樹齢700年の古木を愛でて過ごす。時間という価値を知る人こそ、そんな時を重ねたものに心を寄せ、自らの世界に深く没入する。そんな至福の趣味空間を訪ねた。【特集 自分の世界に浸れる家】

樹齢700年の古木を愛で、悠久の時と暮らす。偏愛の趣味空間
今、経営者やクリエイターの間で注目を集めているのが「庭づくり」だ。そんな深淵なる世界を具現化したのが、不動産や飲食を手がける実業家X氏の芦屋の自宅庭園である。2026年7月、築40年の一軒家をフルリノベーションして新生活を始めた。プラントハンターの西畠清順氏に依頼し、ともにつくり上げた庭は圧倒的な美意識と偏愛がぎっしり詰まっている。
「人の手だけではつくれない、自然と時間が生みだす表現が古木にはある。そこに惹かれて」と話すX氏。リビングの大きな窓枠に切り取られた景色は、アートそのもの。抜け感もある造形美に魅了され、「毎日庭にいる」と言う。
葉巻を片手に庭を歩き、樹々に触れながら思索にふけるのが毎朝の日課。かつては塊根植物を何十鉢も蒐集していたほどの植物好きだった。自然の営みやサステナブルにも通じる盆栽や庭にのめりこんだのは、ごく自然な流れだったのかもしれない。
この庭の最大の魅力は、ゾーニングの見事なグラデーションと、数百年の時を重ねた樹々や石の存在感にある。象徴ともいえるのが、はるばるスペインからやってきた樹齢700年のオリーブ。室内からの目線に合わせて高さや枝ぶりが緻密に計算されており、X氏も一番のお気に入りだ。
美意識と偏愛が詰まった自宅庭園
庭は、ふたつのゾーンで構成されている。近隣からの視線を優しく遮るように常緑樹が茂り、年々モコモコと成長していく森のゾーン。ここでは常緑樹の中に、シダレザクラや珍しい枝垂れ性のシャラノキ、エゴノキ、エンジュ、モミジといった下垂する樹々が滝のように流れをつくり、春から夏にかけて白い花を次々に咲かせて季節を告げる。もう一方は、オリーブをつなぎ目にして広がる格式あるゾーン。樹齢500年クラスのクロマツやシンパク、西畠氏が福島で巡り合った空を映す大きな水鉢、時代を経た軽石を使った枯山水庭園が静謐な佇まいを見せる異なるふたつの世界観が、まるで陰陽のように美しく対比をなし、観る者をぐっと引きこむ。
盆栽や古美術を愛するX氏と、そのディープな美意識を的確に汲んで形にした西畠氏。ふたりがつくり上げたこの庭は、完成して終わりではない。
「春夏秋冬で景色が変わるし、樹々は育つ。秋が来て冬が来て、また春が来るのが楽しみです」
植物の息吹を肌で感じ、時を重ねる過程を慈しむ。そんなひと時が、慌ただしい毎日に確かな充足をもたらしている。
この記事はGOETHE 2026年12月号「総力特集:陶酔の没入邸宅」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら





