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2026.03.25

マックス・リヒターの音色に酔いしれる。「KRUG×MUSIC」の味覚を超えたシャンパーニュ体験

1843年創業のシャンパーニュメゾン、KRUG(クリュッグ)は、現代を代表する作曲家でありピアニストのマックス・リヒター氏とのコラボレーションによる新プロジェクト「Every Note Counts(すべての音に意味がある)」を発表した。今回リヒター氏は、2008年に誕生した3つのキュヴェからイメージを膨らませ、表現の異なる3つの楽曲を制作。2026年2月にロンドンで開かれた音楽とクリュッグが共鳴するグローバルイベントで聴衆を魅了した。

マックス・リヒターの音色に酔いしれる。「KRUG×MUSIC」の味覚を超えたシャンパーニュ体験
会場のラウンドハウスは、1840年代に建てられた旧鉄道機関車庫を改装した舞台芸術・コンサート会場。英国で、美術館のテート・モダンやリバティ百貨店と同じ「グレードⅡ*」に指定された重要建築物でもある。

KRUGが音楽を通して拓くもの

クリュッグの奥深い味わいと音楽の融合を表現する「KRUG×MUSIC」の最新章となる「Every Note Counts(すべての音に意味がある)」は、セラーマスターのジュリー・カヴィル氏と、マックス・リヒター氏の2年以上にわたる対話によって実現。そのお披露目の舞台となったのは、ロンドン・カムデン地区にあるラウンドハウス。円形が特徴的な空間の中央にはグランドピアノ、それを囲むようにオーケストラと客席が配置され、ゲストは生演奏によるミュージック・テイスティングへと誘われた。

一曲ごとにグラスに注がれるのは、異なるシャンパーニュ。それぞれの特徴や背景から生みだされた楽曲の音色で包まれた空間の中、芳醇な味わいが口の中に広がる。それは、さまざまな感覚を搔き立てるエモーショナルな没入体験だった。

KRUG×MUSICとは?
音色と味わいは共鳴するという考えのもと、2022年に本格始動したのが「KRUG×MUSIC」。故・坂本龍一など、世界中の音楽家が手がけた楽曲とクリュッグのペアリングにより、豊かなテイスティング体験を提案する。

クリュッグが探求し続ける音と味覚の共鳴

創業当時から音が味覚に与える影響を探求し続けてきたメゾンにとって、音楽は切っても切れない関係にある。

「私たちは、音楽をメゾンのサヴォアフェールを説明するための自然な比喩として用いてきました」

そう語るカヴィル氏。彼女は“指揮者”であり、テイスティングコミッティーがブレンドして生みだす、シャンパーニュの元となる各区画のワインを“演奏家”と捉えているという。

「私たちがこだわるのは、個性を徹底的に探求すること。それぞれの区画、生産者、そして“演奏家”は、異なる“音”を生みだします。私たちの目的は、シャンパーニュの寛大さ、区画や生産者の多様性に敬意を表すること。私たちはそれらを“聴く”という点で、音楽と同じ姿勢を持っていると感じています」

一方、実際にランスを訪れ、畑やセラーを巡ることから楽曲制作を始めたリヒター氏も、音楽とシャンパーニュに共通点を見いだしていた。

「シャンパーニュを味わう体験は、単なる味覚ではありません。色、光、温度、香り、さらには飲む時間帯までが関わる多次元的な体験です。それは音楽も同じ。私たちは音を聴きますが、生演奏では視覚的・空間的要素も加わり、知覚を形づくります」

互いの実験精神や芸術性によって意気投合したふたりは、光や影、質感やリズムといった比喩を通して対話を重ね、「クラフトは細部に宿る」という共通のビジョンを探求していった。

クリュッグは、単一年の特定の品種に依存せず、複雑さ、バランス、繊細さが溶け合う“音楽のようなハーモニー”を追い求めてきた。そのなかでも、今回のプロジェクトにふさわしいと選ばれたのは、“2008年”だ。

音楽を通して表現する2008年の個性

では、なぜ2008年だったのか? カヴィル氏はこう語る。

「2008年は、冷涼でありながら極端ではない、クラシックな北方的気候条件を持った最後の年のひとつ。果実の成熟過程には理想的な乾燥期間があり、結果、規則性としっかりとした骨格のあるワインが生まれたのです」

そしてリヒター氏は、その年に造られた3種のキュヴェの味わいや特性を解釈。「徐々に複雑さとスケールを増し、シャンパーニュの構造を映しだした」という3楽章からなる「Krug from Soloist to Orchestra in 2008」を完成させた。

第1楽章「クラリティ」は、ピアノのソロから始め、しだいにバイオリンとチェロを加えつつも限られた音色で構成。その研ぎ澄まされたメロディーで、2008年にアンボネイ村のクロ・ダンボネで収穫されたピノ・ノワールのみを用いた「クリュッグ クロ・ダンボネ 2008」に見られる、単一区画・単一品種・単一年の純度を表現した。

第2楽章「アンサンブル」は、「興味深い年のさまざまな環境を表現したシャンパーニュ」として、その年に収穫したブドウのみで造られた「クリュッグ 2008」から着想。ダブリングの技法で生みだした奥行きと深みのある室内楽のハーモニーを通し、理想的な気候条件がもたらすテクスチャーと均衡を描いた。

第3楽章「シンフォニア」のインスピレーション源は、2008年をはじめ11の年から選ばれた127種のワインをブレンドした「クリュッグ グランド・キュヴェ 164 エディション」。このキュヴェ同様、それぞれの楽器の個性を感じさせる壮大なオーケストラによって、ブレンディングの芸術を体現した。

会場を囲むスクリーンには移ろう空のような美しいグラデーションが映しだされ、没入感を高めた。

五感で味わうクリュッグの世界

クリュッグの世界に浸る没入体験は参加者に心地よい余韻を残した。クリュッグを長年愛飲するデザイナーの島田順子氏は「ブランドの持つ世界観がリヒター氏のエモーショナルな音楽と融合し、心を動かされた本当に幸せで豊かな時間でした」と振り返った。フォトグラファーの大杉隼平(しゅんぺい)氏は「さまざまな感情に触れ、いろいろな想像を搔き立てられました」、エッセイストの久住あゆみ氏はミュージック・テイスティングを「美しくつながりのあるショートフィルムを観終えたよう」と例えた。

そんな忘れがたい一夜を終えて、心に残っている言葉がある。それは観客たちにカヴィル氏が伝えたことだ。

「時に、クリュッグを試すことに少し身構える人もいます。自分は専門家ではないから理解できないのではないか、と。ですが、シャンパーニュを楽しむために専門家である必要はありません。そして音楽も普遍的な言語であり、それを聴くのに音楽家である必要はないのです」

彼女のメッセージは、言語を超えて感情と時間を共有できる味わいや音色の共通点を示すとともに、知識だけでなく感覚でクリュッグを楽しんでもらいたいという懐の深さを感じさせた。その姿勢は、「喜びこそがシャンパーニュの本質」という創業者ヨーゼフ・クリュッグの考えに通じるもの。クリュッグは、音楽との共鳴を通して、シャンパーニュは五感を生かして味わうものという、新たな愉しみ方を切り拓いている。

右:演奏終了後に想いを語るセラーマスターのジュリー・カヴィル氏(左)とマックス・リヒター氏。左:ディナーの最後に、6代目当主のオリヴィエ・クリュッグ氏が挨拶。

Max Richter/マックス・リヒター
1966年ドイツ生まれ。現代を代表する音楽家のひとりとして、伝統的なオーケストラと電子音楽を融合させる独自のスタイルで知られる。ダンス、アート、ファッション、映画など幅広いジャンルの音楽を手がけ、人間の深い体験を音楽へと昇華させる手腕で、世界中のファンを魅了している。

Olivier Krug/オリヴィエ・クリュッグ
クリュッグ家6代目当主。パリとランスの大学でビジネスと経済を専攻した後、家業に加わった。「音楽とのペアリングは、我々が15年にわたり磨き上げてきたアイデア。感覚を研ぎ澄まし、音色に耳を傾けながら、シャンパーニュを楽しんでください」と呼びかけた。

Japanese Celebrities

今回のミュージック・テイスティングには、パリ在住のファッションデザイナーである島田順子氏、ロンドン在住のエッセイスト/モデルの久住あゆみ氏、そして日本からフォトグラファーの大杉隼平氏も参加。音楽を通して、表現豊かに広がるクリュッグの世界観を堪能した。

島田順子氏、久住あゆみ氏、大杉隼平氏

問い合わせ
MHD モエヘネシー ディアジオ https://www.krug.com/

TEXT=JUN YABUNO

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