PERSON

2025.12.23

前澤友作はなぜ、悪質な窃盗を繰り返す従業員をクビにしなかったのか

壊れていない人間に、革命は起こせない。50歳の節目に、50人が語る“本当”の前澤友作とは。著書『偽善者』から一部抜粋。今回は、元ZOZO子会社社長/NOT A HOTEL創設者・濱渦伸次。

前澤友作はなぜ、悪質な窃盗を繰り返す従業員をクビにしなかったのか
Unsplash ※写真はイメージ

新婚旅行の途中で

前澤さんは太陽みたいなものだと思っています。遠くから見ると、明るくて温かい。でも近くに行くと、一瞬で燃やされてしまう(笑)。2015年に初めて会ったときはやっぱり遠かったので、めちゃくちゃソフトで優しい人だと感じました。けっこうメディアにも出始めていた時期で、かなり尖った社長というイメージだったんですけど、会ってみるとまるで違う。

僕は自分の会社を買ってもらえないかというプレゼンに行ったんですけど、ちゃんと僕の会社のことも知っていてくれて、敬語で丁寧に話を聞いてくれました。そのあと、僕の会社があった宮崎まで足を運んでくれて、「昔のZOZOみたいだ」と言ってくれました。

田舎で好きなことをやっている人間たちの集団だったので、似ていると思ってくれたのかもしれません。この宮崎行きが決定打になって、会社を買ってもらえることになり、僕はそこから5年間、ZOZOの子会社の社長として、前澤さんの近くにいさせてもらうことになりました。

でも太陽ですから、近くに行くとジリジリ燃やされるわけです。僕はZOZOに入ってすぐのころに結婚したんですが、新婚旅行の最中に電話がかかってきて「大事な会議があるから、すぐに戻ってこい」と。「いま新婚旅行なんです」と言ったんですが「そんなの関係ない」。僕は妻に謝って、すぐに東京に戻ったら「これからニューヨークに行く」と言われて、プライベートジェットに乗ったら、子会社の社長が集まっている。

そこからニューヨークに着くまで、ずっと会議です。そこまではまだいいんです。ひどいのは、ニューヨークに着いた瞬間、「じゃあ、解散」って(笑)。ちょうどプライベートジェットを買った時期だったから、機内で会議するということをやってみたかっただけだと思うんです。そのためだけに僕は新婚旅行を途中で切り上げることになった。

妻にはずっとそのことを怒られています。前澤さんにも「あれはひどい」と言ったことがあるんですけど、「そんなことあったっけ」って笑い飛ばす。そうやって笑われたら、怒っている方が馬鹿みたいじゃないですか。あれは本当にズルいと思います。

倉庫で窃盗事件が発生

もちろん経営者としてすごいところもたくさん見させてもらいましたよ。ある会議のときに倉庫の照明の話になったんです。めちゃくちゃ広い倉庫なので、明るさを少し落とすと年間で数千万円のコスト削減になるという話で、僕は「なるほどそんな方法でコストカットできるのか」と感心していたんです。でも前澤さんはその話を聞いたらすごく怒りだした。

「お前ら、そんな暗いところで仕事したいのか?」

まだ営業利益が100億円いってないくらいの時期だったので、そのなかで数千万円削減できるのはかなり大きい。でもあの人は、従業員が暗いところで仕事をすることを許さなかった。結局、照明はむしろ明るくすることになりました。そのほうがみんな楽しく働けるだろうって。あの判断には本当に驚きました。前澤さんは、倉庫の従業員ひとりひとりのことまで本当に大切に思っている。本当に愛のある人なんです。

倉庫関係でいうと、かなり悪質な窃盗を繰り返している従業員がいることがわかり、経営会議で話題になったこともありました。みんなで当然クビだろうという話をしていたら、また前澤さんが切れた。

「そいつをクビにしてどうなるの? ウチをやめても他の会社でまた同じことを繰り返すんじゃない? そいつが犯罪を犯していたとしてもうちの従業員だし、社会の一員じゃん。クビにしてウチからいなくなればそれでいいというのはおかしくないか?」

その従業員はすごく反省して、そのあとも働いていました。普通の会社なら絶対にクビじゃないですか。でもそういう一般常識みたいなのは前澤さんには関係ない。経営者としての哲学みたいなものもたくさん学ばせてもらいました。

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TEXT=箕輪厚介+幻冬舎編集部 編

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