ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回は、日本文藝家協会 編 『ベスト・エッセイ2026』をご紹介。

日本文藝家協会 編 光村図書出版 ¥2,475
何度もページ上に立ち止まる読書の悦び
大阪出張へ向かう新幹線に本書と乗車した。いつもなら「のぞみ」のスピードで読むが、なかなかページがめくれない。お菓子の乾燥剤、ハンカチ、お品書き……私がそっぽ向いてきた日常の脇役たちが巧みに切りとられ、示唆に富んだ小さな物語となって押し寄せてくるからだ。
何者が何故(なにゆえ)にこんなことを想うのだろう? 各エッセイの著者の名前を検索すると、僧侶、学芸員、ファッションデザイナーだったりするので、ウィキペディアで調べ、インタビュー記事にも飛び、ますます進めない。ようやく本に戻ると、含蓄ある言葉が倍がけで沁みていく。その繰り返しなのである。
幾度となくページ上に立ち止まるうちに、妙に安らいでいた。78人の書き手が投げかける問いや共感が、せかせか生きている私の胸に「しおり」のように挟まり、本を閉じる。逢いたい人、帰りたい場所、戻れない季節が浮かんで、車窓を流れる原風景を見つめる。これぞエッセイの醍醐味であり、本書の値打ちだと感じた。結局、道中で3分の1しか読めず、夜のホテルのベッドに一緒に潜りこんだ。立ち止まらせてくれる本は、間違いなく良書である。帰りは「こだま」でのんびり戻ってみようと決めた。
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として数々の人気番組を担当。NSCの講師も務め、令和ロマンなど教え子をM-1に輩出。著書に『時間と自信を奪う人とは距離を置く』がある。

