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2026.11.03

伝説的建築家・吉村順三が手がけた、ストイック×粋な軽井沢の邸宅に潜入

家は、ただ身体を休める場所ではない。ゴルフにサウナ、建築美、そして都市の中に再構築された自然──。好きなものに囲まれ、日常のノイズから解き放たれ、自分の世界へと深く潜っていく。3人の邸宅にあったのは、常に心に「また還りたい」と思わせるほど、人生に欠かせない暮らしのかたちだった──。今回は、ランドウェル代表取締役/チャンバーフェローズ ブランドディレクターの土屋芳隆邸を紹介する。【特集 自分の世界に浸れる家】

土屋芳隆邸のリビング

吉村順三×BBQ。時代を超えて愛でる家

広いテラスで、木々の葉が揺れる音に耳をすませる。窓は大きく開け放たれ、リビングとテラスを分け隔てるものはない。緑の風と、キッチンから漂ってくるなにやら香ばしい薫り、その両方を身体いっぱいに感じれば、こんな声が聞こえてくる。

「さあ、BBQの下準備ができましたよ」

お手製の料理とBBQ用の食材を運んできてくれるその人は、“ひらけ、あそびゴコロ。”をコンセプトにするアウトドアブランド、チャムスを展開するランドウェル代表取締役の土屋芳隆氏だ。

土屋氏がこの軽井沢の邸宅を別荘として手に入れたのは13年前。この建築は京都・俵屋旅館の改設計などを手がけた今は亡き日本を代表する伝説的建築家・吉村順三によるものだ。西洋モダニズムと日本の伝統建築を融合させた建築に土屋氏は惚れこんだという。実際に吉村建築の中で過ごして気がつくことがある。

「窓ひとつひとつの位置が恐ろしいほどに計算し尽くされているんです。そしてその窓枠ひとつとっても景色を邪魔しないよう最小限におさえられています。とにかくどこをとっても景色を完璧に見せることをストイックに追求した建築なんですよ。決して派手なところはありません、けれどまったく隙がなくつくられていることがよくわかる。ここにいれば『仕事というものはこういうものなんだ』と言われているようで、背筋を正されるような感覚になるのです」

窓などの金具も、既製品はどこにもなく、すべてが吉村順三の意図によるオリジナル製品。ひとつ壊れればもう代わりはなく、だからこそ丁寧に使い続けているという。

粋というものはなんなのか

土屋氏の購入当時で築20年ほど。傷みもほとんどなく、白い壁を塗り直した程度で、当時の建築のまま、現在も使用している。このストイックな空間で、それでも遊び心を追求していきたい。そう考えてピカソや歌川広重など、ジャンルを問わず土屋氏が「粋」だと思うアートをここに集めている。

「粋、とはなんなのかを最近は考えています。九鬼周造という哲学者の『いきの構造』という本をこの空間で読むのが、今はなんだか、いい時間なんですよね」

アメリカのブランド、チャムスを展開しながら、2025年からは「粋」という日本独自の美意識を表現するブランド、チャンバーフェローズを始動させた。普遍的なデザイン、上質な素材、そしてそこに遊び心を忍ばせる。目指すのは長く愛され、いつまでも古くならないもの。それはこの吉村建築からも学んでいる。

「チャムスの軽やかな感じとチャンバーフェローズの大人の粋。今はその両極端を楽しんでいます。あそびゴコロを追求しながらも、このストイックな家で背筋を正す、それもまた両極端でしょう」

ここで食材と向き合うのが最高の贅沢

料理が好きで、時には社員食堂で腕を振るうこともあるという土屋氏。ここに来れば、家族や仲間たちのために料理をつくり、テラスのBBQコンロに火を入れて肉や魚を焼いて振る舞うのがなんとも楽しい時間となる。

「ここで食材と向き合うのが、最高の贅沢です。もっと本格的に料理ができるように、壁を壊してオープンキッチンにしようかなとも考えたのですが『吉村建築になんてことを』と止められたことも(笑)」

そういたずらっぽく笑う土屋氏。すべてを計算し尽くし、極限まで無駄を省いたストイックな場所。そこで自分なりの楽しみをとことん膨らませるのが、土屋氏ならではの名建築との付き合い方なのだ。

Home Details

01|緑を眺めるための構造

玄関は2階にあり、リビングに入った瞬間小高い場所から緑を眺められる。テラスの手すりは低く、リビングの椅子に座った際に景色を遮らない。

02|好きを追求するインテリア

建築がストイックゆえ、インテリアは世界観を統一するよりも好きなものを集める。アートは重厚ながらも明るい色を選び、建築に花を添える。

Data
所在地:長野県軽井沢
敷地面積:3,146㎡
延床面積:318㎡
デザイン:吉村順三設計事務所
設計:吉村順三設計事務所
構造:木造、地上2階建て

土屋芳隆/Yoshitaka Tsuchiya
1962年東京都生まれ。ランドウェル代表取締役。証券会社、商社を経て、1992年に同社を設立。「チャムス」を日本・アジアで展開。2025年に、日本独自の美意識「粋」を表現するブランド、チャンバーフェローズを始動。

【特集 自分の世界に浸れる家】

この記事はGOETHE 2026年12月号「総力特集:陶酔の没入邸宅」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

TEXT=安井桃子

PHOTOGRAPH=長尾真志

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