PERSON

2026.09.26

70歳・郷ひろみ「悪口が言えないよ」【連載第8回】

愚痴や弱音は口にしない。マイナスの感情自体抱かない。郷ひろみが常に前向きで、ハッピーでいる秘訣を紐解く。連載「郷辞苑 第8回」 【その他の記事はこちら】

70歳・郷ひろみ「悪口が言えないよ」【連載第8回】

マイナスの感情を自分の中にためこまない

70歳の誕生日を迎えた2025年10月18日と翌19日、僕は日本武道館でバースデーライブ「Hiromi Go at Nippon Budokan 2025 "THE GREATEST 70 SONGS"」を開催した。70にちなみ、初日と2日目でセットリストを変え、デビュー曲の『男の子 女の子』から昨年リリースした『最強無敵のDong Dong Dong!』まで、全70曲を歌った。

準備はハードだったけれど、デビュー当時からのファンも最近僕を知ってくれた若い世代も喜んでくれ、僕にとっても印象に残るステージになった。……もっとも、70曲歌うというのは、この年のツアー初日に冗談交じりに口にしたのだ。具体的になるにつれ、「大変なことを言っちゃったな」と少々焦ってしまったけれど(笑)。

実は、このバースデーライブのリハーサル直前、僕は左腕を負傷していた。病院で診断してもらったところ、左肩の骨と腕の筋肉をつなぐ腱が、完全に切れている状態だったようだ。コンサート時は痛み止めを服用しながら、左腕の動きも万全ではなかった。

でも、それは僕の事情であり、会場に足を運んでくださった皆さんには関係がないこと。観客にマイナスの材料を一切与えないというのは、エンタテイナーとしての僕の信条。だから、ステージ上ではいつもと変わらず全力でパフォーマンスをした。幸い、僕が怪我をしていることは観客にはわからなかったようだ。

そういえば、事務所のスタッフや仕事関係者、友人・知人など、いろいろな人から、「ひろみさんから愚痴や弱音を聞いたことがない」とか「言い訳をしませんね」と言われることが多い。意識したことはなかったけれど、確かにそうだ。「疲れた」「面倒くさい」といったネガティブな言葉もほとんど口にしないと思う。きっと、亡くなった母から、「九州男児たるもの弱音や愚痴を吐いてはいけない」と教育されてきたためだろう。当時は、母の言葉を「そういうものなんだ」と受け止め、素直に従っていただけだったが。

読者の皆さんは薄々気づいていると思うけれど、僕の母は超絶厳しく、子供の頃は母の言うことが絶対だった。今なら、やれパワハラだとか、モラハラだとか言って大変なことになっていたのだろうが。今では母に心から感謝している。なぜなら、弱音や愚痴、言い訳といったネガティブな言葉を口にすればするほど、マインドもどんどん悪い方へと引きずられてしまうからだ。

もちろん、信頼できる相手に弱音を吐くことで心が楽になるという人もいれば、仲間内で愚痴を言い合うことで気分がスッキリし、前向きになれるケースがあることも充分理解している。そんなふうに精神的にプラスになるなら、ネガティブな言葉であっても大いに口にしたほうがいいと思う。ただ、僕自身は、それをしても気分が晴れないどころか、自己嫌悪に陥ってしまうタイプなのだ。

意識して続けるうちに無意識にできるようになる

そもそも僕は、マイナスの感情を自分の中に持たないようにしている。負の感情を抱いていると、言葉にしないまでも顔に出てしまうだろうし、顔に出ないとしても自分自身が落ち着かない。ネガティブな言葉を口にせず、負の感情もできるだけ手放す。それが、僕にとって心地の良い状況なのだ。

「つらい時はつらいし、ムカつく時はムカつく。マイナスの感情を持たないなんてできない」という声も聞こえてきそうだが、経験上、それは可能だと断言できる。

小学生の時、「アイツのこと、あまり好きじゃないんだよね」と母に言って叱られた記憶がある。「あんたが、その人のことを嫌いと思えば、相手にもそう伝わり、あんたのことを嫌いと思っているから」。それが母の言葉だった。その言葉は、僕に衝撃を与えた。

だから、初めからできていたわけではない。母に指摘された頃から「ネガティブな言葉は言わないようにしよう」と意識するようになり、そのうち「マイナスの感情を自分の中にためこまないようにしよう」と考えるようになって、今日に至っている。つまり、最初は意識的にやっていたことが、いつのまにか無意識のうちにできるようになっていたということ。だから、意識さえすれば誰にでもできると思う。

人それぞれに考え方があるし、性格も違うので、すべての人に強要するつもりはない。でも、もし、「マイナスの感情を自分の中にためこまない」という考えに少しでも共感してもらえるなら、まずはトライしてほしい。

最初は気づいた時に行うので構わない。「今、マイナスの感情が湧いてきているけれど、手放そう」と繰り返すうちに、意識しなくてもそれができるようになり、いつのまにかマイナスの感情自体が湧いてこなくなると思う。そうなれば、こっちのもの。いつも心が安定し、ハッピーな自分でいられるはずだ。

意識が無意識に変わる。それは、やり続けて、初めて訪れる感覚だ。

郷ひろみ/Hiromi Go
1955年福岡県生まれ。1972年NHK大河ドラマ『新・平家物語』で芸能界デビューを果たし、同年8月に『男の子 女の子』で歌手としても活動を開始。以降、『よろしく哀愁』『お嫁サンバ』『言えないよ』『GOLDFINGER'99』など数多くのヒット曲を世に送り出し、日本を代表するポップシンガーとして活躍。デビュー日となる2026年8月1日、70歳初シングル『I’m Neo G』&武道館全70曲完全収録ライブCDをリリース。10月24日・25日に日本武道館公演『Hiromi Go Concert Tour 2026 〜ALL MY LOVE〜THE GRAND FINAL at 日本武道館 』を開催する。著書に『ダディ』『黄金の60代』などがある。

TEXT=村上早苗

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