人間は、とかく比較し、優劣をつけたがる生き物だ。しかし、郷ひろみは「他者と比較することに意味はない」と、きっぱりと言い切る。その理由を語ってもらった。連載「郷辞苑 第13回」 【その他の記事はこちら】

大切な楽曲をランクづけされたくない
最近、いろいろな方から、「◯◯◯のテレビを見ました」「あれは面白かったですねぇ」「若い方と一緒に出られたあの番組、あれは良かったですねぇ」と言っていただく。たしかに、テレビの歌番組からオファーをいただく機会が増えていると自分でも思っている。出演するアーティストは、世代やキャリア、音楽のジャンルに関わらず幅広い。おかげで僕も、いろいろな方々と交流させていただき、たくさんの刺激をもらっている。ありがたいことだと、つくづく思う。
僕が20代の頃は、歌番組といえばランキング形式が主流だった。レコードの売り上げ枚数や視聴者からのリクエスト数などをベースに、その週のベスト10を発表。ランク入りした歌手がスタジオに招かれ、歌を披露するというスタイルが多かった。僕は、ほぼ毎週のようにそうした番組に出演していたし、1位を獲得したこともある。でも実は、心の中にはずっともやもやとした想いがくすぶっていた。
多くのアーティストがそうだと思うけれど、自分の楽曲は大切な子どものようなもの。歌手だけでなく、作詞家、作曲家、編曲家、プロデューサーなど、その楽曲に携わる人たちが、精魂込めて生み出した、かけがえのない作品だ。それに、たとえヒットしていなくても、ある人にとっては人生を左右するような大切な歌になることだってある。だから、楽曲に優劣をつけることに違和感を抱いていたのだ。
1982年、僕は視聴率30%超えという大人気歌番組への出演を辞退した。
最終的な結論は、新幹線内で出したと思う。座席に座っていた僕は、デッキに移動した。いろいろなことを考えた。
「◯◯◯番組を出演辞退したら、同じTV局には出られないかもしれない」
マネージャーから心配してそう言われた。
僕はその前にも悩んでいたが、もう最終的な決断を下す時に入っていた。
デッキに移動して、20分ぐらい経ったと思う。
思い悩んだ末、やっぱり僕にはできない。楽曲に優劣はつけたくない。
それが、僕の最終判断だった。
当然、他のランキング形式の歌番組にも一切出ないことを決めた。
他者との比較で増幅するのは無駄な劣等感
人はなぜ、比較したがるのだろう。歌番組に限らず、長者番付や住みたい街、都道府県の人気度など、身の回りにはさまざまなランキングがあふれている。上位ならその地位を保とうと努力し、下位なら「次こそは」と奮起するためだろうか。あるいは、何かを選ぶ際のお墨付きとして判断材料にするためなのか。
いずれにせよ、僕自身はランキングにさほど興味がない。他人がどう評価しようと、自分がいいと思うものはいい。自分なりの基準があるから、ランキングに目を通すことはあっても、それに左右されることはないのだ。
ランキングに限らず、僕は、自分と他人を比較すること自体に意味がないと思っている。他の誰かと比べて、自分のここが劣っているとか、ここが足りないと思うのは、無駄な劣等感を増幅させるだけのような気がするのだ。それに、劣っていることは、僕本人が一番自覚している。
努力してライバルに追いついたとしても、その時点で相手はもっと先を行っているかもしれないし、すでに競争の場から退いているかもしれない。そんな不確かな相手をライバルにして、頑張ることに、果たして意味があるのだろうか。
それに、世の中は広い。上には上がいるのだ。
僕が比較をするとしたら、その相手は“自分”だ。過去の自分と現在の自分を比べることもあるが、「やった自分」と「やらなかった自分」の対比だ。やらなかったとしたらどうだろう、やった場合はどんな結果がもたらされるのだろう。そう考え、やるべきか否かを決めるのだ。
どこか冷たく響くかもしれないが、自分は自分、他人は他人、という使い古された言葉がある。しかし、それは真実だ。その言葉を胸に刻んでいれば、自分の道をまっすぐに進んでいけると思う。
ぶれる、という言葉を意識したことはないけれど、このような思いを持つこと自体、ぶれないことではないか。
だから、あえて言う。ぶれることなく。
郷ひろみ/Hiromi Go
1955年福岡県生まれ。1972年NHK大河ドラマ『新・平家物語』で芸能界デビューを果たし、同年8月に『男の子 女の子』で歌手としても活動を開始。以降、『よろしく哀愁』『お嫁サンバ』『言えないよ』『GOLDFINGER'99』など数多くのヒット曲を世に送り出し、日本を代表するポップシンガーとして活躍。デビュー日となる2026年8月1日、70歳初シングル『I’m Neo G』&武道館全70曲完全収録ライブCDをリリース。また11月23日より「Hiromi Go Dinner Show 2026」がスタート。著書に『ダディ』『黄金の60代』などがある。

