドカーペットが目の前に敷かれていて、「いいんですか? このまま売れちゃいますよ」みたいな感覚でした(笑)。
はるか 私はあんりとふたりでNSCに入ったんですけど、他の生徒の女の子があんりに「よかったら組んでください」って次々と声をかけてくるんですよ。隣に相方の私がいるのに。その頃からあんりにはオーラがあったんでしょうね。
4.同期のネタで笑ってOK!? ぼる塾、吉本NSC講師に感謝していること
桝本 NSC時代の僕の授業で覚えていることを聞かせてもらえますか?
あんり 桝本さんは講師のなかで、一番生徒と近い距離感にいた存在だったと思います。他の講師の授業は「同期のネタで笑っちゃいけない」というルールがあることが多かったけど、桝本さんの授業は笑ってOKだったし、いい意味で緊張感がなかった(笑)。ネタ見せが終わった後にも、「何か話したいことある人いる?」みたいにみんなの前で雑談をする時間もありましたから。
それも、笑いを取るためのエピソードトークを披露するとかじゃなくて、内容は本当に何でもよかった。だから、私は当時好きだった男の子のことを桝本さんの授業で話しました。何のオチもなく、始まってすらいない恋の話(笑)。「たまたま同じ小説家が好きで、小説の貸し借りしているんです」と言ったら、桝本さんが「小説はええよ。読んでいる本を知ることは、相手の心のなかを見ているようなもんやから」と素敵な言葉をくれた。私の個人的な相談を他の生徒全員が聞いている、不思議な時間でした。
桝本 僕は「授業中は何してもええよ」と言っているからね。なぜか「俺は永遠に牛丼が食えます!」と言っている生徒がいて、「じゃあ、この金で神保町じゅうの牛丼買ってこい!」って2万円渡して、70杯の牛丼を授業が終わるまでずーっと食べ続けてもらったこともあったなぁ(笑)。
※NSC東京校が神保町にある
あんり 桝本さんの授業で話したのは本当にただの雑談でしたけど、芸人の仕事ってガッツリ準備してきたエピソードトークはもちろん、「ぼる塾さん、いつもの感じでしゃべってください」みたいにフリートークを求められることも多い。
劇場とかでMCをやらせてもらう時も、「自然に雑談をする」というのが最近少しはできるようになってきました。その原点には、間違いなく桝本さんの授業があると思います。