PERSON

2026.10.04

ブラジル戦の真実。森保一はピッチ上で何を感じていたのか

史上初となった8年間の長期政権で、サッカー日本代表監督・森保一は何を考え、いかにして世界と戦ったのか。あの一戦の裏で下された「決断の真実」と彼の思考プロセスを記した、新刊『森保ノートの真実』より一部抜粋。第4回。

ブラジル戦の真実。森保一はピッチ上で何を感じていたのか

「先行勝ち切り」というイメージが強すぎた

日本サッカー史上初となる「ワールドカップを跨ぐ8年間」という長期政権の集大成となった、2026北中米ワールドカップ。その最後の舞台となったのが、激闘の末に敗れたブラジル戦である。

絶対王者に対して、指揮官はいかなる戦略で挑み、ピッチ上で何を感じていたのか。

試合前、森保監督はこう予想していた。

「ブラジルは両サイドの堂安律と中村敬斗を狙ってくるだろうと思っていました。2025年のブラジルとの親善試合で彼らの背後を取られることがあったので、ブラジルはそこを攻めてくるだろうと考えていたのです」

しかし、あえて守備的な選手ではなく彼らを起用する決断を下す。彼らが自チームで守備力を向上させていたことに加え、「ボールを奪った時に起点になれる」という攻撃への推進力を高く評価したからだ。

だが、この大一番でチームはケガ人が続出するアクシデントに見舞われていた。本来であれば、試合終盤に攻撃の圧力を上げる「ジョーカー」としてインサイドハーフの選手を残しておきたい。しかし、その駒が足りなかった。そこで森保監督が選択したのが、「先行勝ち切り」という戦略だった。

「最初に経験値の高い選手でスタートして長い時間を戦って、最後に多少経験値が少ない選手たちを含めて耐えて勝つというイメージだったので、ブラジル戦でもスタートに全部つぎ込みました」

目論見通り、日本は先行することに成功する。後半に入り、森保監督は推進力と配球力のある選手を投入して盛り返そうと試みた。さらにトレーニングの様子を見て期待を持って選手を送り出した。これで後半を乗り切るのがプランだった。

しかし、ブラジルの圧力は想像を絶していた。2022年のドイツ戦とは異なり、王者は全く隙を見せず、攻守が切り替わった瞬間の守備が異常なまでに巧みだったのだ。

「我々がボールを奪ってから攻撃に移る時に、前半から何度もボールをロストしていました。チーム力を上げる過程で『奪ったボールをプレス回避して攻撃につなげていく』というテーマを掲げてずっとやってきて進歩していたはずなのに、すぐに奪い返される」

決勝点を奪われた場面も、田中碧がボールを奪って前を向こうとした瞬間に完全にフタをされ、自陣を向かされたことが失点につながった。結果が出た後、森保監督は自身の采配に対する痛切な後悔を隠そうとはしない。

「相手の守備の巧さよりも、自分の頭のなかで『先行勝ち切り』というイメージが大きすぎたのがいけなかったのではないかと思います。(中略)どこか凝り固まってしまったところがあったのではないかと思っています。もう少し工夫していれば……これは『たら・れば』ですけど。結果が出たあとで考えるところはあります。柔軟性が足りなかったのではないかと……」

そして、指揮官は最後に「言い訳にするつもりはまったくない」と前置きをしたうえで、痛切な本音を漏らしている。

「ただ、ワールドカップ予選でチームの中心として引っ張って戦ってきてくれた選手が、みんな元気に100パーセントの状態でプレーしていたら、どういう戦いになっていたのかを見てみたかったなとは思います」

国を背負う重圧のなかで下した緻密な戦術のプロセスと、結果に対して己の「想像力不足」「柔軟性の欠如」を素直に認める潔さ。森保監督は赤裸々に、自身の思考と悔いを明かした。

激動の8年間、日本の最前線に立ち続けた指揮官の全思考プロセスは、新刊『「森保ノート」の真実』に記されている。ビジネスや組織のマネジメントにおいて、正解のない決断を迫られるすべてのリーダーにとって、彼の成功と失敗、そしてそこから得る学びは、明日を生き抜くための確かな道標となるはずだ。あの歓喜と涙の舞台裏にあった真実のストーリーをぜひ。

TEXT=森雅史

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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