放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年以上にわたって人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんが、人気芸人・クリエイターと対談する本連載。今回のゲストはNSC大阪校13期の同期で、桝本さんと同居していた時期もあるチュートリアル・徳井義実さん。ネタ作りの秘訣や漫才づくりの裏側、仕事や人への向き合い方、近年のM-1に対する見解などを全7回にわたって聞いた。第7回。

見返りを求めるくらいなら関わらない方がいい
桝本 若手芸人との付き合い方で意識していることって何かある? 若者とのコミュニケーションに苦労しているビジネスパーソンも多いからね。
徳井 ざっくり言うと「違いを尊重する」ということかなあ。上司って部下より経験値があるから、「そのままだと失敗するよ」みたいについ言いたくなっちゃうと思うんやけど、結局未来がどうなるかなんて誰も分かんないじゃないですか。なので基本的に、若い子に対して僕は何も言いません。
あと、年長者からのアドバイスってどうしても「言いたい感」が漏れ出ちゃうことも多いじゃないですか。アドバイスしている自分に酔う、みたいな。だから嫌がられるんですよ。そこは抑えないといけないなと思ってます。
桝本 あと世代が変わると「普通」の感覚も変わってくるからね。芸人1年目の子たちと最近グループLINEでやりとりしてるんだけど、発言しても全然返信がないの。グループLINEに8人もいるんだよ? でも誰からも返信ないし、スタンプもつかない。でも、それが彼らの「普通」なんです。「見てるんだったら返事してよ」って思う気持ちもあるんですけど、それは言わないように僕もしてるね。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。2連覇した令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1決勝に輩出している。
――部下の育て方について悩むビジネスパーソンもいると思うんですけど、徳井さんは「後輩の育て方」についてどう思いますか?
徳井 別に俺、全然育ててないからな……。「育てる」と思うのもおこがましいなと感じている人間なので。仕事の現場では「お金をもらって仕事している以上、これはやってもらわないと困るよ」ということは、必要があれば言います。でもほんまにその人に対して愛情があるならば、その子が自分で考えて自分の力でできたと思わせるように、陰でサポートするのが大人の役割かなと思っています。そこで「俺が教えてやった感」というのを出したらダメ。
桝本 徳井くんの考え方って、すごい今の時代っぽいと思うのよね。「先輩が後輩を飯に連れていく」みたいな芸人のカルチャーからも、早々に離脱した人だし。
徳井 来てくれる子がいれば全然ウェルカムなんやけどね。ただ昔の先輩って、「飯食わしてやってるんだから、俺の言うこと聞け」みたいな人もいたやん。そんなの、後輩からしたら割が合わんと思うよ。
桝本 徳井くんって、昔からこういう考え方なんですよ。後輩を変に囲おうとはしないし、でも慕ってくれる子には愛情を注ぐ。
徳井 できるだけのことはしてあげたいと思うし、「見返りを求めない」というのが大事なことなんじゃないかな。愛情を与えるんだったら見返りなんて求めない。見返りを求めるんだったら愛情なんて与えないほうがいいと思う。

1975年京都府生まれ。NSC大阪校を経て、幼馴染の福田充徳とのお笑いコンビ、チュートリアルを結成し1998年にデビュー。2006年にはM-1グランプリで優勝した。近年は自身で撮影と編集を行うYouTubeチャンネル「徳井Video」も人気で、キャンプ用品などの商品開発・販売も行う。
留学先で刺さった言葉「違いを受け入れられる人になって」
徳井 話変わりますけど僕、京都の花園大学というところに入学して、3年生の時にメルボルンに短期留学をするプログラムに参加したんですよ。現地の語学学校に通ってたんですけど、そこの先生でスーザンというオーストラリア人のおばちゃんがいたんです。
スーザンがある日、「今ここには色んな国の人がいて、異なる文化的背景を持っています。それは”違う”というだけで、優劣があるわけではありません。皆さんは、“違う”ということを受け入れられる人になってください」と話してくれたのをメチャクチャ鮮明に覚えてるんです。「違う」ということを認めるってすごい大事やなって。でも、今って自分と違う価値観を持つ人に嫌悪感を示す人も多いじゃないですか。
桝本 恋愛とかもそうだよね。他者との違いを「発見」とか「気づき」にしていける方が絶対にいい。
徳井 どうしてもその違いが納得いかへんのやったら、もう離れたらいいだけの話やし。でもそれって「冷めてる人間」とも言えるし、もしかしたら僕はあまり愛情がない人間なのかもしれない。
――先日に桝本さんと対談した次長課長の河本さんは、「先輩とも後輩ともメチャクチャ深く付き合う」という生き方をしていましたが、徳井さんはその真逆な感じで面白いですね。
徳井 あいつはほんまに先輩にも後輩にも愛情深いんで、僕とはアプローチが全然違います。俺にとっても河本は憧れの人やからね。あんなにも人間味があって、でも破綻しているところは破綻していて、先輩とか後輩のために泣けて。ああいう芸人らしい芸人はなかなかいないですよ。
