託された役どころに面白さを見いだし、迷いながらもリスクのあるほうへ踏みだす。回り道さえ表現に変えてきた人気俳優が語る、仕事の醍醐味と、しなやかな強さ──。

まだ見ぬ景色の先を求めて、しなやかに強く
映画やドラマの近年の話題作に、俳優・町田啓太の名を目にする機会が増えている。雅な平安貴族、カリスマギタリスト、完璧主義のダンスチャンピオン、狂気を孕む半グレ、子供に寄り添うフリースクールの教室長……。並べてみれば、どれひとつとして似た役はない。むしろ、その振れ幅の大きさが、今の町田啓太という俳優の現在地を物語っているように見える。なぜ彼には、これほど異なる役柄が託されるのか。本誌の撮影が終わった直後、町田本人にこの問いをストレートにぶつけてみた。役のオファーを受ける時、何を基準にしているのか。そうたずねると、町田は少し考えてから、穏やかな口調でこう語り始めた。
「多様な役柄のオファーをいただけるのは、本当にありがたいことだと思っています。制作の方々が、キャラクターや作品の世界観に対して、僕が演じることを面白がってくださっている。まずはそれが何よりも嬉しいんです。『こんな役が自分に!?』と驚くこともありますが、それを嫌だと思ったことは一度もありません。僕自身、いろいろな経験をしたいタイプなので、飛びこんでみよう、挑戦してみようと純粋に思える役柄に対して、ぜひ! という気持ちで演らせていただいています」
託される役が多様であることということは、俳優にとって可能性であると同時に、試されることでもある。だが町田は、その振れ幅をプレッシャーとしてではなく、作り手が自分に見いだしてくれた、未知の可能性として受け止めている。


役に向かう時はリスクのあるほうへ
その柔軟さは、単なる受け身ではない。キャリアのなかで確立したセルフイメージを貫き通すことも、俳優という仕事にとっては大切な一面だろう。だが、町田啓太はそこにとどまらない。むしろ想定外の役柄に身を投じることで、自分でもまだ見たことのない表現に近づこうとしているように見える。
「ひとつの役に向き合う際は、その世界観に飛びこんだ時点で、敢えてリスクを取りにいこうとする思いはあります。僕自身は、もともとすごくラクをしたいタイプで、心配性だし、無駄に細かい(笑)。だからこそ、最終的に自分が楽しめる選択だったと納得したいんです。例えば役によって必要になる準備も含めて、苦しい道を選ぶのは大変ではあるけれど、その先にもしかしたら、まだ見たことのない景色が広がっているんじゃないかという高揚感を得たいんです。そこは、本当に単純なんですけれど」
ここで言うリスクとは、ただ奇をてらうということではない。求められる人物像に対して、どこまで自分を拓くことができるのか。既視感のある正解に寄りかかることなく、時には不安を抱えたまま、もう一歩先へと踏みだす勇気だ。その積み重ねが、町田の演技に新鮮な輪郭を与えている。
そして、町田啓太の“強さ”は、決して豪胆さのようなものではない。自らが語っているように、細かく考え、時に迷い続ける性格だからこそ、敢えてリスクのあるほうへ踏みだす。慎重でありながら、大胆。その一見相反する姿勢のなかにこそ、彼のしなやかな強さが宿っている。では、なぜ町田はリスクを前向きに受け止めることができるのか。その根底にあるのは、自分がその選択を楽しめるかどうか、というごくシンプルな基準だった。
「最終的には、自分が楽しめるチョイスをするということですかね。もちろんポジティブな意味で。これを選んだら大変かもしれないけれど、思いもよらない何かが生まれるかもしれない。俳優という仕事が以前にも増して楽しくなってきました。一生懸命にやって、たくさんの方たちが協力してくださって、評価していただいたり、自分が演じた役を見て『救われた』とおっしゃってくださる方もいる。そういう出会いが積み重なって、今があるのだと思います」


回り道のすべてが演じる役に流れこむ
そう語る町田の歩みは、決して一直線ではなかった。自然豊かな地で育ち、航空系の高校へ進み、ダンスと出合い、やがて俳優の道へ。本人が「変な経歴」と笑う、その回り道のひとつひとつが、現在の表現に奥行きを与えている。身体を使い、環境を変え、興味の赴くままに進んできた時間は、決して遠回りということではなかったはずだ。ひとつの道をただまっすぐ歩いてきた人にはない感覚や記憶が、役作りの引き出しとなり、その人物を立ち上げる際の手触りになっている。
「とにかく、思うがまま、やりたいようにやってきたんですよね。スポーツもいろいろと挑戦してきましたし、自由にやらせてくれた両親には本当に感謝しています。なので、大人になってから、『なぜそんなに自由にやらせてくれていたのか』と改めて聞いてみたことがあります。返ってきた答えは、『性格的にそうさせたほうがいいと思ったから』と。たぶん、言っても聞かないと思ったんでしょうね(笑)」
俳優という仕事もまた、最初からすべてを賭けて始めたわけではなかった、と町田は続ける。
「怪我でダンスの夢が断たれたという悔しい思いもありました。でも俳優という仕事であれば、その思いさえも全部役柄に載せられる。当初は、楽しいというよりも、それまでに消化しきれなかったものをぶつけていたような感覚でした。でも、いろいろな役をいただいて、なんとか向き合っていくうちに、楽しみをどんどん見いだせるようになりました。苦しいことも同じぐらい多いですけれど、今は、自分にすごく合っている仕事なのかもしれないと思うようになっています」
まだ見ぬ役、そしてまだ見ぬ景色の先へ
挫折も、悔しさも、回り道も、すべてを役に投影し、表現の一部へと変えてきた。だからこそ、町田の演じる人物には、端正な佇まいだけでは語りきれない奥行きが生まれるのかもしれない。そしてその奥行きが、また次の新たな役との出合いを呼び寄せ、町田啓太という俳優を、まだ見ぬ景色へと導いていく。
「いろいろな職業の役を経験してきましたけれど、医療系の役どころは、まだ演じたことがないんです。俳優を始めた当初は、やんちゃな役やアウトローな役などのイメージが強かったので。まだまだ演じていない役、演じてみたい役はたくさんあります。似たようなジャンルでも、役が違えばそれはまったく違う人物ですし、その都度、また全然違うアプローチで向き合うことになると思うので」
役はひとつとして同じではない。たとえ同じジャンルに括られたとしても、その人物が生きてきた時間、抱えている痛み、誰かに向ける眼差しはすべて異なるもの。だからこそ町田は、過去の成功体験に安住することなく、目の前の役に新しい自分を差しだしていく。慎重でありながら、果敢に。繊細でありながら、リスクを取ることを恐れない。相反する意識を内に抱えたまま、町田啓太は軽やかに次の現場に向かう。
託された役に面白さを見いだし、迷いながら考え抜き、最後には自分が楽しめる選択へと変えていく。その蓄積が、俳優という仕事の奥行きをさらに豊かにしているのだろう。変化を恐れず、けれど自分の軸を手放さない。そのしなやかな強さこそが、今、町田啓太という俳優に、多くの物語が託される理由なのかもしれない。


町田啓太/KEITA MACHIDA
1990年群馬県生まれ。2010年に俳優デビュー。以後、数多くのドラマ、映画、配信作品に出演するほか、CM、広告などにも多数出演。2026年は、テレビドラマ『タツキ先生は甘すぎる!』で主演を、配信ドラマ『九条の大罪』で重要な役どころを好演。







