GOETHEとファイナンスプラットフォーム「FINCHI」がタッグを組んだメディア「GOETHE Finance powered by FINCHI」。ビジネス界で圧倒的な実績を持つリーダーたちは、「ファイナンス」をどのように捉え、活用しているのか。その最前線の思考に迫ることで、日本における「ファイナンス」をカルチャーとして定着させていく。今回は、店舗・施設向け音楽配信事業のUSENと動画配信事業のU-NEXTを中核に、通信・エネルギー、金融・不動産・グローバルへと事業領域を広げてきたU-NEXT HOLDINGSを取材。2009年の再建期にUSEN 常務執行役員CFOとして事業の選択と集中を担い、現在はU-NEXT HOLDINGS常務取締役CIOとして成長投資を図る馬淵将平氏に、グループを牽引してきたファイナンス哲学を聞く。

「入るを量りて出づるを為す」ファイナンスと事業拡大に規律を
2025年8月期の連結売上高は3904億円に達し、ますます成長を続けるU-NEXT HOLDINGS。その源流にあるUSENは2009年、存亡の危機に直面していた。
「当時、私は35歳。ゴールドマン・サックス証券(GS)の投資銀行部門でUSENの担当でした。リーマンショック後の不況や『GyaO NEXT』・『GAGA』などへの先行投資により、USENでは1年間で100億円以上のキャッシュバーンがありました。有線放送などの収益でも賄えず、GSジャパンもUSEN関連で計450億円のリスクを抱え、アメリカ本社からも叱責される毎日でした」
誰かが中に入ってファイナンスをまとめなければ破綻する。そんななか、当時USEN代表だった宇野康秀氏から入社を請われた。
「すでに借金は1000億円以上。逃げるわけにもいかず、とにかくやるしかなかったですね」
入社後、CFOとしてまず着手したのが、東京ミッドタウンからの本社撤退だった。
「ミッドタウンにあることは会社の象徴。反対意見もありましたが、当時は巨額の賃料を払える状況ではなく、財務状況の深刻さも社内に理解されていなかった。本社移転は、非常事態にあるという表明でもありました」
事業の取捨選択などに着手しながら、銀行との交渉も重ねた。
「金利や返済スケジュールなどの変更を求め、銀行と話し続けました。公的な枠組みを使わず、あくまで自主再建を目指す一方、頓挫した場合に備え、企業再生支援機構を活用するプランBも用意していたんです。CFOは全員が沈まない別の道を持っておかなければなりませんから」

1972年神奈川県生まれ。1995年に日本興業銀行(現:みずほ銀行)に入行。2007年にゴールドマン・サックス証券に入社し、M&Aファイナンスなどを担当。2009年よりUSEN 常務執行役員 CFOに就任し、事業の選択と集中による経営再建を担う。2023年、U-NEXT.HD常務取締役CIOに就任、M&A・金融・不動産・グローバル事業を管掌。
リカーリング事業を土台に変化の可能性を模索
事業の取捨選択においては、会社としても大きな決断が必要だった。宇野氏が1989年に創業した総合人材サービス「インテリジェンス」の処遇だ。
「『USEN本丸を生かすのか、インテリジェンスを手放すのか』。宇野に迫りました。彼は1週間悩み、『売らざるを得ない』と泣く泣く手放す決断をした。私としては、この時点で自主再建への道が開けてきたと考えました」
一方、当時はまだ小さかったU-NEXTについての決断には、馬淵氏も驚いたという。
「数字で見れば明らかに無理な状況でしたが、宇野は自らリスクを負い、個人で引き取る決断をした。数字や事実をもって是々非々を通すCFOと、夢で事業をドライブするCEO。役割が明確に分かれた瞬間でした」
その後のU-NEXTは、マルチデバイス化による配信コストの大幅減を追い風に急成長し、2014年に上場。USENも借入金を100億円程度にまで圧縮した。そして2017年に2社は経営統合し、2024年、U-NEXT HOLDINGSとして生まれ変わった。
「USENは店舗向けのB to B事業に専念すべきという声もあったけれど、コンフォートゾーンに留まれば時代の変化とともに沈んでしまう。次の一手としてUSENが生む安定利益を投じるなら、未知の事業よりも宇野を介して筋が見えていたU-NEXTだろうと。これがホールディングス構想の根本でもあります」
双方とも継続収益により安定した「入り」を見こめるリカーリングビジネスを土台としていたことが、その決断を支えた。
「昔の人が言った財務の鉄則に『入るを量りて出づるを為す』という言葉があります。リカーリングはまさに入りを量れる。何にどこまで投資し、どこでやめるべきかを判断できるわけです。計画から逸れても、見極めたり、軌道修正したりする時間的猶予を持つことができる」

「100億円企業を100社」規律を維持してこその拡大
USEN再建以来、馬淵氏が最優先してきた財務の安定。年に発表された新中期経営計画「Road to 2030」では、グループ全体として、その安定を脱し、規律を維持しながら拡大へ転じることを明言。「100億円企業を100社」、売上高1兆円のグループを目指すと掲げている。
「大事なのは“規律”のある拡大です。この規律のために重要なことはいくつかあって、まずは何を基準に投資判断を組み立てたかというプロセスを大事にすること。KPIや売上といった明確な基準を設け、ズレの検証や軌道修正を絶えず行う。そしてもうひとつは、ファイナンスの二面性を知ること。ファイナンスはいわば『アメとムチ』。味方にもなれば、一転して敵にもなり得ます。借金返済や投資家の存在は大きなプレッシャーになりますが、それがあるからこそ経営者は会社や自らを律し、成長できる。財務を担う者はその二面性を理解する必要がありますし、そこにファイナンスの醍醐味もあると思います」
誰も2009年には戻りたくない。規律を守ることで、未来を見通しながら事業の拡大に挑戦できる。その象徴が、2022年に実施した100億円の公募社債発行だ。
「弊社として初めての社債発行でした。当時はウクライナ情勢もあり、他社が動かないからこそ、市場の注目を集められると判断しました。他人資本の活用には慎重でしたが、次のステージへ進むには賢く使って挑戦すべきタイミングだと考えました」
調達した資金をもとに、事業投資や成長投資を活発化。2023年のParavi統合や2026年のGoHands完全子会社化もその一例だ。オリジナルコンテンツを増やそうというU-NEXT の意志の表れとも取れるが、馬淵氏は「資金力に頼る外資系配信プラットフォーマーと、同じ土俵で戦うつもりはない」と語る。
「コンテンツの補強は必要ですが、U-NEXTはグローバルな配信ビジネスの主役じゃなくていい。黒子でいいんです。コンテンツを作る人と視聴者の双方が持続的に喜び合えるエコシステムを国内資本で維持、発展させていきたい。500万会員を超えた我々だからこそ、国内のコンテンツホルダーの受け皿になれると信じています」
馬淵氏はグループの現状を、「USEN、U-NEXT、通信・エネルギー事業の3本柱で、再成長基盤が整った」と分析する。
「次の挑戦として、これまでできていなかった『金融・不動産・グローバル』という第4のセグメントを立ち上げました。今後は、『規律』のなかでファイナンスとうまく付き合いながら、日本ならではの食やコンテンツを世界に展開する伝道師のような存在になっていきたいですね」
――U-NEXT HOLDINGS近年の成長投資の歩み――
2023年3月・Paraviと経営統合し、動画配信事業を強化
有料動画配信サービス「Paravi」を運営するPPJと経営統合。TBS、テレビ東京の豊富なコンテンツを取りこみ、国内勢最大級の動画配信プラットフォームへと成長した。
2024年12月・金融領域の拡大のためネットムーブ完全子会社化
決済代行を手がけるネットムーブを完全子会社化。翌年「USEN FinTech」へ商号変更し、キャッシュレス決済を金融領域の新たな成長事業として強化した。
2026年1月・グローバル化の加速を図り、XYREON HDと資本業務提携
マレーシアの大手KIOSKベンダー、XYREON HOLDINGSと資本業務提携。株式取得を通じ、東南アジアを起点としたグローバル展開の加速を図る。
2026年4月・新たなシナジー創出を狙いエクシングを連結子会社化
「JOYSOUND」を展開するエクシングの株式70%を取得し、連結子会社化。店舗・施設の顧客基盤と音楽・映像コンテンツを掛け合わせ、新たなシナジー創出を狙う。
2026年6月・オリジナルIP創出のためGoHandsを完全子会社化
アニメ制作会社GoHandsの全株式を取得し、完全子会社化。U-NEXTの配信基盤とアニメ制作力を融合し、オリジナルIPの創出から制作・配信までを一気通貫で強化する。
――「U-NEXT HOLDINGS」は、ファイナンスプラットフォームFINCHIに資金提供者として登録しています。
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