PERSON

2026.08.15

70歳・郷ひろみ、タイプライター、ダンス、サプリ…「興味を抱いたら、まずはやってみる」【連載第2回】

1972年の歌手デビュー以来、50年以上にわたって日本の音楽界を牽引してきた郷ひろみ。昭和・平成・令和と時代が変わっても輝き続ける裏には、好奇心旺盛に、フットワーク軽く行動に移すチャレンジ精神があった。連載「郷辞苑#2」

70歳・郷ひろみ、タイプライター、ダンス、サプリ…「興味を抱いたら、まずはやってみる」【連載第2回】

「かっこいい」という気持ちだけでタイプライターにトライ

人生70年のうちで、「あの時にやっておいて本当に良かった」と思うことは、いくつもある。そのひとつが、18歳の時にタイプライターの打ち方を習得したことだ。読者の中には、タイプライターを知らない人もいるかもしれないので一応説明しておくと、キーボードを叩いて用紙に文字を直接印刷する機械だ。

和文タイプライターもあったものの、僕が使っていたのは、キーボードがアルファベットの欧文式。仕事に必要なわけではないし、日本語変換できないので日常的に活用する機会もなかった。それでも、「タイプライターが打てたらかっこいいな」と思い、基本から打ち方を習った。

その後、ワードプロセッサー(ワープロ)が登場し、1990年代後半になるとパソコンが普及したが、僕は、いずれのマシンも難なく使いこなせた。それは、18歳の時、好奇心と憧れからタイプライターの打ち方を身につけたからだ。タイプライターを始めた時は、こんな変化が起こるとは、まったく予想していなかった。明確な目的もなく、好奇心と憧れに突き動かされてのことだったが、あの時タイプライターにトライして本当に良かった。

好きという気持ちで挑戦したことが今につながっている

ダンスも、「あの時やっておいて良かった」と思うもののひとつ。僕がデビューした1970年代の日本音楽界は、歌手は歌に専念し、踊りはバックダンサーが担うのが一般的だった。ある方から、「ダンスか歌、どちらかにして」と言われたこともある。それだけ、僕の歌もダンスも中途半端で、両方ともプロの水準まではほど遠かったのだろう。

でも僕は、踊るのが好きだったし、もっとダンスがうまくなりたかった。当時のアイドルとしては常識外れだったが、自分の好きという気持ちを大切にダンスのレッスンに励んだ。

時代は流れ、今やアイドルは“歌って踊る”のがスタンダードだ。50年前、ダンスといえばジャズダンスやモダンダンスが中心だったが、現在ではブレイクダンスが進化したヒップホップはもちろん、ロックダンス、K-popダンス、ジャズヒップホップ、ジャズファンクなど、さまざまなスタイルが登場している。

僕は今でも、アップテンポの楽曲は歌いながら踊っていて、その時代に注目されたダンスを振付に取り入れることも少なくない。2023年の「NHK紅白歌合戦」では、翌年のパリ五輪で正式採用されたブレイキンに挑戦したし、2025年にリリースしたシングル『最強無敵のDong Dong Dong!』では、FRUITS ZIPPERやCUTIE STREETなど、さまざまなアイドルを手がける槙田紗子さんに振付をお願いし、指でハートをつくるパフォーマンスを取り入れた。いろいろなジャンルのダンスに対応できるのは、10代の頃に「踊るのが好き」という気持ちを貫き、ダンスを続けてきたからだ。

他にも、20代前半で活用し始めたサプリメント、当時は「それは何ですか?」と訊かれ「これはサプリと言って、栄養補助食品です」と答えたことを覚えている。

20代後半で体を鍛えることに目覚めてトレーニングを習慣にしたことなど、今の自分につながっていると実感するものは多々ある。しかも、そのほとんどが、「いずれ役立つはずだ」と考えて始めたわけではなく、その時々に「おもしろそう」「やってみたい」と思ってトライしたものばかり。いわば、結果オーライだ。

もちろん、挑戦したけれど今の自分に役立っているとは言い難いものもあるし、いつの間にかやめてしまったものもある。でも、何事もやってみなければわからないというのが、僕の考え。「試してみたけれど、自分には向いていなかった」とわかるだけでも、チャレンジする価値はあるのではないだろうか。そう考えると、何事もやって損はないのだろう。

「やらない」のと「できない」のは違う、と僕は思う。

やる前に放棄してしまうのが、「やらない」で、やってみて、どうしてもできないことが、「できない」なのと僕は思っている。

もしも今、読者の皆さんに少しでも興味や関心を持てるものがあるのなら、まずは一歩を踏み出してみてはどうか。

郷ひろみ/Hiromi Go
1955年福岡県生まれ。1972年NHK大河ドラマ『新・平家物語』で芸能界デビューを果たし、同年8月に『男の子 女の子』で歌手としても活動を開始。以降、『よろしく哀愁』『お嫁サンバ』『言えないよ』『GOLDFINGER'99』など数多くのヒット曲を世に送り出し、日本を代表するポップシンガーとして活躍。デビュー日となる8月1日、70歳初シングル『I’m Neo G』&武道館全70曲完全収録ライブCDがリリース予定。著書に『ダディ』『黄金の60代』などがある。

TEXT=村上早苗

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