Netflixの恋愛リアリティショー『ボーイフレンド』MCでも話題のドラァグクイーン、ドリアン・ロロブリジーダ。元営業マンであり、メディアでは素顔も披露する。この男は一体何者なのか。全4回のインタビューで、その半生と素顔に迫る。第3回は、サラリーマン時代に培った能力と、そのコミュニケーション術を聞く。#その他の記事

出会う人は全員、自分のファン予備軍
「ステージに立つより、よっぽど商談のほうが緊張しましたよ(笑)」
天まで伸びているのではないかと思うほどに巨大なウィッグ、銀色のスパンコールが周囲の光をミラーボールのように反射させるドレス。瞬きをすれば鳥が羽ばたくように上下するつけまつ毛。
そんな人間離れした格好の人物が「商談」という、人間界の言葉を発するのだから、一瞬耳を疑う。けれど、よく考えてみれば、その口調は穏やかで、気がつけば引き込まれてしまう話術も、実に営業職向きだ。
それもそのはず、ドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダは、かつて13年ほど、会社員をしながらドラァグクイーンの活動を行なっていた。
「見知らぬ場所でショーをしたり、ステージに立ったりすることって、営業の商談とすごく似ているんです。営業だって、ステージでだって、向こうは『さあ、どうきますか』と座ってこっちを見ているわけですから。その相手を魅了できるかどうか、営業もドラァグクイーンも、格好が違うだけ、結局同じことをやっているんですよ」
大学中退後に就職し、営業職から化粧品やアパレルのブランドPRへ。2020年に専業のドラァグクイーンとなった現在も、当時の経験はあらゆる場面で生きているという。
「PRの仕事ではいろいろなメディアの編集部を回って、その商品の魅力をいかにコンパクトに、印象的に伝えるかを考えていました。今では、その商品が自分自身に変わっただけで、やっぱり、やっていることは同じ。会社員時代の経験は、ひとつも無駄になっていないですね」

1984年東京都生まれ。2006年にドラァグクイーンとしてデビュー。会社員との両立を経て、2020年に独立。Netflixの恋愛リアリティショー『ボーイフレンド』のMCを務めるほか、映画『エゴイスト』(2023年)に出演するなど、歌手・俳優としても活躍。2026年10月には札幌・大阪・東京で活動20周年記念公演「The Entertainment!! 20th Anniversary Special」を開催。12月25日公開の映画『BYE BYE LOVE 探偵はBARにいる』にも出演する。年末にかけて初のソロミニアルバムをリリースし、2027年には同作を携えた全国ツアーを予定している。
目の前の相手に、何をどう伝えるか。相手の関心を探り、その「商品」の魅力を届けるという仕事を、ドラァグクイーンになった今でも続けている意識なのだという。
ドリアン・ロロブリジーダであり、大竹正輝、現在41歳。会社員時代から初対面の人に会うことが好きだった。
「商談も好きでした。『どうも、大竹で〜す!』という感じで毎回行っていましたね。もちろん、売り手側なので、うまくいかないことのほうが多いんですよ。それでも、うまくいった時はやっぱりうれしい。楽しかったですね」
女性っぽい、いわゆるオネエの話し方は、営業マン時代は小出しにする程度、一方、PR時代には全開にして、その話術で営業先にファンを多く作った。
「出会う人は全員、自分のファン予備軍だと思っているんです。この人も、この人も、私のファンになり得る人だと思うと、わざわざツンケンするより『こんにちは〜!』と自然と、感じよく振る舞いたくなるんですよね。そうしていれば自分も相手もハッピーでしょう?」
けれど、世の中にはどうしても「自分のファンにはなってくれないな」という相手もいるだろう。そういう相手の場合にはどうするのだろうか。
「そういうこと、ありますよね〜。でも、そういう時は『この人、センスがないわね』って思うだけ(笑)。落ち込まないしツンケンはしない!」
相手の反応まで思いどおりにしようとはしない。その軽やかな線引きもまた、人と接することを楽しみ続けるための知恵なのだろう。

その場だけでもいいから相手に興味を持つ
新宿二丁目のバーで働いていた頃も、お客に何を話しかけても会話が広がらないことはあった。そんな時は「諦める」と、あっさり言う。
「でもね、当時お店のママにこう言われたんです。『9割、相手の話を聞いて、1割、ようやく自分のことを話しなさい』って。お客様は話をしに来ている。いろいろなことを話して、心の荷物を下ろしに来ているんだから、あんたの話は後でいいの、と。私、おしゃべりだから実践できていたかというと、できていなかったかもしれませんけど(笑)」
まずは相手の話を聞く。そのうえで、自分との共通点を見つけ、話を広げていく。ドリアン氏が二丁目で培った、コミュニケーションの基本だ。
「その場だけでも相手に興味を持つと、『仕事だから聞いています』という感じがなくなるんですよね。『それで、それで? どうなったの?』って、自然に聞きたくなってくる。そうしたら向こうも心を開いてくれるでしょ」
相手を楽しませるには、まず気持ちよく話してもらうこと。そのために、相手の話を自分も本気で楽しんでみる。それは商談でも、職場の会話でも実践できることだろう。

自分を許せれば、他人も許せる
新宿二丁目に長くいて、さらには営業職からメディアで話す仕事まで、さまざまな経験をしてきた。「余計なことを言ってしまった」と後悔する夜は幾多もあった。大学を辞めた時には自己嫌悪に陥ったし、恋愛や進路に悩んだこともある。それでも、自分のことを嫌いになった日はないのだという。
「私の強みは、自己顕示欲と、自己愛。私は本当に自分のことが大好きなんです。どれだけダメなことをして、どれだけダメな状態になっていても、自分のことが愛しくてたまらない。これってつまり最強の状態なんですよ」
街を歩く時さえ、気分はランウェイ。「私を見て!世界!!」という「自己顕示欲全開」の気持ちなのだと笑う。
「そりゃ、街ですっぴんの私のことなんて誰も見ていませんよ。でも、そういう気分で歩くと楽しくなるんです。年齢を重ねると、ダメな自分も『そうそう、それが私だよね』と思えるようになってきて。自分を許したり、愛したりできると、他人も許せるような気がするんですよね。自分も不完全だけれどかわいい。だったら相手が不完全なのも、当たり前じゃないですか」
自分の欠点を認めることが、他者への寛容さにつながる。完璧な自分を演じ続ける必要がなくなれば、周囲に求めるものも変わっていくのかもしれない。

やめろと言われても、やめられないものが強み
自分の強みを「自己顕示欲と自己愛」と定めて前に突き進み続けるのが、ドリアン・ロロブリジーダ。最強すぎるマインドゆえ、一般人にはなかなか真似できることではないが、それでもドリアン氏はこう言う。
「自分の強みってね、見つけるのは簡単です。やめろと言われても、やめられないもの。それが、その人の大切にしていることで、結果的に強みなんですよ」
ドリアン氏いわく、例えば、仕事でつくるパワーポイントの資料。「そんなに細かくなくていいから」と言われても、どうしてもこだわりたい部分がある。お金も時間もかかるのに、毎晩のように人に会いに行ってしまう。周りには非効率に見えても、本人には譲れないもの。それこそが、その人の強みなのだという。
「『そんなことをしないほうが楽じゃない?』と言われてもやってしまう。コスパやタイパを度外視してしまうものが、その人にとって本当に大切なものなんだと思います」
ドリアン氏自身、ドラァグクイーンとして生計を立てられるとは思っていなかった。それでも、衣装をまとい、人前に立つことが好きだった。会社員として働きながら続けたその楽しみが、やがて現在の仕事になった。
「そもそも、成功って人それぞれでしょう。他人の成功の法則ばかりを追いかけることもしないようにしています。ちなみに私ね、第一印象はいいんですけれど、そこからの伸びがあまりないんですよ(笑)。でも会社では、最初は冴えないなと思われていた人が、後から怒涛の追い上げを見せることがあって。だからそれぞれが、自分の特徴を生かしてやるしかないんですよね」
セミナーや自己啓発本にも、「そういう考え方もあるのね」と耳を傾ける程度。そのうえで、自分に合ったやり方を探し、続けていくことを大切にしたいという。
「他人の金言ばかり見ていないで、不器用でも自分のやり方を貫いていったほうが、結果的に近道になるような気がします。まぁコツコツ続けることが、一番難しいんですけれどね。でもコスパやタイパばかり気にしていたら、人生つまらなくなってしまう。寄り道や道草、曲がり道が人生の醍醐味だと思うので」

最後に、ドリアン氏にとって仕事とは何かを尋ねた。
「大人になると、社会や他者との関わりの大半が仕事だという人も多いでしょう。人生のなかで、それだけ大きな時間を使っているわけですから、とにかく楽しまないと損!仕事はね、もう楽しんじゃって!」
商談がうまくいった時の喜びも、ステージで拍手を浴びる喜びも。ドリアン氏は、その時々の仕事のなかに楽しさを見つけてきた。自分の好きなことを知り、目の前の人に興味を持つ。その積み重ねが、ドリアン氏の働く日々を、よりいっそう輝かせている。

