PERSON

2025.05.05

宝塚元花組トップスター柚香光、初の女性役に挑戦「脇の卵一個分の空間を必死に潰しています(笑)」

舞台に現れた瞬間、観客の視線を集めるような華、高いダンススキルと舞台センスで、宝塚歌劇団在団中、絶大な人気を誇った元花組トップスターの柚香光。退団後初の演劇作品となる劇団☆新感線『紅鬼物語』で鬼を演じる。

男性相手の芝居は今回が初めて

約1年前の5月26日、宝塚歌劇団を退団した柚香光。退団後、ショースタイルでおこなわれたコンサート(『TABLEAU』)、やパリ・オペラ座バレエ団のエトワールであるマチュー・ガニオ本人からの指名を受けた『マチュー・ガニオ スペシャル・ガラ ニューイヤーコンサート』などに出演してきたが、ようやく待望の演劇作品に出演する。それが、ド派手な演出と重厚な世界観で人気を博す劇団☆新感線の『紅鬼物語』だ。

「在団中から劇団☆新感線さんの舞台は観劇していて、初めて観たのが『髑髏城の七人』でしたが、そのときのインパクトがすごかったです。まず舞台から発せられるパワーと華やかさと活気に圧倒されましたし、シリアスな物語の中にも、軽やかなコメディシーンがあり、そのバランスも楽しくて。さらに、心臓を引っ張られるような音楽に、迫力満点の殺陣。とくに殺陣は、刀が合わさるたびに効果音がかかり、とても臨場感がありました。しかも、そんなに華やかでスケール感がありながらも、どこか温かさもあって、お客様に対して押し付けがましさがないところが魅力ですよね」

宝塚時代は男役として活躍してきた柚香だが、今回演じるのは女性役。

「これまでの舞台と違いを大きく感じるのは、やはり自分が女性役として男性とお芝居をさせていただくというところです。男性相手の芝居は今回が初めてのこと。何より、男性は男性を作らずに演じられますし、私自身も、男役のときとは基本的な所作、体の使い方や筋肉の神経の行き届かせ方が全然違います。たとえば男役のときは、脇に卵1個分の空間をあけて姿勢を作っていましたが、今は、その卵を必死に潰しているところです(笑)。自分の中でどんどん課題を見つけていっている段階です」

とはいえ、自分ではない物語の中の人物を想像し、理解し、立ち上げていくという、役作りの基本は変わらない。

「大事なのは役として舞台上で存在できているかであって、男役としてのクセが出ることが必ずしもNGとは思っていません。場面によっては、男役として培ってきたことを生かせたりもしますし、そのバランスの取り方は、今、稽古しながら調整しているところです」

宝塚時代の公演に追われる日々が落ち着き、どんな日常を過ごしているのかと問うと「毎日必ず換気します。換気大好き人間です(笑)」とチャーミングな回答が。

稽古場でお腹を抱えて笑っています

『紅鬼物語』は、平安の世を舞台に、鬼でありながら人間の妻となり母ともなった紅子と、10年前に娘とともに失踪した妻・紅子の行方を探す夫・蒼をめぐる物語。柚香が演じるのはその紅子だ。

「今、稽古で紅子を探す作業をしておりますが、とても楽しく、前のめりになってやっています。鬼ということで、当初は、人間界で生きていながらもふとした瞬間に豹変するようなキャラクターをイメージしていたんです。でも紅子は、愛情深く、情け深いゆえに、自分の存在に対して苦しみ悩み、そういうものを心の奥底に秘めながら暮らしているキャラクターでした。その切なさや苦しさ、悲しさが、作品の中に溢れていて、それを演じさせていただけることがとてもありがたいです。そして、鬼でありながら紅子が持ち合わせている、人間らしい優しさや、妻として母としての愛情……役を通して、私自身がいろんなことを学ばせていただいています」

これまでにも“鬼”は多くの作品の中で描かれてきたが、本作で劇作家・青木豪が描き出す鬼とは、どのような存在なのか。

「鬼とはどういうことなんだろうとつねに考え続けています。人間誰しもの中に鬼がいて、世の中には鬼が溢れている……そう考えると、人間を考えるということでもあるんですよね。自分の中にもいる鬼という存在に目を向けることで、学ばされることも多いです。紅子は、鬼という自分の本能のようなものを全部封じ込めて、人間の世界で人間を尊重して生きてきたんです。それだけ人への愛情が強かったんでしょうし、すごいなと思っています」

演出を手がけるのは、劇団☆新感線の主宰でもあるいのうえひでのり。演出家によって稽古の進め方が違うのは当然のことだが、演出家・いのうえひでのりの演出スタイルは独特だ。“役づくり”においては、まず役の感情を理解しそこにのっとった動きをするものと考えがちだが、いのうえの場合は真逆で、まずは“型”ありき。舞台上での見映えを考えて立ち位置を決め、そこからどこに向かって何歩歩いて、どのタイミングでセリフを発するのかをやってみせる。俳優が稽古で“型”を体に染み込ませていくなかで、役としての感情がついてくるという。

これまで多くの俳優が、その演出について「言われたように動くと客席から笑いが起きる」と語っているのだから、長年培ったいのうえのセンスと勘が確かなのだろう。

「宝塚歌劇団にもいろんな演出家の先生がおいでになり、それぞれに演出のスタイルが違いますから、そこに戸惑うことはなかったです。ただ、私が扮する紅子が村で楽しげな様子をみせる場面があり、いのうえさんが『宝塚ファンの方は、どんなふうに思うんだろうね。こういう柚香さんは見たことないだろうから』と嬉しそうにおっしゃっていたのが印象的でした。私自身は冷や汗が出ましたけれど(笑)」

どんなシリアスな物語でも、ベタなギャグなど、バカバカしい笑いのスパイスが効いているのが劇団☆新感線。ただ、柚香自身には笑いを担う場面がないそうで、「チャンスがないんです」と残念そうな表情を見せた。クールな雰囲気だが、面白いことも好きな人なのだ。

「楽しそうな劇団員のみなさんを見ながら、稽古場でお腹を抱えて笑っています。いのうえさんをはじめ、劇団☆新感線の劇団員のみなさんが、稽古場の空気を温めてくださり、自分が新参者であることを忘れてしまうくらい」

柚香光/Ray Yuzuka
1992年東京都生まれ。宝塚音楽学校を経て、2009年に宝塚歌劇団に入団。幼い頃から培ったバレエのスキルと華のある容姿で早くから注目され、数々の公演で主要な役柄に抜擢。『はいからさんが通る』や『花より男子』などに主演し、2019年に花組トップスターに就任。2024年の退団後は、『マチュー・ガニオ スペシャル・ガラ ニューイヤーコンサート』などに出演。2025年7月には『BURN THE FLOOR(バーン・ザ・フロア)-COLOR MY HEART-』、同年12月より舞台『十二国記-月の影 影の海-』に出演予定。

毎日が新しくあらゆる時間が学び

10代で宝塚音楽学校、そして宝塚歌劇団で青春を過ごしてきた。舞台に立ち、芸を極めるという根本的な部分は変わらないが、退団して生活環境も、日々の暮らしも、出会う人々も大きく変化したはず。

「濃い1年でした。宝塚では組があり、つねにその仲間と一緒に舞台を作っていて、気心の知れたみんなと毎回新たな作品に出会っていく日々でした。その時間はとても掛け替えのないものでしたが、今は、毎回が初めての環境。初めてお目にかかる方と新たな作品に出会っていくあらゆる時間が学びです」

 インタビューの中で印象的だったのが何度も“学び”という言葉を口にしていたこと。つねに謙虚に、そして貪欲に、しかし軽やかに。新たな環境で、柚香光はさらに変化を繰り返しながら進化を続けてゆく。

2025年劇団☆新感線45周年興行・初夏公演
いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective
『紅鬼物語』

劇団☆新感線45周年興行第一弾。舞台は平安時代。10年前の妻・紅子(柚香光)と娘の藤(樋口日奈)の失踪が鬼の仕業に違いないと信じる貴族・源蒼(鈴木拡樹)は、ふたりを取り戻すために旅に出るが――。
出演:柚香光/早乙女友貴、喜矢武豊、一ノ瀬颯、樋口日奈/粟根まこと、千葉哲也/鈴木拡樹ほか
作:青木豪
演出:いのうえひでのり
2025年5月13日(火)~6月1日(日)大阪・SkyシアターMBS、6月24日(火)〜7月17日(木)東京・シアターHにて上演 

TEXT=望月リサ

PHOTOGRAPH=彦坂栄治

STYLING=大園蓮珠

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