2022年にレコードデビュー50周年を迎える、郷ひろみ。今もなお第一線で走り続けるその原動力に迫る。
「変化の先にしか進化はない」
日本を代表するエンターテイナー、国民的ポップ・スター、永遠のアイドル……。どの呼び方もしっくりくるようで、どこか違う。唯一無二の存在が、郷ひろみだ。1972年のレコードデビュー以来50年にわたって日本のエンタメ界を牽引してきたが、郷自身は自分をスターだと思ったことは一度もないと言う。
「それは自分ではなく、周りの方々に判断していただくこと。そもそも僕は、人と比べることをしないんですよ。比較をすれば、そこには必ず無意味な優越感や劣等感が生まれてしまう。それに気持ちを囚われていること自体、時間がもったいないと思います。僕はただ、自分が思う“郷ひろみ”であり続けるために、目の前のことに懸命に取り組むだけ。コツコツと地道に積み重ねてきたものしか、自分の力にはなりませんから」
30歳を前に始めたトレーニングは今も週3回行い、食生活に気を配り、不摂生はしない。いつ、どこにいても“郷ひろみ”であり続けるために、ストイックに自分を磨く。「いくつになっても変わらない」という称賛にも「それは僕が、変わり続けているから」と、答える。
「『あの頃はよかった』と昔に固執していては時代に取り残されてしまいます。『変わらない』と言っていただくには、“今”という時代にしがみつき、それに合わせて変化し続けるしかない。TikTokやインスタも始めましたし、50周年記念のシングル『ジャンケンポンGO!!』では、本格的なギターロックに初挑戦したんですよ」
大ヒット曲「お嫁サンバ」も同様。“1・2・3バ、2・2・3バ”という斬新な歌詞に初めは戸惑ったものの、プロデューサーの「結婚式で歌い継がれる曲になる」という言葉に背中を押されてトライしたところ、そのとおりに。
「あの経験があったから、『GOLDFINGER’99』では、自分から“ACHI CHI ACHI”を連発することを提案しましたし、今回の『ジャンケンポンGO!!』というキャッチーな曲が生まれたのだと思います。人と違うことを恐れず、変化する。変化の先にしか進化はないと、僕は思っています」
挑戦し続けただけに、失敗したことも、もちろんある。
「でも、やらなければよかったと後悔することはないですね。だって、もうやってしまったのだから、後悔しても意味がないでしょう? それより、なぜ失敗したのか原因を考え、問題点を抽出し、自分の引きだしにしまっておく。それが次の挑戦で活かせれば、その体験は失敗ではなく、成功への道筋のひとつになります」
成功か失敗かは“その瞬間”ではなく、人生という長いスパンでジャッジする。だから、現在手にしている成功に慢心することもなければ、失敗を嘆いて途方に暮れることもない。常に次を目指し、前に進み続けることができるのだろう。
「若い時は誰もがそのままでも美しくエネルギッシュで輝ける年代。でも僕自身、年を重ねるにつれて人生後半戦をどう生きるかが大切なんだと考えるようになりました。
『ゲーテ』の読者は30代から50代でしょうけど、人生はまだまだ続きます。なりたい自分を目指して、変わることは、いくらでもできるのだから、思い立ったが吉日で、今この瞬間に、一歩を踏みだしてほしいですね」
60代が最も楽しい年代という想いを込め、59歳から64歳まで、本誌で『黄金の60代』を連載してきた。けれど今は、「黄金の上にはプラチナがあり、その上にはダイヤモンドがあると思うようになった」と、笑う。
郷ひろみ、66歳。その挑戦と進化は、この先も続く。
Hiromi Go
1955年福岡県生まれ。’71年に芸能界でのキャリアをスタートさせ、’72年『男の子 女の子』でレコードデビュー。現在、「Hiromi Go50th Anniversary Celebration Tour 2022 ~KeepSinging~」ツアー中。本誌連載をまとめたエッセイ『黄金の60代』も好評発売中。