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2026.02.26

なぜ「伸び悩んだ才能」は、日本を支えるリリーフへと進化したのか――松本裕樹の転機

侍ジャパンの連覇へ向け、ブルペンの重要なピースとして期待される松本裕樹(ソフトバンク)。プロ入り後は試行錯誤を重ねながら中継ぎとして覚醒し、今や球界屈指のリリーバーへと成長した。だが高校時代の評価は、必ずしも“完成された投手”ではなかった。現地で見続けた記録から、その進化の軌跡と、リリーフとして開花した理由を紐解く。

なぜ「伸び悩んだ才能」は、日本を支えるリリーフへと進化したのか――松本裕樹の転機

侍ジャパンを支えるソフトバンクの最優秀中継ぎ投手

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で連覇を目指す侍ジャパン。そのブルペンの一角として期待されているのが、松本裕樹(ソフトバンク)だ。

プロ入り後しばらくは役割が定まらなかったものの、7年目の2021年シーズン途中から中継ぎとして一軍に定着。以降は4年連続で40試合以上に登板し、2025年は51試合に登板して39ホールド、防御率1.07と抜群の成績を残して最優秀中継ぎ投手のタイトルも獲得した。

今やチームに欠かせない存在であり、侍ジャパンでも重要な役割を担うことが期待されている。

投手より「野手としての才能」が目立っていた高校時代

松本は神奈川県出身で、高校は岩手県の盛岡大付属に進学。1年秋には早くもエース格となっている。

初めてそのプレーを見たのは、2012年10月5日に福島県営あづま球場で行われた秋季東北地区大会の対東北高校戦だった。1年生ながら背番号7をつけて4番、ピッチャーで出場すると、被安打4、四死球0、9奪三振で2失点完投と見事なピッチングでチームを勝利に導いた。

しかし当時の取材ノートを見返してみると、その投球よりも野手として高く評価しているメモが残っている。

「投手としてはまとまりがあり、走者を背負っても落ち着いた投球。ストレートもカウントをとるボールと決め球を投げ分けている。

(中略)

スケールを感じるのは野手のほう。大きく構えてゆったりとタイミングをとり、ボールを呼び込んで右肩が開かずに鋭く振り出すことができる。かなり早めに始動するが、無駄な動きがなく、リストワークも柔らかい。

体が一塁側に流れず、しっかり残して強く振れるため左方向への打球も鋭い。投手としての守備も身のこなしが軽く、フィールディングも上手い。将来は打者か」

ちなみに、この日の打撃成績は3打数ノーヒットと結果を出していたわけではないが、それでも野手としての能力の高さを感じたところに非凡さがよく表れていると言えるだろう。

課題を抱えながらも磨かれていった投球感覚。甲子園と成長の過程

初めての甲子園出場となった2年春の選抜高校野球でも、背番号は8ながら初戦の安田学園戦で先発。9回の土壇場で同点に追いつかれて完投こそ逃したものの、8回2/3を投げて3失点、8奪三振の好投でチームのサヨナラ勝ちに貢献した。

ただこの試合のピッチングについても、課題が多く記録されている。

「制球を重視するせいか右膝を曲げるのが早い。体も一塁側に流れることが多く、下半身の力を使いきれないフォームでバランスももうひとつ。腕の振りも加減したように見えることが多い。

長所はリリースの感覚の良さ。指にしっかりとかかったボールが多く、それほど力を入れていないように見えても打者の手元で勢いがある。緩急をつけるカーブ、横と斜めに滑るスライダーも2年生にしては精度が高い。もう少し下半身をしっかり使って投げられるようになれば面白いが」

ちなみにこの試合での最速は141キロだったが、ストレートのほとんどが130キロ台中盤であり、高校生としても少し物足りない数字だった。

ようやくドラフト候補として松本を強く認識するようになったのは2年秋になってからだ。

新チームから背番号1を背負うと、2年連続で秋の東北大会に出場。2013年10月11日に行われた初戦の聖光学院戦は試合途中で雨が激しくなりノーゲームとなったが、松本は6回を投げて被安打2、1四球、8奪三振で無失点と見事なピッチングを見せたのだ。

当時のノートにも以下のようなメモが残っている。

「雨中のマウンドでも指のかかりが良く、しっかりとコーナー、低めにボールを集める。ステップする前に軸足の膝が折れるのは相変わらずだが、選抜と比べても明らかにバランスが良くなっており、上半身の力を上手く抜いて腕が振れる。

ストレートは140キロ前後だが(この日の最速は142キロ)、グラウンド状態が良く、力を入れればまだまだ速くなりそうな雰囲気は十分。ボールの回転と球筋が素晴らしい。

(中略)

120キロ台中盤のスライダーと120キロ台後半のフォークもしっかり腕を振って投げられ、変化球の精度も高い。もう少し肘が柔らかく使えるとなおよし」

なぜ松本裕樹は覚醒したのか。リリーフ転向で開花した本来の強み

結局秋の東北大会では2回戦で青森山田に敗れて2年連続の選抜出場は逃したものの、3年時には最速150キロまでスピードアップ。3年夏に出場した甲子園でも肘を痛めて本調子ではないなかで優勝候補の東海大相模を相手に2失点完投勝利をおさめ、ドラフト1位という高い評価でプロ入りした。

前述したようにプロでも一軍定着には時間がかかったが、中継ぎ転向によって状況は大きく変わった。高校時代の課題は着実に解消しており、リリースの感覚の良さはさらに磨きがかかった印象を受ける。

侍ジャパンはリリーフとして期待されていた平良海馬(西武)と石井大智(阪神)の2人が相次いで故障で出場辞退となっており、その分松本にかかる期待は大きい。それだけに昨シーズン見せたような投球で侍ジャパンを勝利に導いてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=スポーツ報知/アフロ

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