史上初となった8年間の長期政権で、サッカー日本代表監督・森保一は何を考え、いかにして世界と戦ったのか。あの一戦の裏で下された「決断の真実」と彼の思考プロセスを記した、新刊『森保ノートの真実』より一部抜粋。第1回。

カタールW杯最終予選オーストラリア戦前の記者会見にて
人は苦しい状況に追い込まれたとき、持っている本当の力が発揮される。2018年に就任した森保一監督も、何度も厳しい場面に遭遇した。本人に「どれが一番辛かったか」と尋ねると、「どの試合もすべて辛かった」という答えが返ってきた。
もっとも厳しいシチュエーションだったと思われるのは、2022年カタールワールドカップ・アジア最終予選だったのではないだろうか。
いきなりホームでのオマーン戦に0-1と敗れ、続く中国戦には1-0と辛勝したものの、サウジアラビア戦で再び0-1の敗戦を喫する。1998年フランスワールドカップに出場して以来、最悪の最終予選スタートとなった。
次の対戦相手はグループ内最大のライバルであるオーストラリアである。もしこの試合に敗れることになれば、自力での本大会出場は難しくなる。6大会連続で続いていたワールドカップ出場が途切れてしまうのか。日本は再び「ワールドカップ出場」を願うだけの国になってしまうのか。悲観的な推測まで流れるほど、日本代表は追い込まれていた。
この大一番を前に森保監督はオンラインの記者会見でこう語った。
「我々が厳しい状況に置かれているということはもちろん承知しています。しかしながら、ワールドカップ最終予選はすべての試合において厳しい試合の連続であるということは、最終予選に臨む前から覚悟していたことですし、まだまだ我々次第で巻き返せるチャンスはあると思っています。ワールドカップ出場権獲得のために、明日の試合、勝つことだけを考えて戦いたいと思います」
「もちろん我々は勝つために戦っていますし、我々を応援してくださっている方々、サポーターのみなさんに勝利を届け続けることがとても大切なことだと思います。ですが、試合の結果というものは絶対的なものではないのです。まずは内容の部分で、日本らしく日本代表が戦ったと思ってもらえるような戦い方をしたいと思っています」
「結果を出せなかったところもありますが、選手には力があるという、私自身の考えに全く変わりはないですし、選手たちへの信頼も全く変わっていません」
いつもどおりの落ち着いた会見であった。厳しい質問が飛んでも声を荒げることはない。しかしその裏では大きな変化が起きていた。それまでの 4-2-3-1 システムから4-3-3 に移行し、田中碧を(ヨーロッパ組まで含めた日本代表で)初先発させる決断を下していたのである。
その田中が先制点を奪う。同点にされた後の78分、途中投入された浅野拓磨が相手のオウンゴールを誘い、日本が2-1と勝利を収めた。この勝利で日本は強さを取り戻し、怒濤の6連勝でカタールワールドカップへの切符を手にすることになる。
采配が的中し、劇的な勝利を収めた後も、森保監督の淡々とした応対は変わらなかった。プレッシャーがあったことは認めつつも、あえて強気に構えていたことを明かした。
「厳しいかつプレッシャーのかかる状況でしたが、心構えとしては、守りに入らないように、勝利を掴み取りに行くんだという前向きな言動・采配をしたいと思っていました」
監督はいつもと変わらない態度で試合前後を過ごしていた。その一貫した監督の様子こそが、オーストラリアに手の内を読ませず、先手を奪うことが出来た一因だったのだろう。
次回はワールドカップでの運命の一戦、結果次第で大きく明暗が分かれる剣が峰を前に森保監督がどう考えていたかを振り返る。

