放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、「令和ロマン」「エバース」「ヨネダ2000」をはじめ、多くの教え子を輩出した桝本壮志のコラム。

28歳のクリエイターからいただいた、「4年前のサッカーW杯中継の裏話を教えてください」という質問。
前回は「本田解説」誕生の裏側と、初陣のドイツ戦で、本田圭佑さんがサッカー中継の歴史を変えた瞬間までを綴りました。
今週は後編。ABEMAの中継がヒットした4つの理由を明かしていきたいと思います。
W杯4度優勝のドイツ相手に2-1とリードした後半。本田解説は、ますます冴えていきました。
接点のない若手選手には、丁寧に「さん付け」をするけれど、本田さんは現役選手でもあるので、「オフサイやろ?」「とりあえず守ろ!」など、ピッチに立っているかのような発言も増えていく。
ドイツ相手のジャイアントキリング(番狂わせ)という展開が、敬語とタメ口のアンバランスさが面白い「本田節」を解き放ち、今でも語り草になっている、アディショナルタイムを知ったときの、「なぁなぁふん(7分)!?」が生まれたのです。
ABEMA中継をヒットさせた4つのプラン
ドイツ戦のあと、ネットには本田さんを賛辞するコメントが溢れ返り、電車に乗ると、乗客がスマホでABEMA中継を見ている光景が広がりました。
乗客の視聴画面をチェックしながら、僕はプラン①の「2回目の視聴」が刺さっていることを実感しました。
ABEMAの技術によって、日本とドイツの「攻撃視点」と「守備視点」を自由にセレクトできる視聴方法や、全試合が10分前後のハイライトになって即日アップされるので、好きな試合を好きな時間帯に「2回目の視聴」ができる。
この新しい観戦法の楽しさに、乗客たちは気づきはじめたようでした。
その週末、コスタリカ戦と『サンデー・ジャポン』(TBS)の出演日が重なり、僕はダメもとで「地上波でABEMAをホメていいですか?」と言ってみました。
すると、演出家は「あの中継は見事ですよ。好きなだけホメてください」と言ってくださいました。
サンジャポの懐の深さはもちろん、ABEMA中継を取り巻く空気も確実に変わっていったのです。
前代未聞のハーフタイム中のビッグ対談
グループステージ突破を懸けた強豪スペインとの第三戦。僕ら演出チームはプラン②を仕込んでいました。
これまでのサッカー中継のハーフタイムは、視聴者が減ったり、アーティストがテーマソングを披露して不評を買ったりするなど、何かとネックでした。
その魔の時間を逆手にとり、「本田圭佑×元スペイン代表・イニエスタの対談」を仕掛け、前半を振り返りつつ、後半をいかに戦うべきか? 両国の目線づけをしてもらうサプライズを行ったのです。
この事前予告なしのビッグ対談は、「ABEMAは何をやってくるか分からない」と驚かれ、さらなる視聴者を呼び込みました。
また、後半に入ると、「本田節」を誘発させるために考えたプラン③、「ピッチ解説者の存在」が輝きを増しました。
スペインからもぎ取った2点目、いわゆる「三笘の1ミリ」。VARの審議中、本田さんは「出てたっぽい!」と主張し、ピッチで見ている槙野智章さんは「出ていない!」と反論。
世界を知る2人の極上の考察が、逆転ゴールの喜びを倍増させたのです。
その後、2人の掛け合いはますます脂がのり、「スペインのF選手は、監督の娘と付き合っている」と暴露しはじめた槙野さんが、「日本が勝っているときに冗談はやめろ」と本田さんに叱られるなど、前代未聞の解説ショーを展開。
元日本代表2人のハイテンションは、ドーハの悲劇の先にあった、あのドーハの歓喜へとつながっていったのです。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。「令和ロマン」をはじめ、教え子は1万人以上。新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中! 桝本壮志へのお悩み相談はコチラまで。
そして、日本版「パウル君」が生まれた
W杯制作チームが始動したころから、僕はスタッフに「パウル君を生みたい」と言っていました。
パウル君とは、南アフリカ大会で話題になったタコで、勝敗予想をした8試合をすべて的中させ、連日のようにメディアで取り上げられる人気者でした。
僕らは「中継外でも話題をつくろう」を合言葉に、日本戦がないときも注目してもらえるアイデアを練り、さまざまな種をまいていきました。
大会開幕から数日後、「ABEMAに出ているアイドルの予想がすごい!」というSNSの文面が目に留まりました。
彼女は、「サッカーに詳しい」という触れ込みで応援番組にキャスティングされた影山優佳さんでした。
影山さんは、初戦のドイツ戦のスタメン10人を的中させると、スペイン戦では2-1のスコアと日本勝利を的中させ、一躍、時の人に。
大会期間中、連日のように記事化され、まさにパウル君ばりの活躍で、さほどサッカーに興味のないライトファン層を取り込んでいったのです。
こうして、僕らの4つのプランは実を結び、W杯中継をヒットさせることができたのです。
では、また来週、別のテーマでお逢いしましょう。頑張れ、森保ジャパン。

