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2026.10.10

早大法学部から二丁目大学へ。『ボーイフレンド』MCのドリアン・ロロブリジーダ、ドラァグクイーン20年史

Netflixの恋愛リアリティショー『ボーイフレンド』のMCとしても話題になったドラァグクイーン、ドリアン・ロロブリジーダ。元営業マンであり、メディアでは素顔も披露する。この男は一体何者なのか。全4回のインタビューで、その半生と素顔に迫る。第2回は、ドラァグクイーンとしてのデビューから、会社員との二足のわらじを経て独立するまで。その歩みと、美意識に迫る。#その他の記事

早大法学部から二丁目大学へ。『ボーイフレンド』MCのドリアン・ロロブリジーダ、ドラァグクイーン20年の歴史

グロテスクさと、上品さ。真逆の価値観をひとつに内包した存在

「綺麗は汚い、汚いは綺麗。ドラァグクイーンって、そんな不思議な世界なんです」

そう、ドラァグクイーンについて説明するドリアン・ロロブリジーダこと大竹正輝、41歳。

ドラァグクイーンとして20年間活動し、最近ではNetflixの恋愛リアリティショー『ボーイフレンド』のMCでも話題に。ドラマや映画にも引っ張りだこで、活動の幅を広げている。

「ドラァグクイーンってメイクや衣装もトゥーマッチなもので、悪趣味のなかに上品さみたいなものを見出して愛でる、そんな精神性なんですよ」

アメリカの批評家・作家のスーザン・ソンタグは1964年に発表したエッセイ『Notes on “Camp”』のなかで、人工的なものや誇張された表現を愛する「キャンプ」という感性を論じた。控えめで洗練されたものだけが魅力的なのではない。過剰な装飾や芝居がかった振る舞いにも、心惹かれる美しさや面白さがある。

ドリアン氏はこの考えをベースに、とことんまでに着飾る。それを「悪趣味だ」と切り捨てるのではなく、その過剰な装飾のなかにある「上品さ」を発見し慈しむ、そんな考え方なのだ。

その価値観は、どんな日々のなかで育まれてきたのだろうか。

「私の家は、大学に進むのが当たり前、という雰囲気の家だったし、18歳の私も何も疑わず大学受験をしました。けれど高校時代からすでに新宿二丁目にも通っていましたし、ドラァグクイーンも素敵だな、やってみたいななんて思っていた。だから大学を選ぶ基準はただひとつ、『新宿二丁目に近いかどうか』で、結局早稲田大学に進学しました」

ドリアン・ロロブリジーダ

高校時代は友人にも恵まれ、「戻れるなら戻りたい」と思うほどに楽しく過ごした。インターネットをきっかけに知り合った年上のゲイ仲間との知的な会話や、時折した恋の経験を、オブラートに包みながら高校の仲間に話すと「大人っぽい」「経験豊富なプレイボーイ」と思われ、一目置かれたほどだった。

高校時代にゲイであることを打ち明けた友人は2人ほど。大学進学後にはほかの友人たちにも伝えたが、特に驚かれることもなく、その友情は今でも続いている。

仲間とともに幸福な青春時代を過ごした。年上のゲイの「お姉さんたち」に、文学やアートの知識を叩き込まれた。ド派手な衣装に身を包むドリアン氏の身体の奥深くに根付く「上品さ」は、きっとそんな幸福な日々と教養から湧き出てくるものなのだろう。

「ケバケバしさ、グロテスクさと、上品さ。完全に真逆の価値観をひとつに内包した、そんな存在に、ドラァグクイーンとしてなりたいんですよ」

「二丁目大学に進学した」大竹青年、ドラァグクイーンとしてデビュー

18歳の大竹青年は、早稲田大学法学部に進学したものの、のめり込んだのは新宿二丁目のバーでのアルバイト生活。自身で「二丁目大学に進学した」と笑うほどだ。そこで高校時代に出会って衝撃を受けたドラァグクイーンに、自身も見よう見まねで挑戦。大学の学園祭やイベントなどでその姿を披露していた。

「そんなことをしていたらある時、二丁目で『若手女装グランプリ』っていうものが開催されて。『よかったら、あんた出てみない?』と言われたんですよね。出るからにはドラァグクイーンとしての名前が必要だ、そう思って急遽つけたのがドリアン・ロロブリジーダという名前なんです」

往年のイタリアの大女優、ジーナ・ロロブリジーダから「ロロブリジーダ」を、そして「匂い立つ強烈な存在」という意味で「ドリアン」とつけた。

「たいそうな名前でしょう(笑)。でもその大会ではあれよあれよと優勝してしまって。私のドラァグクイーン生活がそこから始まりました。だけど20年間も続けるなんてまったく思ってなかったんですよ。日本におけるドラァグクイーンって、まだ歴史がそんなに古くなくて、たかだか30〜40年ぐらいのものですからね」

その後は、新宿二丁目のバーで働きながらイベントや店に呼ばれて、ドラァグクイーンとしてパフォーマンスを披露する生活を送る。入学したはずの大学へはほとんど行かず、一年留年をした結果、退学を決意した。

「完全に自分が悪いんですが、大学を卒業できなかったことは私のなかでひとつの大きな挫折です。母も最初は泣いていましたけれど、2日ぐらいしたら『はい、じゃあ働きなさい、家にお金を入れなさい』って。それで就職活動を始めたんです」

ドリアン・ロロブリジーダ
大竹正輝/Masaki Otake
1984年東京都生まれ。2006年にドラァグクイーンとしてデビュー。会社員との両立を経て、2020年に独立。Netflixの恋愛リアリティショー『ボーイフレンド』のMCを務めるほか、映画『エゴイスト』(2023年)に出演するなど、歌手・俳優としても活躍。2026年10月には札幌・大阪・東京で活動20周年記念公演「The Entertainment!! 20th Anniversary Special」を開催。12月25日公開の映画『BYE BYE LOVE 探偵はBARにいる』にも出演する。年末にかけて初のソロミニアルバムをリリースし、2027年には同作を携えた全国ツアーを予定している。

就職後は、営業の仕事に打ち込んだ。ドラァグクイーンとしての活動は、年に1回程度にまで減らしたという。

「大学も辞めちゃったし、せっかく拾ってくれた会社だから、ここで一回、人生を巻き直そうと思ったんですよ。新卒でもない、大学も卒業していない人間を入れてくれたので、まずはしっかり会社員として頑張ろうと。4年ぐらいは、女装をほとんどお休みしていましたね」

その間には社内恋愛も経験した。その恋が終わったことをきっかけに、「じゃあ、また始めましょう」と、ドラァグクイーンとしての活動に再び力を入れるようになる。

「ドラァグクイーンってモテないんですよ(笑)。ケバケバしくてグロテスクでしょう。当時の彼はそれを嫌っていたから、私もあまりやっていなかったんです。でも別れたし、また好きなようにやろうと」

ドラァグクイーンの活動に戻った背景には、もうひとつ大きなきっかけがあった。

最愛の母の死である。

「母には自分がゲイであることも、ドラァグクイーンの活動をしていたことも、結局言えませんでした。でも気がついてはいたと思います。大学時代は私がドラァグクイーンの衣装を家で洗って干しているのも知っていましたし。その時は『ミュージカルサークルの衣装係なんだよ』ってごまかしていましたが(笑)。

ある時ふと『もしあんたが結婚するんだったら、別に女性でも男性でも、どこの国の人でも、なんだっていいよ。あんたが幸せなら』と言われたこともありました。カミングアウトこそしていませんでしたが、それ以外のコミュニケーションはしっかり母ととっていたつもりです。だからたぶん、当然にすべてを知っていたんだと思います」

母が病に倒れてからは、実家に戻り会社員の仕事を続けた。歌うことが好きだった母のために、亡くなる約2ヵ月前には小さなコンサートを母の前で開いた。コンサート名は「母に捧げるバラード」。

「ちょうど友達とふたりで、すっぴんで歌う活動もしていたので、その彼と一緒に、母への感謝の思いを込めた歌をたくさん届けたんです。母もとっても喜んでくれて。やれてよかったなってすごく思います。

歌が大好きだった母からもらった音楽の素養で、亡くなる前に少しは恩返しができたと思うんです。自分にやれることはやれたという気持ちがあるので、悔いはあまりないんですよね。その後は母ちゃんがいなくなっちゃったし、またドラァグクイーンをちゃんとやってみようか、心配かける人もひとり減ったんだし、とむしろそう覚悟もできたんです」

ドリアン・ロロブリジーダ

「ピンチの時こそ、愉快なことを」。会社員から独立、コロナ禍を越えて

その後もしばらく会社員とドラァグクイーンを両立する生活は続いた。やがてパフォーマンスの依頼が増えるにつれ、働き方も変えていく。

「営業職から化粧品会社でのPRに転職したのですが、その頃は、平日は会社員で、土日はドラァグクイーン。ただ、会社の仕事でも土日にイベントやポップアップがあったので、ちょっとしんどいな、もう少しドラァグクイーンの割合を増やしたいなと思うようになり、週3日稼働でいいアパレルのPRに転職しました」

2020年には、ついに会社を辞めてドラァグクイーン1本に絞った。しかし直後にパンデミックが起こり、決まっていたイベント出演はことごとく中止に。独立から数ヵ月でドラァグクイーンとしての舞台を完全に失ったのである。

「でも、あの時は世界中がピンチだったでしょう。こういう時こそ、私たちが何か愉快なことをお届けしましょうと思ったんです。配信やYouTubeでいろいろな企画を考えて、試行錯誤しながらやっていました。

そのタイミングで、ドリアンを知ってくださる方がぐっと増えたんですよね。今のいろいろな仕事にもつながっていると思います。今思えば、台風が来る前のなにか不吉な予感と、それに向かって準備をする時に感じる不思議な高揚感、そういうものに突き動かされていたのだと思います」

ドリアン・ロロブリジーダ

「それがあんたのクイーンだったらそれもいい」

YouTubeやSNSでの発信を頻繁に行なったことで、人気を呼び、徐々にドリアン・ロロブリジーダの名が業界に知れ渡り始める。

新宿二丁目の店やイベントから、画面の向こうにいる人々へ。届ける場所が広がる一方で、ドリアン氏自身のなかでも、ドラァグクイーンとしてのあり方は変化していった。

「この20年間で、『ドラァグクイーンたるもの』という考えを、どんどん手放してきた気がします。最初は、ドラァグクイーンはすっぴんを出しちゃいけないとか、歌なんか歌っちゃいけないとか、自分で勝手にいろいろなものを狭めていたんですよね」

今では素顔でメディアに登場することもあれば、ステージで歌声を披露することもある。そのどちらも、自身に課していた制約を解いていくなかで広がった表現だった。

「そもそもドラァグクイーンって、世間が押しつけてくる男らしさ、女らしさを跳ねのけて、自分の好きなことをする存在。その私たちが、自分を『らしさ』で縛ってしまうのは、すごくナンセンスだなって。そう思うようになってからは、例えばメイクがすごく薄いドラァグクイーンがいても、『それがあんたのクイーンだったら、それもドラァグクイーンじゃない』と思えるようになりました」

悪趣味のなかにも上品さを。

派手なメイクと衣装に身を包み、自分とは異なる表現も認める。ドリアン氏の「上品さ」は、その懐の深さに宿っている。

ドリアン・ロロブリジーダ

TEXT=安井桃子

PHOTOGRAPH=干田哲平

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