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2026.10.07

博報堂DYHD、変革のためのファイナンス戦略とは?「自分の身の丈に合わせてやっているだけでは成長しない」

GOETHEとファイナンスプラットフォーム「FINCHI」がタッグを組んだメディア「GOETHE Finance powered by FINCHI」。ビジネス界で圧倒的な実績を持つリーダーたちは、「ファイナンス」をどのように捉え、活用しているのか。その最前線の思考に迫ることで、日本における「ファイナンス」をカルチャーとして定着させていく。今回は博報堂DYホールディングス取締役副社長の矢嶋弘毅氏を取材。前編では、同グループが広告代理店から「クリエイティビティ・プラットフォーム」へと変革する最中であると語った矢嶋氏。後編では、その変革をスピーディーに実現するための、M&AやJV(ジョイントベンチャー)などを駆使したファイナンス戦略に迫る。

ファイナンスについて語る矢嶋氏

M&AもJVも戦略実現のための手段

必要なナレッジや機能を得る方法はM&Aだけではない。共同出資やJV、グループ内部の統合・再編など、選択肢はさまざまある。

「M&Aはその会社をグループのなかに取りこみたい時。一方でJVは双方のナレッジやアセットを融合したい時ですね」

矢嶋氏がその例として挙げるのが、NTTデータ社とのJV。双方の強みを持ち寄り、新たな価値を生みだすには、JVという形が適していると判断した。

M&AやJVは成立すれば終わりではない。仲間になった企業や人材を、いかにグループの力へ変えていくか。矢嶋氏は、その鍵を「同質性と多様性のバランス」と表現する。

「カルチャーがあまりに違えばうまくいかない。でも、同じような会社ばかり集めても新しいものは生まれません。外から違う人が入ることで化学反応が起こることもある。だからこそ、同質性と多様性のバランスが重要なんです」

一方、多様な企業や人材を束ねるための価値観の共有も欠かせない。矢嶋氏が「博報堂らしさ」として挙げるのが、長年掲げてきた「生活者発想」と「パートナー主義」、そして「自由で風通しがよく、上意下達になりすぎないカルチャー」だ。こうした価値観をいかに共有し、多様性を新たな力へと変えていくことも重要になる。

また、グループ内部の組織再編でも、時代の変化に応じた最適なフォーメーションを追求してきた。2022年にはテクノロジー人材や開発機能を集約する企業、博報堂テクノロジーズを設立し、2024年にはDACとアイレップを統合・再編してHakuhodo DY ONEを立ち上げた。

「市場が変われば、最適な組織の形も変わります。AIがさらに進化すれば、必要な人材や機能も、これまで以上のスピードで変わっていくでしょう」

つまり、M&AもJVも組織再編も、それ自体が目的ではない。あくまで、描いた戦略を実現するための手段なのである。

そのうえで投資先も、たとえば次の3つに分けて考える。ひとつ目は、従来のマーケティング・コミュニケーションビジネスに加え、コンサルティングなど企業のマーケティング経営をサポートする、マーケティング・ソリューション事業、テクノロジーなどの「主力領域」。ふたつ目は、コンテンツやIPなど主力領域に隣接したビジネス領域である「隣地領域」。そして3つ目は、新しい市場を開発・参入する、インキュベーションビジネスという「飛び地領域」だ。

その「飛び地領域」では、2019年にCVCを担う博報堂DYベンチャーズを設立し、「HAKUHODO DY FUTURE D ESIGN FUND」を組成。米国シリコンバレーを拠点とするWorld Innovation Lab(WiL)が運営するファンドなどにも出資し、未来のパートナーとの接点を広げる。

ファイナンスについて語る矢嶋氏
矢嶋弘毅/Hirotake Yajima
1961年生まれ。一橋大学社会学部卒業後、1984年に博報堂
入社。1996年、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)の設立を主導し、初代社長に就任。博報堂DYメディアパートナーズ社長などを経て、現在は博報堂DYホールディングス取締役副社長、博報堂取締役副会長。

AI時代の今こそ「大志」が経営を動かす

同グループは2024年、グローバルパーパスとして「生活者、企業、社会。それぞれの内なる想いを解き放ち、時代をひらく力にする。AspirationsUnleashed」を掲げた。背景には、AIによって“知恵の格差”さえ縮まりつつある時代に、人間をどう位置付けるかという問いがある。

「私たちは、AIには“3つのA”があると考えています。それが『Automation(自動化・効率化)』『Augmentation(人間の知恵や創造性の拡張)』、そして『Aspiration(大志)』です。効率化と拡張だけでは、『人間が何をしたいのか』が抜け落ちかねない。AIに使われるのではなく、人間が主体になって『どういう社会にしたいのか』という大志を持たなければいけない。私たちの戦略である『AI-POWERED CREATIVITY』も、AIを活用した人間のクリエイティビティなんです」

では、そうしたファイナンスを実現するため、ファイナンスはどのような役割を果たすのか。矢嶋氏が掲げるキーワードが、「PL経営からBS経営へ」だ。

「単年度のPLを一番よくすることだけを、最大の経営課題にしてはいけない。これからはBSを大きくしていくことも考えていかなければいけないと思っています」

企業の資産・負債・純資産の状態を示すBS。そのBSを大きくするとは、単に、投資によって資産規模を膨らませるという意味ではない。必要であれば外部から資金調達し、未来の競争力につながる企業や技術、人材、データ、テクノロジーへ資本を振り向け、その成果を中長期の企業価値へとつなげていくということだ。

「資金調達の手段もいろいろありますよね。銀行から借りることもできるし、社債やエクイエティで市場から調達したっていい。より重要なのは、『何をやらなければいけないのか』という戦略とのバランスです。とはいえ、資金は無限ではない。ただ一方で、手元資金ばかりを気にして、自分の身の丈に合わせてやっているだけでは成長しない。そのバランスを判断するのが経営です。『AI-POWERED CREATIVITY』、そして、AIと人間が共生する社会を実現していくために、人のような無形資産も含め、どこに投資し、何を積み上げるのか。今はそこが非常に重要な時期です」

そして、その投資において矢嶋氏が最も重視するのが、自社側に「大志」があることだ。

「投資して、その会社や事業をどう発展させたいのか。どんな市場に入り、どのくらいの規模を目指し、どれくらいのシェアを取りたいのか。そうしたビジョンがこちら側にあることが何よりも大事なことです」

ファイナンスについて語る矢嶋氏

未来に必要な力を手に入れるファイナンス

かつて、大規模な投資を必要としなかった広告会社。しかし、インターネットによって情報の価値が変わり、デジタル化でテクノロジーへの投資が不可欠となり、今またAIによる新たな変革期を迎えている。

博報堂DYグループはそのたびに、必要な知を取りこみ、異なる力を結びつけ、組織を組み替えることで進化し、価値を提供し続けてきた。ファイナンスとは、単に資金を調達するためのものでも、事業規模を拡大するためのものでもない。どんな未来を実現したいのかという大志を描き、その未来に必要な力を得るための経営手段なのだ。

「自分の身の丈に合わせてやっているだけでは成長しない」

矢嶋氏のこの言葉は、変革期を生きるすべての企業に向けられている。

ファイナンスでたどる博報堂DYグループ変革の歴史

1996年・共同出資 DAC設立。ネット広告市場を切り拓く
博報堂、読売広告社などの共同出資で設立。矢嶋氏が初代社長に就任し、2001年に上場。

2003年・経営統合 博報堂DYホールディングス設立
博報堂、大広、読売広告社が経営統合して立ち上げ。3 社のメディア機能を統合した博報堂DYメディアパートナーズも設立した。

2006年・資本業務提携 アイレップと提携し運用型広告に対応
検索連動型広告に強みを持つアイレップと提携し、予約型広告から運用型広告へのシフトに対応。2010年に連結子会社化。

2018年・大型ファイナンス DACHD完全子会社化でデジタルの主導権を強化
D.A.コンソーシアムホールディングスを100%子会社化。グループとして初めて1,000億円超の大型借り入れに踏み切った。

2019年・CVC 博報堂DYベンチャーズ設立
HAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUNDを組成し、スタートアップとのオープンイノベーションを加速。

2022年・TOB ソウルドアウトを買収し、市場を拡大
地方・中小・ベンチャー企業へのデジタルマーケティング支援を拡充。デジタル領域のロールアップ戦略のひとつ。

2024〜2025年・グループ再編 Hakuhodo DY ONE設立。博報堂DYMP統合
DACとアイレップを統合・再編し、Hakuhodo DY ONEを設立。さらに博報堂と博報堂DYメディアパートナーズを統合した。

2025年・TOB デジタルホールディングスを完全子会社化
傘下の大手デジタルマーケティングエージェンシ・オプトを連結子会社化とし、デジタル領域をさらに強化。

――FINCHIは、出資・M&Aを検討する事業会社同士をダイレクトに繋ぐファイナンスプラットフォームです。

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TEXT=近江瞬

PHOTOGRAPH=嶋本麻利沙

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