放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「自分の見た目が嫌いで自信を持てません。SNSではビジュがいい子たちが人気だし、職場でも外見のいい同期や同僚が得をしていることが多いと感じます。外見コンプレックスとうまく付き合うコツを教えてください」という相談をいただきました。
「ルッキズムはよくない」という考えが広まっても、社会から外見コンプレックスが消えることはありません。
自分の「見た目が嫌い」「自身を持てない」は、その人の主観なので、その人自身が“心の回路”を変えていかなければならないからです。
そこで今回は、ハゲ、デブ、ブサイク、チビ……さまざまなコンプレックスを「笑い」に換えて生きている、数多くの芸人を見守ってきた僕の、『外見コンプレックスと向き合う思考』をゆっくり伝えていきたいと思います。
嫌いなパーツは「交換」できないが「好感」は持てる
まず、僕の幼少期は外見コンプレックスまみれでした。ひどいアトピー性皮膚炎だったので、学校では避けられ、いじめに遭い、人気のない通学路を選んで登校していました。なので相談者さんの気持ちは分かります。
さて、「外見コンプレックスを抱えている人」は、何を「抱えている」のでしょう?
1万人の生徒と接して分かってきたのは、細い目、低い鼻、薄い髪など“「できれば嫌いなパーツを交換したい」という感情を抱えている”ということです。
しかし、私たちの体は、ダイソンの掃除機のパーツのように交換可能ではないので、別のマインドを持たなければなりません。
ダジャレのようですが、僕は外見コンプレックスに悩む生徒に、「パーツの交換はできないけど、好感なら持つことができるよ」と伝えています。
これは、ムリに「自己肯定しよう」と言っているのではありません。まずは、自分の嫌いな部分をありのままに受け止めて、「新たな視点を育ててみよう」という提案なんです。
例えば、僕の場合、アトピーの肌を交換したくてたまりませんでした。
しかし、そんな外見だったからこそ、自室に籠って漫画を描き、たくさんのストーリーを創りました。
ある日、その漫画がクラスメイトの目に触れ、教室で話題になり、いつしかクラスの一員になれたんです。
そのとき初めて、自分の肌に少し好感を持てましたし、現在、作家をしているのも「当時の伏線回収なんだな」とも感じています。
“自分の嫌いな部分を「交換する」ことはできないけど、視点を変えて「更新する」ことはできる。誰になんと思われようと、自分で自分に「好感を持つ」こともできる”。
大切なのは、こういった心の配線を変えて回路を整えていく思考なんですね。
芸人のポジティブさは「短所の並び替え」
冒頭にも書きましたが、芸人さんは、ハゲ、デブ、ブサイク、チビなど、さまざまなコンプレックスを笑いに換えて生きているスゴい人たちです。
一体なぜ、彼らはそんなに強いのでしょう?
まだ何者でもなかったNSC時代を知っている僕は、“もともとは弱かった人たちが強くなっていった”ことを知っています。
新人時代の彼らは、欠点をイジられることへの耐性がなく、人並みに傷ついている姿をたくさん見てきました。
しかし、場数を踏んでいくと、彼らは自分で耐性をつけ、コンプレックスを笑いに換えはじめます。
それを可能にしているのは、「短所の並び替え」なのです。
私たちは、自分の「弱み」や「短所」を“奥に隠してしまう”もの。しかし芸人さんは、その配列を変え“前列に並べて「強み」や「長所」にして使ってやろう”という発想になっていくんですね。
ふれてほしくない短所を奥に隠してビクビクしながら生きていくより、フロントに配置して武器として使う。
包丁やPCのキーボードが手に馴染んでいくように、使っていくうちに「短所の扱いかた」「向き合いかた」が分かってくる。
ポジティブに見える芸人さんの一側面には、こういった秘密があるんですね。
さあ、「自分のココが嫌い」への見かたを更新し、前列に配置して街の風に吹かれてやりましょう。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。