PERSON

2026.08.08

70歳・郷ひろみ「人が生きていくうえで大切にすべきものは、いつの時代も変わらない」

来年、2027年にデビュー55周年を迎える郷ひろみ。原武裕美として70年、郷ひろみとして55年。その人生では、成功から失敗、栄光、挫折までを味わい、人に救われたこともあれば、騙されたこともある。そんなさまざまな体験を通じて、学んだこと、あの時にやって良かったと思うことを、これからの時代を生きる子供たちや若い世代に向けて綴った郷ひろみの人生哲学が詰まった連載「郷辞苑」がスタート。第1回は連載を始めるきっかけとその想いについて。

【新連載】70歳・郷ひろみ「人が生きていくうえで大切にすべきものは、いつの時代も変わらない」

70歳という年齢は、あくまで数字にすぎない

昨年(2025年)、僕は70歳になった。つまり、今年(2026年)の10月18日で71歳になる。GOETHE本誌で、当時自分が思っていたこと、考えていたことを綴った連載がスタートしたのは2015年、60歳になる前だったから、あれからもう10年が過ぎたことになる(5年間に渡った連載は、2020年に『黄金の60代』というタイトルで書籍化された)。月日が経つのは、本当に早い。

ただ、僕自身には、70歳になったという特別な感慨も実感もない。周囲に「もう70歳なんですか!?」「70歳には見えませんね」と言われるくらいで、普段は年齢のことをほとんど忘れている。年齢は一つの節目だとは思う。「〇歳になったらこうあるべき」とか「〇歳だからしかたがない」といったように、年齢を基準に物事を考えたり判断したりはしない。僕にとって年齢は、あくまで数字にすぎないのだ(もちろん、歳を重ねるたびに学んでいくこともあるのだろうが)。

とはいえ、周囲の反応は違う。幻冬舎の編集者から、「70歳になったのを機に、ひろみさんがこれまでの人生で培ってきた経験や学び、気づきを、次世代の子供たちに伝えるエッセイを書きませんか?」というオファーをいただいたくらいだから、やはり70歳という年齢は節目というか、重みのある年齢なのだろう。

60代になった時にも感じたことだが、60代は50代の延長であり、50代も40代の延長。40代をどう過ごしたかで50代の自分がつくられ、50代の生き方で60代の自分が決まるのと同じく、これまでの僕が歩んできた道のりが、70代の今につながっている。僕はそう考えている。

けれど、よくよく考えれば、長く生きてきて、良いことも悪いこともたくさん経験してきた分、「あの時にこれをやっておいて良かった」「あの経験が今につながっている」と思うものは、少なからずある。20代、30代の時には気づかなかったり、理解できなかったりしたことが、最近になって、「あれはこういうことだったのか」とわかったことも多少なりともある。おそらくこれが、「年の功」というものなのかもしれない。

よろしく哀愁』で歌う恋心は、50年経った今も同じ

僕は1972年8月、『男の子女の子』というシングル楽曲で歌手デビューした。前年1971年にはすでにファンクラブが結成されていたから、今年2026年でファンクラブ発足55年、来年は歌手デビュー55年を迎えることになる。これほど長く“郷ひろみ”として活動を続けてこられたのは、ファンの皆さんの応援と、スタッフや関係者の支えがあったからにほかならない。僕は本当に恵まれているし、幸せ者だ、とつくづく思う。

キャリアをスタートしてから今日に至るまで、音楽をとりまく世界は大きく変わった。レコードやカセットテープがCDやMDになり、今やデジタル配信が主流になっているし、曲作りにしても、楽器を使うのではなく、パソコンが主体となっている。最近は、ユーザーが“ジャンル”、“テーマ”などを指定すると、膨大な音楽データを学習したAIが、好みの楽曲を即座に作成してくれる自動作曲生成ツールなるものまで登場した。そんな世の中がくるとは、50年前、誰が想像できただろう。かといって、50年前の歌が古臭いもの、時代遅れなものとして消えていったわけではない。

たとえば、僕が1974年にリリースしたミディアムバラード曲、『よろしく哀愁』。50年以上も前の楽曲だが、最近もコンサートツアーで歌ったところ、お客さんは静かに、あらためてこの曲の良さを感じてくれたようだ。その光景を目にして、この曲は本当に心に沁みる歌だなとあらためて思った。今なお違和感なく歌え、聴く人の心に刺さるのは、楽曲が卓抜しているのはもちろん、歌詞が不変的だからだろう。

“会えない時間が 愛 育てるのさ 目をつぶれば 君がいる”

恋をしている時の心情を歌うこのフレーズは、現代を生きる若い世代にもきっと理解してもらえると思う。

こんな風に、今も昔も人々の心に響き、共感してもらえるものもある。僕自身、年を重ねても、自分の芯というか核になっているものは変わっていない気がする。その中には、幼い頃に母から教えられ、厳しくしつけられたことで身に付き、今も生き方の指針になっていることも含まれている。つまり、人が生きていくうえで大切にすべきものは、いつの時代も変わらないのだろう。

であれば、70年という人生の中で、さまざまな体験を通じて、僕が気づいたこと、学んだこと、あの時にやって良かったと思うことは、これからの時代を生きる子供たちや若い世代、これから40代、50代を迎える人々にとっても、少しは参考になるかもしれない。そう考え、件のオファーをお引き受けすることにしたのだ。

もっとも、読んでくださる若い世代の方々には、僕の言葉が今すぐにはピンとこないかもしれないし、刺さらないかもしれない。

でも、困難や壁にぶち当たった時に参考にしてもらえたり、歳を重ね、経験を積む中で、「あれはこういう意味だったのか」と思い出してもらえたりすれば、嬉しい。

書くにあたり、以前執筆した『黄金の60代』と話が重複するところもあるかもしれない。ただ、10年前の60歳の僕と、あれから10年経った70歳の僕の違いを感じてもらえればありがたい。

郷ひろみ/Hiromi Go
1955年福岡県生まれ。1972年NHK大河ドラマ『新・平家物語』で芸能界デビューを果たし、同年8月に『男の子 女の子』で歌手としても活動を開始。以降、『よろしく哀愁』『お嫁サンバ』『言えないよ』『GOLDFINGER'99』など数多くのヒット曲を世に送り出し、日本を代表するポップシンガーとして活躍。デビュー日となる8月1日、70歳初シングル『I’m Neo G』&武道館全70曲完全収録ライブCDがリリース予定。著書に『ダディ』『黄金の60代』などがある。

TEXT=村上早苗

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