宝塚歌劇団の男役として磨き上げた美意識が、リアルなメンズウェアと響き合う。朝美絢のまなざしは、今を生きる大人の男の美しさと余裕を、鮮やかに映しだす。

朝美絢が描きだす、マスキュリン
大人の男の凛々しさとは、どこに宿るのだろう。仕立てのいいスーツか、鍛え上げた身体か、それとも、ふとした瞬間に現れる表情や仕草なのか。その答えをたずねるなら、朝美絢ほどふさわしい人物はいない。
宝塚歌劇団で男役を演じ続けて18年。さまざまな時代や境遇の男性を演じ、観客を魅了し続けてきた。今号では、雪組のトップスターである朝美に、現代のメンズウェアを着てもらった。
「スーツは、舞台で着慣れているので、すごくしっくりきました。現在、出演している『ポーの一族』では、ロマンティックなブラウスなどの衣装なので、久しぶりにスーツを着て、テンションが上がりました(笑)」
ハットを手にすれば最も美しく見える角度を探り、ステッキを持てばダンディな紳士そのものに。そういった「どう見えるか」の意識は、長年の男役経験によって磨かれてきたものだ。
「昔の映画で、スーツやタキシードが登場する作品を見ます。宝塚歌劇には、帽子を被ったら、片方の目を隠して目力を強調するといった、先輩方から受け継いだ見せ方があります。舞台では、立ち姿がきれいに見える角度や姿勢にこだわっています」
参考にするのは、スクリーンの中のスターだけではない。街を歩く、ごく普通の男性たちも格好の研究対象となっている。
「電車でも、男性を見ています(笑)。座り方や歩き方だったり、ポケットに手を入れタバコを吸っている姿を見て『リアルな男性はこうするのか』など。後ろ姿に漂う哀愁を、参考にさせていただくこともあります」
こうであってほしい、という究極の理想形を演じ上げる
男役とは、男性をそっくり模倣することではない。現実の男性を細やかに観察して魅力をすくい上げ、時に磨き、際立たせていく。そこには当然ながら、女性ならではの視点も入る。
「“男性にはこうあってほしい”という部分を、男役が体現している部分もあると思います。リアルに近づけながらも、宝塚でしか表現できない男性像を導きだす。ある意味、ファンタジーのなかの究極の理想形です。お客様に恋していただける男性像を常に追い求めています」
だからこそ、朝美の姿からは、現実の男性にも通じる「格好よさ」が浮かぶ。例えば服の着こなし。舞台では衣装合わせのたびに、自分が最も美しく見える丈やシルエットを探る。アウターを脱ぐ所作も、どの瞬間が最も美しいかを幾度も試すという。さらには、小物への意識も高い。アイヴァンのグローバルブランドアンバサダーを務める朝美にとって、アイウェアは自分の見え方を自在に変える、重要な存在でもある。
「眼鏡ひとつで『自分はこんなふうにも見えるんだ』という発見があります。このアイウェアを身につけたいからこの服でというように、眼鏡から先に決めることもけっこうありますね」
今回の撮影でも、小物を加えた瞬間に、佇まいは自然と変化した。小物は単なる装飾ではなく、振る舞いまでをも引きだすもの。男役で培ってきた朝美の美意識は、そんな細部にも宿る。

人としての「余裕」が魅力をさらに増大させる
そして現在、朝美自身が思う格好いい男性像とは?
「余裕のある男性が格好いい、というところに辿りつきました。舞台は常に予期せぬことが起きるものであり、自分自身がストレートに出る場所でもあります。だからこそ、自分に余裕があれば対処でき、役柄にも活かされてくると思っています」
その思考は、雪組トップスターとしての在り方にも重なる。約70人の出演者を率いる今、心がけていることをたずねると、返ってきたのは気負いのない言葉だった。
「組のみんなが、『うちのトップさんはこんな人』と自慢できる人でいたいなと思います。舞台であっても、稽古場であっても、変に格好つけたりせず、自然体のままで。垣根を超え、どこにでも一緒に行けて、誰とでも話せる存在でいられればいいなと」
格好よく魅せることを誰よりも突き詰めてきたトップスターがいき着いたのが「自然体」であり「余裕」だというのは、実に興味深い。では、「ゲーテ」の読者に「格好いい大人の男」になるためのヒントを挙げるなら? の問いには、軽やかにこう答えた。
「人生を楽しんでいる方は素敵だと思います。さまざまなことを受け入れる心の深さや大きさを持ち、苦しいことも楽しいこともすべてエンジョイできる人。性別関係なく、人間として、そういう方は魅力的です」
着飾るだけでは格好よくはなれない。経験を重ね、肩の力を抜き、目の前の人生を楽しむ。その内側に生まれた余裕が、振る舞いや仕草、そして装いにまで滲みでる。18年にわたって「理想の男性」を演じ続けてきた朝美絢が見つめる格好よさは、意外なほどシンプルで、奥深い。
朝美 絢/Jun Asami
神奈川県生まれ。2009年に95期生として宝塚歌劇団に入団、2009年『Amour それは…』で初舞台を踏み、月組に所属。2017年に雪組へ組替え。2024年に雪組トップスターに就任。東京宝塚劇場で2026年10月25日(日)まで公演中の『ポーの一族』に主演。12月24日(木)からは、梅田芸術劇場メインホール・東京国際フォーラムにて雪組公演『Monte-Cristo-le spectacle musical-』が予定されている。







