史上初となった8年間の長期政権で、サッカー日本代表監督・森保一は何を考え、いかにして世界と戦ったのか。あの一戦の裏で下された「決断の真実」と彼の思考プロセスを記した、新刊『森保ノートの真実』より一部抜粋。第5回。

北中米W杯で契約満了予定だった男の胸中とは
プロたるもの、契約期間一杯まで全力で仕事を完遂するのは当然かもしれない。しかし現実的には気持ちの整理をつけて残り時間を過ごせる人間がどれだけいるだろうか。
日本サッカー協会の宮本恒靖会長は、森保一監督に2026年6月〜7月の北中米ワールドカップまでで契約を満了すると2026年3月に伝えていた。5月には2027年1月までの契約延長の可能性も伝えられていたものの、その契約が決まったのは7月23日になってからであった。
森保監督はそんな不安定な立場であることを周囲に微塵も見せることもなく、ひたすら日本の勝利のために考えを巡らせ続けていた。それは自分の役割を歴史のなかに置いていたからである。2026北中米ワールドカップの第1戦、オランダ戦を前に森保監督はこう語った。
「自分の期間だけで完結ではなくて、先人からの遺志を受け取って、我々も未来に向かって、力をつけてワールドカップを狙える国になるために戦っています。歴史を繋げる意識で戦っています」
森保監督が日本代表を率いるときに考えてきたのは、どうやって日本代表を進歩させ、次の世代に受け継いでいくかということであった。だからこそ、自分の任期が終わるにしても特別な振る舞いは必要なかった。そんな思いがメンバー発表前後のワールドカップに向けたコメントからもにじみ出ている。
「ワールドカップに向けて特別なことはしません。なぜなら4年に1回の特別な大会かもしれませんが、日々の我々の取り組みや毎回の活動があってこそのワールドカップですし、これまでやってきたことの延長上にワールドカップがあると思っているからです。これまでやってきたことをさらに大切にすること、今のベストを尽くすことをしっかりとやっていきます」
「特別な舞台だから何をするというわけではなく、これまでやってきたプロセスがあって、その先にワールドカップがあると思っています。ですので、プロセスの部分、『凡事徹底』という言葉を、選手やスタッフと何度も共有してきました。今できることをしっかりとやって、最善の準備をして、全力を出し切るということを、これまでのどおりやっていきます」
ワールドカップのブラジル戦で負けたあと、森保監督は日本代表から自分が去る日が近いと考えていたことだろう。試合後のコメントで、指揮官は珍しくこんな情緒的な言葉を残した。
「最後の円陣で話したことは、この悔しさを胸に刻んで、また次の成長に繋げていこうということです。この大会で終わる選手はほとんどいないですし、スタッフも含めて、こういう悔しさ、上手くいかなかったことを生かしてまた次の成長に繋げてほしい、成長して日本のために戦ってほしいと話しました」
「この大会で優勝するという我々の夢や、目標であった『最高の景色』は見ることができなかった。監督として導いてあげられなかった。このことを本当に申し訳ない思いでいる、と伝えました」
「でも違った意味での『最高の景色』を、私はチーム、選手、スタッフに見せてもらって、監督としては本当にありがたいと思っているとも言いました。 毎回の活動で選手もスタッフも本当にいい準備をしてくれて、そして毎回の練習、試合に全力を尽くしてくれました。そういう日々の活動でも充実した時間を過ごさせてもらい、そういう意味での『監督としての最高の景色』はみんなに見せてもらったので、『ありがとうございました』と話しました」
敗軍の将は最後までチームに感謝して大会を終えた。この自己を律した気高い振る舞いこそが、森保一という人間の真髄なのかもしれない。

