壊れていない人間に、革命は起こせない。50歳の節目に、50人が語る“本当”の前澤友作とは。著書『偽善者』から一部抜粋。今回は、2017年から前澤友作の個人的活動に関するパブリシストを担当する、サニーサイドアップグループ代表取締役・次原悦子。
数え切れないほどの、とらやの羊羹
謝罪の際の手土産は、黒くて重くて存在感があるものがいい。つまり、とらやの羊羹が鉄板なわけです。個人的なパブリシストとして、もう10年近くになる友作くんとの付き合いのなかで、私はこの羊羹をいくつ買ったかわかりません。
そして羊羹の数以上に頭を下げてきました。あるときは深夜まで、彼がお付き合いをしていた女性の実家を訪ね、ご家族から何時間も叱られました。プライベートの女性問題でなぜ私が頭を下げているのか、自分でもよくわかりませんし、そもそも向こうにしてみたらお前は何者? でしょうが、先方の怒りを収めるためには、本人が出向き事を荒立てるよりも、年齢的にも受け止めることの出来る私が適任なのでしょう。まあそれが私の役目です。
今思い出しても大変だったのは、「ハワイ ドタキャン事件」のときです。彼が珍しく、大好きなテレビの人気旅番組に出たいと言い出したので、彼の出演をお願いしました。ハワイロケということで、大勢のテレビ局スタッフがハワイに行き、彼の思い出の地をまわっての撮影を終え、いよいよ最終日、友作くんのインタビューを撮る予定でした。
現場には音声や照明のスタッフが集まり、空撮用のヘリコプター2基も用意されていました。私も友作くんより先に現場に行き、彼の到着を待っていました。そしたら突然本人から連絡があり、「なんかやっぱり違うと思う」と。
前日の夜には、彼の素晴らしい別荘にプロデューサーやディレクターも招かれて、楽しく食事していたんですよ。友作くんは「好きな番組でいつも観ています」と話していたし、最後は「では明日よろしくお願いします」と言って別れた。それがその半日後に「やっぱり出たくない」。
私は急いで現場を離れて彼のもとに行き説得を試みましたが、それ以上の理由の説明はないし、彼の決意は変わりそうもない。いま思えば、恐らく彼の会社も、彼自身も未来に向けての大きな決断の時期で、色んな思いが日々交錯していたのでしょうね。彼にしてみれば、恐らく、いま何かを話しても中途半端になって、本音は言えないと思ったのだと思います。
そんな彼の本心なんて知るはずもありません。現場に戻ると重苦しい空気が漂っていました。当然ですよね。もしこのまま彼が出演しないとなると、これまでのすべての撮影作業が無駄になるわけですから。
「なんとなく気分が乗らないから」なんて、とても言えません。私はプロデューサーのもとに行き、
こう説明しました。
「大変、申し訳ございません。前澤さん、現在大変な事業をやっているなかで、いまここではどうしてもお話しできないような事態が起こりまして、急遽出演できなくなりました。お察しくださいませ......」
私だって理由はわからない。そんなこと口から出まかせだ。そしてこう付け加えてしまった。
「今回の番組制作、ロケにかかった費用は全額前澤のほうから支払わせていただきます」
恐らく、この撮影にすでにかかっている費用は数千万円。それを払うことができるのが彼の強みといえば強みです。でも当然、金を払えば済むという問題ではありません。私は日本に帰ってから、チームのみんなと雁首揃えて大量のとらやの羊羹を持って、テレビ局に頭を下げに行きました。
