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2026.10.05

スタッフ陣は全員留任。だが、森保監督はなぜ、長谷部・中村コーチの役割を変更したのか

史上初となった8年間の長期政権で、サッカー日本代表監督・森保一は何を考え、いかにして世界と戦ったのか。あの一戦の裏で下された「決断の真実」と彼の思考プロセスを記した、新刊『森保ノートの真実』より一部抜粋。

スタッフ陣は全員留任。だが、森保監督はなぜ、長谷部・中村コーチの役割を変更したのか

「甘い上司」ではない、森保監督

温和な笑みを絶やさない森保一監督だが、決して「甘い上司」ではない。長年苦楽を共にした間柄であっても、非情な決断を下すべき局面では一切の情を挟まない。

最も顕著に表れるのが選手選考である。ワールドカップ予選突破の立役者であり、本大会へ帯同させたいと願う選手や、主将としての長年の献身に深く感謝している選手であっても、チーム事情により外すべきと判断した際には、一縷の逡巡も見せない。

その峻烈な姿勢は選手に対してのみならず、スタッフ陣に対しては一層の厳しさを帯びる。今回、指揮官自らが明かしたコーチングスタッフの役割変更も、通常であれば組織内に少なからず波紋を広げかねない人事であった。

2022年カタールワールドカップ後、横内昭展、上野優作両コーチがJクラブの監督就任に伴い、代表チームを離任。留任したのは守備担当の斎藤俊秀コーチ、下田崇GKコーチ、松本良一フィジカルコーチの3名であった。

この3名は既存の役割を踏襲し、新たに攻撃担当として名波浩、セットプレー担当として前田遼一の両コーチが参画した。併せて、自・相手チームの分析を担うテクニカルスタッフも即座に2名から4名体制へと拡充。さらに、2024年に長谷部誠、2026年に中村俊輔の両名が入閣し、現行の陣容が確立されている。

2026年の北中米ワールドカップ終幕後、森保監督は2027年初頭のアジアカップまでという異例の短期契約を締結した。それに伴い、全スタッフも指揮官と歩調を合わせる形で同期間の契約に合意している。

そもそも、この契約期間は極めて変則的だ。ヨーロッパなどの通常カレンダーに照らせば、シーズン半ばでの契約満了を意味する。大会終了後に他クラブへの転身を模索しようにも、時期が中途半端であり困難を極める。そのようなキャリア上のリスクを、監督のみならず全スタッフが共有したのである。

この決断には、先んじて去就を定めた指揮官自身の直接的な要請が大きく作用している。森保監督は当時の経緯を次のように述懐した。

「(スタッフ陣の留任交渉については)直接、私自身の言葉で全員にお願いしました。各々のワールドカップ後のビジョンを確認した上で、私自身の続投が決まった旨を伝え、『引き続き共に戦ってほしい』と要請しました」

「各々が自身のキャリアプランを抱える中、半年間という短い期間であっても残留を決断してくれたことには感謝しかありません。再び『日本のために』という志のもと、共闘してもらえることは大いなる推進力となります」

残された任期は半年であり、陣容も不変。仮にアジアカップを制したとしても、その先の長期的な展望は白紙である。ならば「これまでの体制と方針を維持し、無用な波風を立てず大過なく任期を全うしよう」という心理が働いても不思議ではない。しかし、森保監督はそのような安易な現状維持を良しとしなかった。

「顔ぶれが同じである以上、あえて体制をいじる必要性は薄いとも考えました。しかし、長谷部コーチに守備のオープンプレーを、前田コーチが担っていたセットプレーの攻撃戦術を中村俊輔コーチに委ねるなど、いくつか役割の再編を行っています」

「配置転換により、チームとしての共通理解を保ちつつも新たな視点がもたらされ、個々のアイデアや斬新な見解が活きてきます。選手だけでなく、スタッフ陣にも新たな経験を積んで成長を促したいという意図に基づくテコ入れなのです」

これにより、斎藤・前田両コーチは「攻守両局面におけるメイン担当陣の包括的なバックアップ」へと役回りを移した。前田コーチに関しては、将来的な監督業を見据えた「S級ライセンス」取得のための時間確保という側面もあった。しかし、発足から8年間にわたり森保ジャパンの守備構築を根底から支え続けた斎藤コーチをサポート役へ配置転換したことは、大きな変更だったと言えるだろう。

代表活動における練習時間は常に限られている。今回の招集期間においてもコンディション調整が優先され、本格的な戦術練習に割けるのはわずか3、4日程度。担当コーチの再編が、即座に劇的な効果をもたらす公算は決して高くない。

それでもなお、組織の硬直化を防ぎ、適度な緊張感を与えるためにあえてメスを入れたのだ。あるJクラブ監督経験者は「サンフレッチェ広島時代の森保監督は、非常に畏怖される指導者だった」と証言する。日本代表では練習終了後、指揮官が即座にトレーニング映像の検証作業に入ると聞き、「セッションを担当したコーチは相当なプレッシャーを感じているはずだ」と心中を推し量った。

決して、コーチやスタッフを己の手駒や道具として軽視しているわけではない。むしろ、任期満了が迫る中であっても微塵の妥協も許さないその求道的な姿勢こそが、関わるすべての人間を進化へと導き、強固な信頼関係と揺るぎない求心力の源泉となっているのである。

なお、書籍『「森保ノート」の真実。』では、指揮官がいかにしてコーチ陣を登用してきたか、その意外な思考プロセスについて本人の口から詳細に語られている。森保流の組織構築術や人材育成の要諦を、ぜひ同書から読み解いていただきたい。

TEXT=森雅史

PHOTOGRAPH=森雅史

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