人生に決断はつきものだ。熟慮の末に決める人もいれば、即決型もいる。郷ひろみは間違いなく後者である。なぜ、迷うことなく心を決めることができるのか。その極意に迫る。連載「郷辞苑 第7回」 【その他の記事はこちら】

結論を出さないまま過ぎていく時間はもったいない
以前お伝えしたように、僕は「興味を抱いたら、まずはやってみる」、タイプだ。それも、「おもしろそうだけど、本当にトライする価値があるのだろうか」と迷ったり、「今は忙しいから、時間の余裕ができた時にしよう」などと先延ばしにしたりはしない。思い立ったが吉日で、即断即決する。
準備が必要で実際に始めるまでに時間を要するものもあるけれど、少なくとも「やる」という結論を出すのは早い。
月初めからやろう、とか、誕生日から始めよう、とかはないのだ。
「やる・やらない」という二択に限らず、複数の選択肢の中から何かを選ぶ際も時間はかけない。それは、瑣末な問題もそうだ。例えば、その日に着る服を選ぶ時やレストランでのオーダー、買い物といった日常的なこと(こういったことが瑣末なことではないかもしれないが……)だけでなく、テレビ出演などの大きな決断でも同じだ。
決断が早いのは、デビュー以来ずっとソロで活動してきたことも影響している気がする。何事も自分で選ばなければならない状況に置かれていて、決断する訓練を積めたのかもしれない。
大きな仕事の決断といえば、今年(2026年)7月28日、29日に2日続けて東京でのコンサートがあり、翌日7月30日に、NHKの音楽番組『The Covers』の出演依頼があった。
全国ツアーが5月末から始まり、最後は10月24日、25日に日本武道館でグランドファイナルがある。その真っ只中だった。
僕は迷った。
全国ツアーのエンディングはボリューム感たっぷりのバラード、そして、翌日が『Covers』の収録。声は持つんだろうか……。疲れが顔に出ないんだろうか……。今年から紅白は辞退させてもらっている、それでもNHKは僕に声をかけてきている。年に一度のディズニー特集。
いろいろなことが走馬灯ように、僕の脳裏をよぎった。たくさんのことを考えた。でも、悩んでいる時間は少なかった。
僕は、首を縦に振った。
決断とは、文字通り、他の選択肢を断って何かひとつに決めることだ。選択肢が多いものもあれば少ないものもあるが、何かひとつを選べば、他の可能性は捨てることになる。どれを選ぶのが自分にとってベストかをじっくり考えたい人もいれば、間違った選択をしたくないと悩み過ぎて、なかなか結論を出せない人もいるだろう。人それぞれに性格も考え方も違うから万人にとっての正解はないが、僕自身は、結論を出すのを先延ばしにするのが性に合わない。おそらく、結論を出さないまま過ぎていく時間というものが苦手なのだと思う。
結論を出してしまえば、その時点で、考えなければいけない問題がひとつ片づき、新たな事柄に思考を向ける余裕が生まれる。反対に、決断を下せなければ、いつまでもその問題に頭も心も囚われ続けることになる。僕はせっかちなのか、その“どっちつかずの時間”がもったいないような気がしてしまうのだ。
せっかちと言えば、以前ゴルフ場で、あるホールでティーグランドに立った。前の組との間が開いていて、順番的には、僕より先に打つ人がいたのだが、その人がトイレに行っているので、先に打ってしまいましょうか、とキャディさんに言った。
「せっかちですよねぇ?」と言われたことがある。すぐさま、「僕はせっかちではなく、キチンとしているだけです」と言った記憶がある。
誰かを待たせるのは、僕は罪悪だと思っている。だから、少しでも遅れる時は、「1、2分遅れます」と連絡する。
これを、人は “せっかち”と言うのだろう。まあ、自覚はあるのだが。以前はこういう性格ではなかったような気がする。真反対のいい加減な性格だったようだ。
早い話が、僕はせっかちだ。
あれこれ考えず、最後は直感で決める
もちろん即断即決したからといって、結果がすべて自分の思い通りになるわけではない。正直言えば、自分が“選ばなかった方”が正解だったということもあった。でも、結果が出るのは、決断し、やってみたからこそ。つまり、何事も決断しなければ始まらないのだ。それに、選んだものが不正解だったとしても、「ああ、これが不正解なのか」を知ることができたのは大きなメリットだと思う。次回からは、そちらを選べば良いのだから。だから僕は、どちらに転んだとしても、自分の選択を後悔したことはない。
ちなみに、「やらなければよかった」と後悔したこともない。すでにやってしまったことは、どうあがいても取り消せないのだから、悔やんでも意味がないと思う。それより、なぜ失敗したのか原因を探り、問題点を抽出し、改善策を考え、自分の“引きだし”にしまっておく。それを次に活かせれば、その体験は失敗ではなく成功につながるのではないだろうか。反省もせずゴミ箱に捨てるのはもったいない。問題点だけ引き出しにしまったら、それ以外は捨ててしまえばいい。
僕が決断する時に大切にしているのは直感、ひらめきだ。若い頃はそのひらめきに従って決断し、失敗したことも少なくなかったが、経験を積んだ今は、成功率がかなり高くなってきた。それはきっと、決断した数だけ経験値が確実に上がり、直感が磨かれるからだろう。
言うまでもなく、人生は選択の連続だ。僕自身、これからもたくさんの決断を迫られると思うが、自分のひらめきを信じて前に進むと同時に、どんな結果が出ても受け入れるつもりだ。
失敗しても、挽回すればいい。諦めたら、終わる、という気持ちを胸に。
郷ひろみ/Hiromi Go
1955年福岡県生まれ。1972年NHK大河ドラマ『新・平家物語』で芸能界デビューを果たし、同年8月に『男の子 女の子』で歌手としても活動を開始。以降、『よろしく哀愁』『お嫁サンバ』『言えないよ』『GOLDFINGER'99』など数多くのヒット曲を世に送り出し、日本を代表するポップシンガーとして活躍。デビュー日となる2026年8月1日、70歳初シングル『I’m Neo G』&武道館全70曲完全収録ライブCDをリリース。10月24日・25日に日本武道館公演『Hiromi Go Concert Tour 2026 〜ALL MY LOVE〜THE GRAND FINAL at 日本武道館 』を開催する。著書に『ダディ』『黄金の60代』などがある。

